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第十九話「さようなら、もふもふ。」




 〈異世界十六日目〉







 ラルアークはちいさな太陽のようだった。


 昨日一日部屋で過ごしたため、エネルギーがたまりすぎて爆発しそうになっているのだ。

 しかし、だからといって外へ連れ出してやるわけにもいかないので、あたしはラルアークを誘って宿屋内の探検に行くことにした。

 高級な宿屋だけあって、ここは中がひろい。

 そして、上の方の階に営業前のカジノを見つけた。

 あたしは掃除をしている宿の人にコッソリとワイロを渡して入らせてもらい、ラルアークにいろいろすすめてみた。

 トラ少年はダーツにハマり、かなりのノーコンぶりを披露してくれながら、投げては取りに行くという往復でそれなりに体力を消費していた。

 あたしは見てればいいだけだったので、とても楽だった。





 昼ごはんを宿の二階にあるレストランみたいなところで食べていると、吟遊詩人の青年と知り合いになり、ラルアークがなついた。

 よければ部屋で歌いますというので、宿の人にそういうのはかまわないのかと聞いてみたら、魔道具の玉を貸してくれた。

 じーっと見ていると、それに込められている魔法を構築する魔法陣が見えたが、あたしが知っている文字ではなかったので、それが何を意味しているのかはわからなかった。

 とにかく水晶玉みたいなそれを部屋にあるキャビネットの上の台座に乗せると、音が部屋の外にもれるのを防いでくれるらしい。

 便利だねー。



 宿の人に飲み物と軽食を頼み、吟遊詩人に部屋へ来てもらってラルアークのせがむ物語を歌ってもらった。

 なかなか綺麗な声のおにーさんで、あたしにとっても興味深い物語を歌ってくれた。





 はるか昔の英雄譚。

 勇者による魔王討伐の物語。





 感想。

 長いよ。





 どんだけかかんの討伐、っていうくらい終わらない話だった。

 ラルアークはしばらくはしゃいでたけど、どれだけ聞いても魔王にたどり着かない上に終わらないので、途中で飽きて別の話を所望した。


 あたしは悲しげにため息をつく吟遊詩人に、結末だけ聞いておくことにした。



「その勇者って、魔王討伐した後、どうなったの?」

「初代の勇者は、サーレルオード公国の礎となられたそうです・・・」

「いしずえ?」

「えー・・・、つまり、大公になられたのです。」



 帰ってないの?!

 驚愕の事実である。


 あたしはおそるおそる訊いた。



「に、二代目は・・・?」

「魔王の城で、最終決戦の最中、魔王とともに姿を消されたそうですよ。」



 それってさー。

 ・・・・・・行方不明だよね?





 勇者の足取り。

 えらいあっさりわかっちゃったけど。

 これをどーしろと・・・・・・?





 沈没する船のごとく倒れて起き上がれなくなったあたしをよそに、ラルアークは吟遊詩人に次の歌をねだっていた。


 吟遊詩人はうまいことラルアークのお守をしてくれたが、後でけっこーな金額を要求してきた。

 値切る気力なんてなかったし、それだけの仕事をしてくれたような気がしたので、そのまま払った。

 吟遊詩人はほくほく顔で帰っていった。





 夕飯は部屋で食べた。

 食欲のないあたしを、ラルアークが心配してくれた。

 やんちゃだけど優しい子だ。


 今日もラルアークと同じ部屋で休むことにする。

 吟遊詩人から得た思いがけない情報に動揺していたが、今はそれよりも、帰ってこないレグルーザたちが心配だった。


 まるまって寝た。







 〈異世界十七日目〉







 部屋に朝ごはんを持ってきてもらい、ベッドから落ちかけている豪快な寝相のラルアークを起こして食べさせる。

 レグルーザはやんちゃ少年にもある程度の話をしていたようで、ラルアークはもうじき自分が里へ帰ることになっているのを理解していた。

 そして、どうにもそれが気に入らない様子で、ぐずっていた。

 もういらない、と食事を拒否したので、あたしは亜空間からお菓子を出した。

 子どものしつけという点ではまったく良くないことだろうが、こんなふうに過ごせるのも今日が最後だろうと思うと、いくらでも甘やかしてやりたかった。


 甘いものはいくらでも入る、胃袋って不思議。

 ラルアークとあたしはベッドの上でお菓子を食べながらごろごろして、突然、ものすごい勢いで飛びこんできたレグルーザに「おかえりー」と声をそろえた。

 レグルーザはあたしたちを見て、えらい脱力した。

 なんか捕まえたヤツにあたしたちのことをほのめかされて、イロイロ脅されたらしい。


 えー?

 何も無かったよー。

 ただの腹いせだったんじゃないの?


 なぐさめにお菓子食べる?って訊いたら、レグルーザはそんなヒマはないといってラルアークを呼んだ。

 ヒマがあったらお菓子食べるんだろうか。


 じゃなくて。



 ラルアークとお別れだ。



「リオ・・・っ!」

「うん。・・・元気でね、ラルアーク。」


 最初はむりやり笑っていた癒し系トラ少年は、部屋を出ていくぎりぎりになって、泣きながら走ってきてばふっとタックルしてきた(けっこー痛かったよー)。

 あたしもぎゅっと抱き返して、そのすばらしいもふもふに泣きそうになりながら、もう捕まっちゃだめだよ、と言っておいた。

 ラルアークは威勢良く「そんなへましないよ!」って答えたけど、また何かやらかしそうだなー・・・

 でも、後はラルアークと、彼の保護者たちの責任だ。



 お互いなんとか生きのびて、いつかまた、会えたらいいね。

 その時はお菓子を食べて、いっぱい遊ぼう。



 鼻をすするラルアークを連れて、レグルーザは部屋を出て行った。

 あたしはふたりを見送り、ぱったりとベッドに沈んだ。

 ああ。



 さようなら、もふもふ・・・・・・





 出会いあれば別れあり、ということで、ラルアーク退場。お疲れ様です。やんちゃな癒し系トラ少年には、作者も癒されてました。次はファンタジー必須、第二弾へ行きたいと思います。が、なかなか出てきてくれない・・・。

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