第一話「あたしと義妹の日常。」
あたしの義理の妹、天音は神に愛されまくっている。
完全無欠の美少女で、頭も良くてスポーツも万能。
料理を作れば高級料理店のシェフ級に美味しく、絵を描けば展覧会で最優秀賞を受賞した上に高額で買い取りたいという話がくる。
街を歩けば芸能プロダクションにスカウトされ、有名なファッション雑誌のカメラマンに写真を撮らせてほしいと頼まれ、どれだけ断っても次々とナンパされる。
おまけに素晴らしく性格が良い。
実の両親はもちろん、義理の姉であるあたしも大事にしてくれる。
正義感が強くてとても優しく、気遣いもできるから異性からは当然、同性からもモテまくっている。
バレンタインデーに山ほどのチョコをもらう女の子は、きっと天音だけだろう。
(天音だけでは食べきれないので毎年お相伴にあずかっているのだが、どうにも“本命チョコ”っぽいのが混じってたりしているのを見ると、ちょっと心配になる。)
そんな完全無欠の超人少女な彼女の、目立たない義姉があたし。
里桜。
十年前に両親を亡くし、親族もなかったため、父の親友だったという天音の父親に引き取られて居候させてもらっている。
とくに何も秀でたところのない、ごく平凡な人間だ。
放課後、学校の中庭のベンチ。
ごろんと横になってうとうとしているところに、鈴をころがすような愛らしい声が聞こえて、あたしは目を覚ました。
「天音ちゃん、一緒に帰らない?」
「ごめんなさい。今日はお姉ちゃんと帰るの。」
天音は緊張している美少年のお誘いを申し訳なさそうに断り、にっこりと頬を上気させて言う。
美少女度が三割り増しくらいしているその顔を見て、美少年は「いいんだ」と真っ赤になって答え、「それじゃ、また明日!」と走り去った。
これは常に逆ハーレム状態な義妹の、さして珍しくもない日常風景のひとこま。
青春だねー・・・・・・
「お姉ちゃん。待たせちゃってごめんなさい!」
ぱたぱたと走ってくる天音に、あたしは「くぁ~」とやる気のないあくびをこぼして起きあがる。
「寝てたからべつにいいよ。それより今の子と帰ってあげれば?」
「み、見てたの?」
いやー、見てたっていうか、すぐそばでやってくれるから見せつけられたっていうかね?
「あたしなんかいつも家にいるんだから。わざわざ一緒に帰らなくても、どうせ顔見ることになるんだし。」
そんなもんとわざわざ帰るより、この学校で一番の美形だと有名なあの少年と一緒にいるほうが、よっぽど楽しいだろうに。
肩にカバンをひっかけながら言うと、天音はリスのようにぷくっと頬をふくらませた。
「もう。お姉ちゃんぜんぜんわかってないんだから!」
ほっぺつついてやりたい。のを我慢しつつ聞き返す。
「なにが?」
「めったに一緒に帰ってくれないお姉ちゃんが、今日はいいよって言ってくれて、わたしすごく楽しみにしてたのに!」
「・・・そうなの?」
「だってこれ制服デートだよ!」
「・・・・・・。」
いや。
義理でも姉妹だし。
わけわかんないから。
時々、義妹とあたしは頭の作りが違う、と思う時がある。
とくに何をしたというわけでもないのに、天音はどうしてか昔からわたしになついているのだ。
ため息をついて歩き出すのに、天音は慌ててついてきた。
「ねぇ、お姉ちゃん。どっか寄ってこうよ。友達が新しくできたケーキ屋さんの話してくれたんだけど、タルトがすっごく美味しいんだって!」
「んー」
「で、その後は雑貨屋さん!可愛いヘアピン見つけたんだよー?」
「へー」
いつの間にあたしの手を取って指をからめるようにつなぎ、楽しそうに話す天音は本当に可愛い。
その話にてきとうな相づちをうちながら、あたしはさりげなく周りを警戒している。
生まれついてのアイドルな義妹にこうしてなつかれるのは嫌ではないのだが、「なにコイツうらやましい!」とか嫉妬されてケンカを売られることがよくある。
そういう連中は天音に嫌われたくはないので、たいてい誰の目にもつかないところでしか仕掛けてこない。
しかしたまにプチッとして、野球の硬球だのカッターだのハサミだのを投げつけてきたりするヤツもいる。
あたしはもういいかげん慣れているので、天音に気づかれないように避けるようにしている。
天音に気づかれるとたいへんな騒ぎになるのだ。
一度、ぼんやりしてて避けそこねた硬球を危ういところでカバンで叩き落とした時は、「これを投げたのは誰?!」と野球部に乗り込んでいって文句を言おうとする天音をなだめるのに、かなり苦労した・・・
大丈夫だって。
仕掛けてきた奴は、後で闇討ちしてぺちっと潰しとくし。
・・・なんて、言えないからさ?
「そういえばね、今度の家庭科の授業で、カップケーキ作ることになったの。美味しくできたらお姉ちゃんのところにも持ってくね!」
ふと、楽しそうに喋り続ける天音の後ろから奇妙な風が吹いた。
虫の知らせというか、胸騒ぎがして顔をしかめる。
何だろう?
天音が立ち止まり、きょとんと小首を傾げた。
「お姉ちゃん、今、呼んだ・・・?」
わけのわからないことを言うのに、ぞわりと鳥肌がたつ。
「呼んでない。」
答えた、次の瞬間。
ーーーーーー カッ!!!!!
天音の背後から唐突にすさまじい閃光が爆発し、空中に浮かんだ光の円陣のようなものに、華奢な体が引き寄せられた。
「きゃぁぁぁっ?!!!」
悲鳴をあげる天音をなんとか止めようとしたが、引っ張りこもうとする力はあまりにも強かった。
「天音ッ!!」
「お姉ちゃぁぁんっ!!!」
ぎゅっと細い腕に抱きつかれて、あっと思ったときにはもう、その光の中へ一緒に引きずりこまれていた。
思いついたので衝動的に開始。自分が楽しむために書いてますが、もし一緒に楽しんでくれる方がいたらうれしーです。