第十三話「まるまりたい。」
治安の悪い、夜の王都の歓楽街。
兄を追いかけて入り込み、さらわれそうになったところをあたしに助け出されたけど、兄の行方を見失ってしまったという。
名を「ラルアーク」と名乗ったその獣人の少年に、あたしはひとつ質問した。
「ラルアーク、コイツらどうする?」
「どうする?」
トラ少年はオウム返しにして小首を傾げる。
ああ・・・。癒される。・・・じゃ、なくてねー。
「コイツらのせいでひどい目にあって、しかもさらわれかけてたんでしょ?トドメさしとく?慰謝料に身ぐるみ剥いどく?」
足元に転がっている男たちを指差し、やるんなら手伝うよとわくわく訊くのに。
「お、おねーちゃん、それじゃあサツジンハンか、ドロボーになっちゃうよ?」
無垢な瞳で戸惑ったように言われて、すごいぐっさりきました。
・・・・・・ごめんね、汚れてて。
自覚あるから、お願いです。
そんなうつくしー目で、見つめないでやって・・・・・・
こんなにヘコんだの久しぶりだなー。
しかも相手が癒し系トラ少年っていうのが、さらに痛いよねー。
・・・・・・うう。
暗いところでまるまりたいあたしを、ラルアークは「おねーちゃん、それよりココからはなれないと!あぶないんだよ!」と言って表通りに連れ戻してくれた。
あたしはしょんぼりして手を引かれるままついていったけど、あの男たちにムカついたままだったので、コッソリ“闇”を使って貴重品っぽいのを頂戴しておいた。
・・・“コッソリ”の技能がどんどん上がっている気がする。
このままいくと、職業「盗賊」になりそう。
〈隕石落し〉(無差別攻撃)とか、使えるのに、なー・・・
あー・・・、落ち込みすぱいらる・・・・・・
肩を落とした小娘がトラ少年に手を引かれて歓楽街を歩くという格好で、あたしたちは非常に浮いていた気がするけど、どうでもいいや。
幸い、ラルアークのにーちゃんはすぐに見つかった、というか、向こうがラルアークを探しているのに運良く出くわした。
ラルアークでじゅうぶん驚いたので、二人目の獣人にはさほど驚きはしなかった。
が、長身だったヴィンセントよりも背が高くて大柄で、鎧なんか着てる頑丈そうなゴツいあんちゃんなのに、どこからどう見てもトラで、耳だとかしっぽだとかがなんとも可愛く見えて微妙な気分になった。
ゴツいのに可愛い・・・
ゴツかわ?
そんなジャンルあったっけ?
あたしがかなりどうでもいいことを考えている間に、ラルアークがにーちゃんに経緯を説明して、にーちゃんは近くにいた二人の青年に犯人を捕まえてもらえないかと頼んでいた。
にーちゃんと同じように鎧を着て剣を持った青年たち(お仲間かな?)は、すぐにうなずいてラルアークの指差した方へ走っていった。
その後であたしとにーちゃんの自己紹介タイム。
彼の名前は「レグルーザ」。
なんだか落ち着いてて思慮深い印象のトラにーちゃん。
あたしは彼が期待通り「何か礼を」と言ってくれたのにほっとして、いい宿を知っていたら教えてほしいと頼んだ。
もう早よー寝たいです。
まるまって寝たい。
と、疲れているあたしにトラ兄は質問の嵐を浴びせてくれました。
こんな時間になるまでどうして宿を決めていない、から始まって、男物の服を着て手ぶらで歩いている自称“旅人”の小娘という不審者に、容赦なくいろいろつっこんできてくれました。
鬼か。
・・・君の弟はその不審者に助けられたんだけどねー?
マジメに聞いてるとキレそうになってきたので、手近にいたラルアークに抱きついて(もふもふー)しくしく泣いてやったら二人とも慌ててなぐさめてくれた。
ありがとう、トラの紳士さんたち。
女の涙って、あたしのでも武器になるんだね。
すぐに小奇麗な宿屋へ案内してもらい、レグルーザの隣だという部屋をとってもらって(女ひとりというのを心配してくれたらしい)、ようやく一息。
ぐっすり寝た。
ようやく第二候補の登場。と、わりと容赦ない黒系統の子だけど、無邪気な子どもと優しい女性と穏やかな老人とかには、からきし弱いリオちゃん。・・・あれ?意外と弱点がいっぱい。