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第十二話「癒し系トラブル。」

 数行ですがアクション(一方的な)が入ります。嫌いだったり苦手だったりする方はご注意ください。



 元の世界から持ってきた自分の物はぜんぶ亜空間に放り込み、昼のうちにひらひらしてた洗濯物から拝借しておいた、男物の目立たない服へ着替えて準備完了(髪の毛が長いから男装にはならないんだけど、動きやすいのがいいからさー)。

 深夜に部屋を抜け出し、修行で疲れてぐっすり眠っている天音の枕元にルーズリーフの手紙(なにげにヴィンセントへ丸投げ。ごめんよー)を置いて王城から出た。



 途中、あたしたちが召喚された神殿に侵入して、召喚陣をコピーしておく。

 後で何かわかるかもしれないし。

 ネーミングからしてヤバイ感じがするんだよねー・・・



 “召喚”陣と聞いてさー。

 本当に“送還”できんの?ってゆー・・・



「・・・・・・はー」



 落ち込みそう。

 あー・・・

 考えるのは後にしよう。


 とりあえず、当面の寝床を確保するのが先だ。







 イグゼクス王国の王都は眠らない。

 夜の商人が集う歓楽街があるからだ。



 それで思い出したが、ちょっと皮肉屋なメイドさんが、大陸にある四つの大国にはそれぞれもうひとつの別名があると教えてくれた。







 西のイグゼクス王国は、“神と豊穣と「傲慢」の国”。

 光を灯して夜闇を払い、神の名のもとに富を手にする強欲なる愚者が集う国。



 東のバスクトルヴ連邦は、“混沌と創造と「快楽」の国”。

 快楽を追い求めて技術を極め、道具に溺れる心弱き愚者がたどり着く国。



 南のサーレルオード公国は、“秩序と魔法と「背徳」の国”。

 法と呼ばれる鎖に手足を縛られ、心を歪めた愚者が生まれる国。



 北のヴァングレイ帝国は、“鋼と竜と「頑迷」の国”。

 峻烈なる環境に生きることを強いられ、己を殺すほど厳格なる強さを求める孤独な愚者を作りだす国。







 「学校(はこにわ)では教えてくれない現実(リアル)」みたいな話だった。


 可憐な容姿のメイドさんが薄く微笑みながらすらすらとそんなことを言うので、思わず愛想笑いが凍りつきそうになったことまで覚えている。





 ・・・・・・この世界に生まれなくてよかったー。





 じゃなくて。

 重要なのは、イグゼクス王国が商人の多い国だってことだ。



 商人がいるってことは、お金さえあればたいていのものを売ってもらえるってことで、つまり寝床も、お金があればたぶん大丈夫。

 その軍資金は城の宝物庫からいただいているので問題ないし。

 後はてきとうなトコを探すだけなわけで、ラッキー、と。

 思っていたのは甘かった。







 狙いのあまい長剣の一撃をよけて体を沈め、重心の乗っていない方の足をていっと払い、バランスを崩した男の腹に掌底を打ちこむ。

 あっさり剣を取り落とした男がぐっとうめいて倒れる間に、横から殴りかかってきた男の大ぶりな攻撃をかわしてその背後へ回り込み、側頭部を殴打。

 二人目の男が声もなく崩れ落ちていくのを視界の端におさめながら、ゴソゴソ動く麻袋をかついで逃げようとした三人目の男の後頭部へ、足元に転がってたレンガのかけらを拾いざま投げつけた。



 ・・・うん。いい音した。





 あたりを警戒しながら、男のうめき声が響く薄汚れた裏通りでため息をつく。

 大国の王都なのに、かなり治安悪いぞー・・・



 完全に姿を消しているとまともに宿に泊まれないだろうと思い、目くらましを解除、茶色の髪と緑の目という幻影をまとって歓楽街に入ったとたん。

 酔っ払いにからまれるのをすり抜け、あきらかにヤバそうな男に裏通りへ引きずり込まれたので返り討ちにしたところ、必死で抵抗するちいさな影を手荒く麻袋へ詰め込んだ三人の男をたまたま見かけ。



 本能的にぶちのめして現在にいたる。



 最後のは明らかに自分から首つっこんだトラブルだけど、後悔はない。

 女と子どもと老人は守るものだと、骨の髄までしつけられてる。

 (同じ人に「男の人はいいの?」と訊いて、「男は消耗品!」と断言された時は微妙な気分になりました。思っててもそんなことゆーもんじゃありませんよ、おかーさん・・・)



 ドサッと勢いよく地面に落され、痛そうにプルプルふるえている麻袋のところへ行くと、あたしはその口をほどいた。



「だいじょーぶかい?」



 表通りからもれてくるかすかな明りのなか、袋からころんと転がり出てきたのは、銀色の毛並みに黒い縞の入った、綺麗なトラの獣人(シェイプシフター)の子どもだった。



 城にはいなかったけど、話にはきいていた。

 彼らは人と獣の姿を持つ異種の生き物で、人そのものの姿と、人型に近い獣の姿(目の前の子どもはこれ)と、獣そのものの姿(普通の獣より巨大らしい)の三タイプに変身できるとか。

 人間至上主義者とか(こーゆーのはどこにでもいるもんだねー)からは「二足歩行ができる獣だ」と言われてるそうだが、身体能力が高く、知能も高いらしい。

 彼らが人の街に来る時は完全な人の姿になるのが普通だという上、そもそも数が少ないのであまり見かけないと聞いてたけど。



 さっそく遭遇。

 トラで二足歩行で服着てます。





 もふもふだー・・・

 なんてふぁんたじー・・・





 あたしは心の中で感嘆したが、のんきに見とれている場合ではなかった。

 青い眼をこぼれおちそうなくらい大きく見開いている子どもの口にはまっているのは、鋼鉄の口輪だったのだ。

 ぶちのめした男たちに完全なるトドメをさしてやりたくなったが、それをしていいのはあたしではないので、とりあえず我慢。



 頭に攻撃を当てた二人は気絶しているので、最初に腹を強打した男の背中を踏んで鍵の在り処を訊くと、袋を持っていた男が首にかけていると悲鳴まじりの答えが返ってきた。

 素直だね。

 用済みになった男の頭部にもう一撃入れて気絶させた。

 (容赦?なにそれたのしいの?)



 しかし、おかしーなー?

 当てたのが腹だったとしても、いつもはあれくらいの一撃で気絶させられるんだけど。

 しばらくの平穏な城暮らしで、だいぶ体がなまってしまったらしい。

 やだなー。

 一撃で気絶してくれないと、面倒くさいじゃないかー。



 入手した鍵で口輪を外すと、獣人の子どもは自分の牙で手足を縛る太いロープを噛み切った。

 かっこいー。



「ケガはない?」



 訊ねると、ぴょんと勢いよく立ちあがった子どもは、口輪を外すために膝をついていたあたしを、瞳孔が縦に割れた青い眼でじっと見おろした。



「う、うん。・・・おねーちゃんがたすけてくれたの?」



 思ったより低い声。

 男の子だろうか。



「そーだよ。無事でよかった。家族か誰か、近くにいる?」

「ぼく、にーちゃんをおいかけてきたんだ。」

「お兄ちゃんか。今はどこにいるかわかる?」



 ぴんとしていた耳がへにょんと折れ、トラ少年は全身でしょんぼりした。



「わ、わかんない・・・」





 ・・・・・・。





 うん。


 君、癒し系(決定)。





 容赦ないアクションの後、ようやくもふもふが登場。縞白がファンタジーに必須の要素だと思うもの、第一弾です(もふもふー♪)。リオちゃんはぬいぐるみは好きでも嫌いでもありませんが、生きてるのをちょっとさわるのは好きです(世話するのが面倒だから、飼いたいとは思わない)。

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