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パンゲニアTRPG2.0ワールドガイド 大地が滅びた その後で―Jump out to the OCTOPACIFIC OCEAN―  作者: 久眠
Othello and Desdemona ―黒の【クジラ】と白の【クジラ】―
8/10

7.覚悟キメてる ヒマはねェ!

執筆に使用しているタブレットのバッテリーが限界近く、2000文字ちょっとを打ち込んでは消えて、を2度ほど繰り返し 危うく心折れかけました。

いい加減、新調しなければとは思っています。

 黒波が大きくうねり、何頭ものバイコーンを撥ね上げる。その向こうから白波が立ち上がったかと思うと 波の中から鋭い牙が、宙に投げ飛ばされたバイコーンたちを まとめて捕らえていく。バシャバシャ荒れる海面に、鮮血の赤が広がった。

 船乗りには変えようもない大洋の理に、精悍なギョウの民の船長は その黒い瞳に 苦々しげな色を滲ませる。


「馬鹿どもが。エサをいつまでも固めておいたら、嗅ぎつけて来るに決まってるだろうに」


 逃げ惑う【ニカククジラ】の群れを、【鯨竜類クジラ】の海賊とも呼ばれる【虎王種】のペアが遊び半分に食い荒らしている。ただでさえ獰猛な【虎王種鯨竜】の中でも 人の味まで覚えている彼らが、バイコーンの踊り食いだけで満足するとは考えにくい。


「ティコ、隠れて!! しばらく出てこなくていいから、見つからないようにしてて!!」


 身を乗り出して叫ぶパトの頭上を、バイコーンの千切れた尾ビレがかすめていった。飼い【クジラ】の無事を祈りつつも、パトは思わず「ヒッ」と声を漏らし甲板の上で身を縮こめる。


「ガキどもは どこ行った……? 戻って来れるのか……」


 すぐに戻れとは命じたものの、暴れる【クジラ】どものせいで【一番星ヴェスパー号】も【パクスマーレ】の親船も身動きがとれない。下手にボートなんかに乗り込んで丸ごとパクリとやられてしまっては最悪だ。現【一番星号】の長、ダンデは何か打開できる策はないかと、ひたすらに思考を巡らせていた。


**


「さて、ムームー。この場合、どうすればいいと思う?」

「こっちが訊きたいよ! ……チョミィくんでも探しに行く?」

「! なるほど、【パクスマーレ】の武装を使うって手もあるか」


 襲撃する者される者、どちらも愛する【クジラ】であるために【パクスマーレ】のツートップは 止めることも攻撃することもできず、見守りに徹している。とはいえ、レイネルたちが【クジラ】に危害を加えようものなら、全力で邪魔をしてくるに違いない。それにはまず、彼らの手を塞いでおくのが先か。


「やい、カボスとハッサク!」

「違うよレイネルちゃん! 蜜柑と檸檬だよ!」

「オレンジとライムだ!!(✕2)」

「やだ、ムームーさんてば、フツーに間違えちゃった」

「安心しな、あたしもだぜ」

「いいから用件!!」「正直、良くはありませんがね」


 妹の方 ハッサクではなく檸檬もといライムに急かされ、「そうだった」と 状況を思い出す。兎にも角にも、チョミィの向かった先を特定しておこう。


「今から でっかい方の【クジラ】コンビをやっつけるから、大砲の在り処 教えてくれね? 武器庫の場所でもいいぜ」

「それを聞いて 誰が教えると思っているのだ!!」

「大砲でやっつける、なんて言ってねぇだろ。大砲なんか使ったら、バイコーンの連中にまで被害が出ちゃうじゃん。……あーでもチョミィ、怖がりだからなぁ。あたしが説得してやらねぇと、即撃ちしちゃうかもしれないなぁ?」


 ここまで言った後で、ちらりとシャチムチ兄妹に視線をやる。鬼気迫る顔を互いに見合わせ、何も言わずオレンジとライムは駆け出した。


「へへ、チョロいぜ!」

「レイネルちゃん、キャップのやり方 ちょっと伝染ってきたね……」

「そうかぁ?」


 【チェバの女王クイーン・オブ・チェバ号】どころか【一番星号】よりも【パクスマーレ】の船内は小ぶりに感じる。一般船舶の襲撃に使うボートの収納庫が、内部の多くを占有しているのだろう。お陰でそう時間をかけずに、部装備品の保管庫まで辿り着いた。


「ホエール、レッツラー!!」


 妙な掛け声と共に兄のオレンジが引き戸を開け放つと、中ではチョミィがせっせと保管庫内を物色していた。実は チョミィの目利きは精度が高く 非常に手際も良いことを、レイネルはよくよく知っている。


「ホエールレッツラー! ……おっと、つられちゃった」


 サックを破裂寸前まで膨らませたチョミィが立ち上がる。オレンジとライムの姿を見つけて驚いたそぶりはしたが、焦りは見せない。


「大砲はまだ、壊してないよ! 壊す必要は なさそうだったし……」

「引き上げるぜ、チョミィ!」

「えっ何? 展開 早っ!!」

「『オセロ』と『デスデモーナ』が 乱入してきたんだよ」


 早口に海上の状況をムームーが伝える。道理で 揺れが激しく 船内が騒がしいわけだ。ダンデの言いつけを守って、早く【一番星号】に戻らなければ。


「了解っ! 撤収撤収!!」

「落ち着けチョミィ! 出口はそっちじゃねーよ!?」

「こっちにパクリマースのボート庫があったんだよ! それ乗って帰るぅ!!」


 錯乱と冷静の間を反復横跳びしながら チョミィは保管庫の出入口とは真逆の壁面を指差す。そして、少しだけ後退あとずさると……

 全体重をかけたミサイルキックで、見事 保管庫の壁をぶち破った。


「うわあああ!! 我らがしろになんてことをっ!!」

「やっぱり貴様ら、海賊だろう!!」


 喚き散らすオレンジとライムはそのままに、新たに開通した出口からチョミィの探し当てたボート庫を目指す。


「チョミィ強ーい! カッコイーイ!! だーい好きー!!!」

「つよつよで可愛いレイネルに相応しくあるためには、強くて当然……ってもう、何言わせんの、おバカぁ!!」

「ごちそうサマ過ぎてレインボー吐きそう」


 大幅なショートカットの末、二艇のボートが残る収納庫に飛び込んだ。それぞれにレイネルとチョミィが乗り込み、簡単に駆動確認する。


「どっちの方が 運転、荒い?」

「チョミィ。」「レイネル。」

「んんん?」


 答えにならない問いの答えに、額を押さえムームーは苦笑う。とりあえずは脱出口の開閉ハンドルを廻し、出口を確保しておいた。しばし逡巡し「よし、決めた!」日頃の態度とダンデの指導状況を鑑みて、選択肢は自ずと定まる。


「なんだよムームー! あたしの腕が信用できねぇってのか!?」

「いーやいや。上手下手じゃなくて、穏やかな方がいいなぁってだけよ」

「ああ、はいはい わぁったよ、もう知らね! 自己責任だからな!」


 ふくれっ面でレイネルはボートの発動機を作動させる。漕ぎ出すその直前に、チョミィが幾つか中身を抜いたサックを レイネルのボートに投げ入れてきた。


「忘れるとこだった! パスタモーレのボート、なかなか便利な改造されてるよ。その中にアイテム弾 詰めといたから、いい感じに使って!」

「よっしゃ、任せろ!」


 便利な改造……なるほど【クジラ】愛護活動の一環として、他所の船を襲撃する際に使っていた武装か。有効活用させてもらうとしよう。


「それじゃ、チョミィにムームー、お先ッ!」


 台詞と同時に、レイネルのボートが荒ぶる海面へと飛び出していく。脱出口の縁をほぼ縦になってかすっていった様子を見て、自分の判断は正しかったのだと ムームーは胸を撫で下ろした。


「ほらね。レイネルは“ぶつからなきゃいいんだろ”の精神マインドで運転するから」


 指差し確認を怠らず、慎重にチョミィはボートを発進する。それでも脱出口の端に、ボートのへりはガツンとぶつかる。


「ええ? ちょっとチョミィくん、ここからぶつけちゃうの?」


 荒くはないが、運転が上手いというわけでもないのか。腕自体はレイネルの方が良かったのかもしれないと、がっかりした気持ちでムームーは溜め息を吐いた。へへ、と申し訳なさそうに笑いながら、チョミィは真っ直ぐ正面を見据える。


「ごめんなさい、狭いトコは ちょっと苦手で。……でも、」


 チョミィのボートは海上に出た途端、低く重く 唸りを上げる。


「ぶつけても壊さなきゃ大丈夫だって、キャプテンも言ってましたし!」

「え、待って。ちょっと待って」


 先に出たレイネルのボートに追いつくべく、チョミィのボートも急加速する。


「木っ端微塵にはならないよう、気を付けますから」

「おいちょっとキャップぅ!! なんてこと教えてんNOOOOOOO!!」


 途中で何頭か【ニカククジラ】がぶつかったり 突き刺さったりもしたが、二艇のボートが並ぶまで そう 長い時間は掛からなかった。


**


 海賊のような輩に貴重な物品やボートを奪われ、船内まで破壊されてしまったが、ひとまず追い返すことができたとしよう。それよりも、だ。


「どうしよう、兄上! このままでは【ニカククジラ】たんの群れが、全滅してしまう!! 【パクスマーレ】の同志たちに誘導してもらうか!?」


 甲板に戻り、海の上の惨状をライムは泣きそうな顔で指さしている。愛らしい【ニカククジラ】たちを護ってやりたい気持ちはやまやまだが、希少な【虎王種】の採餌を 阻害するわけにもいかない。相手が人間であったなら、攻撃に躊躇いなど 欠片もなかったのに。


「いや、まずは同志の皆を呼び戻しましょう。今の私たちにできることは、何も、ありません」

「そんなことはない! あの海賊どもは【虎王種】たんの番を 傷つけようとしていた。せめて連中から、【虎王種】たんたちを護ってやらなければ!!」


 「……そうですね」と微笑み、オレンジは熱っぽく語る妹の髪を撫ぜる。それならそれで 船内に人手が必要だ。何はともあれ【パクスマーレ】の同志に帰還してもらおう。いつも通りに オレンジは合図の手旗を振った。

 しかし、海上に漂う者の誰一人、オレンジに注目している者はない。


「クソが! 威力が全然 足らん……邪魔が多すぎる」


 幾度もの砲撃の音が、黄色と橙を基調とした派手な船から 舌打ちとともに放たれている。【虎王種】の【クジラ】たちにとって一発一発は痒いだけでも、蓄積すれば命に関わる。早いうちに止めさせるべきだ。

 発砲しているのはどんな人でなしかと 懐から取り出した双眼鏡を覗き、オレンジは「そんな……」と息を呑んだ。


「兄上?」

「海賊じゃない……《悪魔狩り》のダンデだ。どうしてあの船に……?」

「《悪魔狩り》だって? 別に、私たちに賞金なんか懸かっていないぞ」

「無論です。ですが彼は、《イカンチャ》の貴族の息がかかった船団の長。正直、敵に回したい相手ではありません」


 【チェバの女王号】の船長と揉めたなど知られては、【パクスマーレ】のパトロンたちにどんなお叱りを受けるか 分かったものではない。

 せめて砲撃だけでも止めるよう説得すべく、オレンジは手旗を拡声器に持ち替えた。


「我々に あなた方と敵対する意思はありません! 砲撃を止めて下さい!」


 オレンジの呼びかけに、拡声器とはまた違った技術で増幅された《悪魔狩り》の怒鳴り声が返ってくる。


「はなから てめぇらなんざ、相手にしちゃいない。てめぇらが速やかに失せりゃ 済む話なんだよ!」


 この場を離れるだけで見逃してもらえるならば、素直に引き下がるとしよう。ただし、《大八界洋オクトパシフィックオーシャン》全ての【クジラ】を護る者【パクスマーレ】として 譲れない条件がある。


「承知しました、この場は引きましょう。……ですがそちらも、【虎王種】のペアを見逃してやっては くれま……」

「小僧、『誰』に『何』を言っているか 解ってるのか?」


 《悪魔狩り》の二つ名を持つ男は海賊のカシラではなく、《チモーチェ島》の海軍も認める賞金稼ぎである。そしてずっと目を背けていたが、【ニカククジラ】の群れを食い荒らしている【虎王種】の番は、賞金首の黒白鯨竜『オセロ』と『デスデモーナ』だ。


「何を勘違いしているのかは知らないが、てめぇらが【クジラ】の味方をしてやったところで【クジラ】はてめぇらの味方なんぞしてくれないぜ」


 イチ貴族の猟犬ごときが、わかったような口を利いてくれる。【クジラ】は賢い、人の心を汲み取れる。そうやって害意を剥き出すから、【クジラ】だって反撃してくるのだ。

 「決して、そんなことは」ない、とオレンジが言い切る前に、【パクスマーレ】の親船に 真横から何かが叩きつけられる。黒い雄の【虎王種】の巨大な尾ビレだ。


「【虎王種】たん!? 悪い船は 向こうのキンピカの方だぞ!!」


 帆柱の一つにどうにかしがみつきながら、ライムが叫ぶ。聞いているのかいないのか、黒い雄の【虎王種】オセロは 海上に散らばる【パクスマーレ】同志のボートに近づいていく。


「御覧なさい! 【クジラ】は賢い、誰が味方かくらい――……」


 鋭い牙のびっしり生えた真っ赤な巨口が、ボートの上で並ぶ頭の一つをもぎり取った。

 愉快そうに咥えた頭を放り投げ、何度か跳ね上げて遊んだ後に、オセロはやっとそれを呑み込んだ。すぐさま 次の獲物オモチャの物色に移る。


「兄上、ひとまずここを離れよう! 同志の皆も とにかく散るのだ!!」


 呆然となるオレンジに代わり、ライムが大きく手旗を振る。合図が届いた者も届かなかった者も、オセロに追われ 食い散らかされていく。

 考えたこともない惨劇にくぎ付けになっている二人の船にも、不意に背後から影が差す。振り返る間もなく、【パクスマーレ】の親船は 横薙ぎに突き倒された。白い雌の【虎王種】デスデモーナの仕業だ。

 ひっくり返るまではいかずに済んだが、大きく傾いた船が沈むのは 確定した未来だ。「ライム、脱出しましょう!」と 隣を向いてようやく、オレンジはそこにいたはずの妹が 居なくなっていることに気付いた。


「兄上ぇっ!!」「ライム!?」


 先刻の衝撃で船から振り落とされ、激しく波打つ飛沫の間に ちろちろと怯えたライムの顔が覗く。周囲に同志のボートはない。


「ライム、すぐ助けに行きます! 今 ボートを出すので……」


 聞こえているのかいないのか、波間からライムが自分を呼ぶ声が 浮き沈みしている。いっそのこと飛び込み、泳いででも救出に向かってやろうと オレンジはコートを脱ぎ捨てた。

 ちょうどその時だった。【パクスマーレ】のマークが側面に付いた 見覚えのある青いボートが一艇、ライムへと向かって海面を駆けてくるのが見えた。


「逃げ遅れたのかよ、シャチムチ女!」


 雑に伸びた夕陽色のくせ毛をなびかせるその姿から、同志ではなく 先ほど船に乗り込んできた《悪魔狩り》の仲間の一人と判る。だが今は、そんなことはどうでもいい。いいから早く、ライムを助けてやってくれ。


 ライムの周囲を一度 ぐるりと回って速度を落とし、左手はハンドルを握ったまま 身を乗り出して精一杯 レイネルは右腕を伸ばした。

 相手が誰であるか 気にする余裕もなく、ライムも必死に両手を伸ばす。

 傾いだ船から転がり落ちた獲物オモチャを探知し、デスデモーナの白い影がこちらに向いた。波を割り、滑るように迫り来る。


「しっかり見ろ、シャチムチ女! もう少しだ、もう少しで届く!!」


 夕陽色の髪を持つ イカズチの民の娘の呼びかけに引っ張られ、ライムの右手が彼女の右手を掴む。

 「よし!」と叫んだ直後、夕陽色の髪の娘から 表情がすぅっと消えた。

 ライムの周りの水が赤い。ライムと夕陽色の髪の娘の間に、何故か【ニカククジラ】の牙が、突き出ている。牙は二本とも、何故かライムの腹部から、飛び出している。


「なんで……嘘だろ、なんでここで……」


 デスデモーナの口腔に追われ、錯乱したまま泳いでいた【ニカククジラ】が、たまたま ライムに刺さってしまった。海中ではよくある偶然、それだけのことだ。


「レイネルちゃん! そのは放って 早く離れな!」

「レイネル ! お願いだから、一旦 逃げて!!」


 離れてしまったライムの手は、海中に沈んで もう、届かない。

 「ごめん」口の中に呟き、唇を噛み締めながら ボートを走らせる。背中を向けた後ろで、牙の噛み合わさる音が聞こえた。デスデモーナは、すぐそこに 追いついている。


 所詮《悪魔狩り》の一味など、顔も知らない貴族の猟犬。アテにしたのが間違いだった。


「待ってろ、ライム。今、兄さんが助けてやるからね」


 赤く濁った飛沫が上がる。

 海中に消えた妹の手を、兄は掴まえることができたのか。

 見ていたのは白の【クジラ】だけ。白の【クジラ】以外に、兄妹の最期を知る者はない。

【NPC設定 ファイル その2】

[《夢魔》エカテレス]??歳 女性

イカズチの民 ハナミノカサゴ部族

・バトルジョブ(推定)《砲台ハナビ

・美貌と色香を凶器に海の漢を食い荒らし、自らの手を汚さず狙った獲物を手に入れる 年齢不詳の女海賊。【紅の百合クリムゾン・リリィ号】を率いる。

・数多の海賊船長を口説き落としてきたことから 男好きのように見られているが、その実 性的な嗜好は男性ではなく、“男は使い捨ての道具”もしくは“嗜好品”程度にしか思っていない悪女。彼女自身に賞金は懸かっていないが、たらしこんだ手下に 散々悪事を働かせているため、【紅の百合号】船内の賞金額はそこそこ高い。

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