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パンゲニアTRPG2.0ワールドガイド 大地が滅びた その後で―Jump out to the OCTOPACIFIC OCEAN―  作者: 久眠
Othello and Desdemona ―黒の【クジラ】と白の【クジラ】―
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4.飛び出せ一番星(ヴェスパー)! 大八界洋へ

 登場人物に愛着が湧くと、やらせてみたい事が増えますね!

 前後編の二章完結にするつもりが、間にもう一章追加したくなりました。ので、構成とか設定を見直しています。

 ダンデの所有する船舶の中では小ぶりな方であるとはいえ、【一番星ヴェスパー号】は見てくれも大きさも立派なものであった。

 威圧感や禍々しさを感じさせる黒艶に染まった【チェバの女王クイーン・オブ・チェバ号】とは対照に、黄と橙を基調とした 明るさをまとう外観をしている。要所要所に金色の装飾が施され、小さいながらも品のある佇まいだ。


「どうだ! 小柄だが なかなかの別嬪だろう?」


 桟橋に着けたボートから降りてくるなり、ダンデは自慢げに声を張った。

 どこのうおの骨とも知れぬ流れ者に貸すのなら、いつ手放しても惜しくないようなボロ船を持ってくるのだろうと、レイネルもチョミィも覚悟していたのだが。


「うおお!! すげぇキレイじゃねーか!! どんな麗しい姫様が乗るのかなぁ!? ……って、あたしかぁ! ぐひひひ」

「麗しい姫様は“ぐひひひ”なんて笑わないよ、レイネル」

「でも クールでキュートなあたしに相応しくお似合いの、キレイな船じゃんか!」

「そうだね! 綺麗で可愛いレイネルにお似合いだってのは、全力で肯定するよ」

「あー、おアツイおアツイ! お肌 妬けそー」


 わざとらしく両手で頬をパタパタ扇ぎながら、レイネルとチョミィの間を割って ムームーもダンデを出迎える。


「どう? 【一番星号】、すぐ出られそう?」

「問題ない。明日の夜明けには出航できる」

「そういやパトちゃんは? まだ買い出しから戻ってないの?」

「結構な量頼んだから、少しかかるかもしれん。……ムームー、様子を見てきてくれるか? こっちの用事は片付いたから、荷物持ち手伝ってやれ」

「任せて、キャップぅ!」


 にっこり笑うと、ムームーはダンデの前に右手を差し出す。艶めかしく片目を瞑ってみせる彼の意図を察し、ダンデも右手を差し出した。


「いや、握手じゃないよ キャップ!!」

「あれ? じゃあ何だ?」

「労働には対価でしょお!? 手間賃くらいちょうだいよ」


 「言わなきゃ分かるかよ」舌打ちをひとつすると、さも面倒臭そうに ダンデは懐から金貨袋を取り出した。さらにその中から数枚をムームーの手の平に押しつける。満足げに「まいどぉ」と返し、ムームーの背中は足取りも軽く 市場の方角へ消えていった。


「……レイネル。どさくさ紛れに手ェ出しても、僕らは何ももらえないと思うよ?」


 ムームーの真似をして、レイネルもダンデの前に右手を差し出している。


「なんだ、てめぇもか」

「いや、だから 握手じゃねーし!!」


 困惑した顔で握手に応じた後で、何か思いついたらしく ダンデは再度 金貨袋を取り出した。


「ついでだから、てめぇらも得意な武器のひとつも買ってこい。この海は丸腰じゃ越えられんぜ」


 差し出されたままのレイネルの手の平に、じゃらりと金貨がこぼれ出す。慌てて左手も添えてレイネルが受け取ったのを確認すると、ダンデはチョミィにも目線をやった。


「えっ!? 僕の分もですか!?」

「武器が要らないなら防具でも買え。乗組員は財産だ。俺の船に乗る以上、気軽に死なれちゃ困る」


 レイネルに渡したのと同じだけの金貨が、チョミィの手にも載せられる。

 予想外の展開に驚愕の表情を二人で見合わせてから、どちらからともなく 流れるように跪く。


「おお……《大八界洋オクトパシフィックオーシャン》海賊大王様……(✕2)」

「誰が海賊大王だ。とっとと買うモノ買ってこい」


 意味の解らない称号を口にするレイネルとチョミィの尻を蹴り、ダンデはムームーの向かった先へと二人も行くよう促したのだった。


 市場通りを抜けた先に、大衆向けの装備屋と思しき大きな二階建ての店舗が待ち構えている。高価で質の良い得物を調達するなら、もっと奥まった場所で取次ぎの必要な専門店の方が間違いない。しかし手の中の金貨の枚数と 日が暮れるまでの残り時間を考慮すると、そう贅沢なことも言ってはられない。手っ取り早く安価な量産品を購入するに留めておいた。


三叉銛トライデント、ゲットだぜ!」


 一点物ではないが、好みの両手銛を見つけ出して レイネルはご満悦だ。


「手触りを確かめたいのは分かるけど、店内で振り回さないの!」


 対してチョミィは、武器より拳を守るための防具を優先していた。手甲と脚絆を揃え、渡された金貨があらかた消える。


「……だけど、こんな安物で【セノアテ】の宝物庫まで 辿り着けるのかなぁ」


 不安を素直に口に出すチョミィの背に、勢いよくレイネルが飛びついた。


「どうにかなるよ! このあたしが、どうにかしてやるから!」


 根拠など どこにもない。それでもレイネルが言うなら、間違いないに決まってる。


「無茶はしないでよ?」

「ヤだね。ピンチになったら、今度はチョミィが守ってくれるもん」


 悪戯っぽく笑い、くるりとチョミィの前に回ってくる。そのまま彼の太い腕を引っ張り、【一番星号】の待つ港へと レイネルは歩き出した。


 《チモーチェ島》北部に位置する《イカンチャ》の港に着く頃には、【一番星号】の真上に「自分はここだ」と言わんばかりに 一番星が輝いていた。


「おやぁ? そのまま逃げるのかなと思ったら、ちゃんと戻ってきたね」


 船の前でダンデと話し込んでいたムームーが、二人組に気付くなり 意外そうな顔でこちらに向き直った。


「こんな可愛い船に乗れるんだ、逃げ出す奴なんざいるかよ」

「いやそれ、キャップ基準の考え方よ?」

「取り敢えずは俺の勝ちだな。銀貨五枚よこせ」

「あーん、手間賃が回収されたぁ」

「しっかり減らしてきてるだろうが」


 レイネルたちが得物代だけ頂戴して とんずらするかしないかで、賭け事をしていたらしい。ムームーは心底嫌そうな顔で ダンデに銀貨を渡している。

 肩を竦めてチョミィがレイネルに視線をやると、彼女の額にはデカデカと「その手があったか!」と書かれていた。


「あたしとしたことが、目からウロコだぜ!」

「落ちたウロコは戻しておきますねー」


 分厚い手の平でレイネルの額を擦り、チョミィは「その手があったか!」の言葉を消す。


「それやったら、またイチから船捜ししなくちゃならないよ? 僕はもう、これ以上の危ない橋は渡りたくないからね」

「分ぁってるよ! お茶目なジョークじゃねぇか」

「お茶目じゃ済まないし、ジョークにも聞こえないの!」


 チョミィの小言を気にしたふうもなく、レイネルは けらけら笑っている。

 「用事は済ませてきたんだろうな」近づく夜の気配をうかがいながら、ダンデが口を挟んできた。船室に幾つか明かりが灯る。いつの間にか戻って来ていた地の民の少年が乗り込み、点けて回っているのだろう。


「夜が明け次第、船を出すつもりでいる。乗り込んでおけ」


 既にボートで待機しているムームーが、ひらひらと手を振っている。


「船に乗ったら チョミィには設備と管理について教える、レイネルはパトに海図の見方だの航海日誌の記入だの教われ」

「そういうのは あんたらでやってくれんじゃねーの?」

「馬鹿言うな。基本的な航海知識もなしに 他人ヒト様の船をるつもりだったのか。……いずれ自分の船を持つつもりなんだろう?」


 「レイネル」チョミィも 肘でレイネルの脇腹をつついてくる。一度 口をへの字に曲げてから、小さな声で「お願いします」と絞り出した。

 ボートは脱出用のそれも兼ねているらしく、【一番星号】に開けられていた倉口へと横付けされた。先に乗員を降ろしてから、手動でボートは船倉に引き上げられる。


「男手ひとつあれば、引き上げられるようになってる。次からは任せたぞ」


 とうに始まっていた設備の説明に、面食らった様子でチョミィが頷いている。先に甲板まで上がっていたムームーも、船長指示を求めて戻ってきた。


「ねぇ キャップ! オレっち、何かやっておく事ある?」

「夕飯の用意。……と、その前に レイネルをパトの部屋に連れて行け」

「りょーかーい! じゃあ、レイネルちゃんはこっちねー」


 チョミィの姿をちらりと見やるが、ダンデの講義に真剣な様子で()()のない耳を傾けている。邪魔をすれば、ダンデにもチョミィにも怒られそうだ。


「チョミィくん、キャップの話 真面目に聞いてて偉いねぇ。使いモノになるようなら、【チェバの女王号】にスカウトされちゃうかもね」

「他の連中も、スカウトされて乗船してんの?」

「そういう経緯の人もいるってだけよ。ムームーさんは頼み込んで乗せてもらってるし、パトちゃんは昔 沈めた海賊船の虜囚だったし」


 「ふうん」と相槌を打つ間に、二つ並んだ小さな船室の前まで辿り着く。


「実質 寝るだけしかできない部屋だから、レイネルちゃんは パトちゃんと相部屋ね。チョミィくんは隣の部屋をムームーさんと使うことになるよ」

「えーヤダヤダ! チョミィと一緒がいい!!」

「オレっちだって、キャップと一緒のベッドが良かったよ」

「は? あたしのチョミィの何が気に食わねぇっていうんだよ!?」

「そんなふうには言ってないじゃーん! それじゃムームーさんは、夕食の支度があるからこれでぇ。パトちゃんと仲良くねー」


 向かって右側の戸を指差しながら、ムームーはくるりと回れ右で上り階段へと戻ってしまった。

 寝るだけの部屋とはいえ、あの小生意気な子どもと同室かと思うと気が滅入る。加えて 何やら教えを受けなければならないという。


「はああああ……かったりィなー……」


 腹の底から溜め息を吐き出し、案内された方の戸を開く。

 何の気なく、一歩 部屋に踏み込んだ直後――……


「きゃあああああっっ!!」「ふぉごっ!?」


 甲高い少女の悲鳴と固い枕が、レイネルの顔面に投げつけられた。


「やだもう!! 声かけるかノックするかしてくださいよ、おバカぁ!!」


 何事かと改めて室内を見ると、真っ赤になって上着で胸元を隠す 下着姿の年若い少女がいる。


「何してるんですか!! 早くドア閉めてくださいよっ!!」

「え、あ、はぁ、悪ィ悪ィ」


 怒鳴られるがままに船室の戸を後ろ手に閉じ、レイネルの頭上に疑問符ハテナマークが浮かぶ。

 細い声色に、あどけなさの残る顔立ち。背中にかかる柔らかそうな淡い金髪。

 レイネルの頭上の疑問符が感嘆符ビックリマークに変わった。


「あんた、パトか!!」

「気付くの遅すぎるんですけど!!」


 そういえばムームーも、「男装した女の子も 乗組員の中に混ざってたりするよ」と言っていた。ちょうどここに 混ざっていたのか。

 入ってきたのがレイネルだけだと分かり、幾分 落ち着いた様子で 少女は男物の衣服に袖を通す。手早く着替えを済ませると、手ぐしで簡単に後ろ髪も束ねていた。


「あーびっくりした。同室になるのはムームーさんに聞いてましたけど、次から部屋に入るときはノックしてくださいね!」

「分ぁったよ、こっちもびっくりしたし。だから あんたと一緒だったのか」


 投げた枕を回収し、軽くはたいて下の段の寝台に放った。そちらを自分で使うつもりなのか、少女は下段の寝台にそのまま腰かける。


「そうですよ、ボクの名前もパトリシアですから。しばらくは“パト”って呼んでください。……五年後には“トリッシュ”って呼ばせますけどね!」

「よし 分かったぜ! パトラッシュ!!」

「……大分 お疲れのようですね。昇天しますか?」

「あっと、そんな分厚い本のカドとか、絶対痛いヤツじゃん?」


 寝台の足元から引っ張り出した分厚い学術書を抱え、パトはにっこり笑ってみせる。レイネルを背表紙で殴るために取り出したわけではないようだ。


「キャプテンが買ってくれた大事な大事な本なのに、そんな乱暴に扱うわけないでしょ! オバサンにしっかりお勉強させろって 言われたんですよ」

「お、オバサンだとぉ!? 誰のこと言ってやがんだよ!!」

「だってボク、あなたの名前 教わってませんし」

「だったら お姉様って呼べばいいじゃねーか! いいか、あたしはレイネル! レイネルお姉様だ!! 一緒に居たのはチョミィ兄ちゃんな」


 大人げない反応を返すレイネルを、パトは面白い生き物を見つけた顔でニヤニヤと眺めている。


「お姉様ってガラですかぁ? まぁ それはいいとして……レイネルさんとチョミィさんですね。キャプテンの船に世話になる以上は、ちゃんとキャプテンの言うこと聞いて しっかり働いてくださいよ」


 抱えていた分厚い学術書を膝の上に開き、一つ咳払いをする。真面目な顔を作ると、パトはレイネルに壁に作り付けのベンチに掛けるよう促した。


「航海に必要な知識も叩き込みますけど、まずは ボクたちと船旅をする上でのルールから 説明しますね!」


 胸の内に 面倒臭いと呟きつつも、面には出さずレイネルも頷いておく。

 夕食の支度ができたとムームーが呼びに来るまでには、明日レイネルとチョミィがやるべき仕事やくわりについて一通りの説明が終わった。


 夜が明け、一番星が最後の一つ星となる頃、【一番星号】は《大八界洋》へと 泳ぎ始める。

【キャラクター設定 ファイル その4】

[ムームー]27歳 男性

キリの民 ウーパールーパー部族(ゴールデン種)

・バトルジョブ《奏手サイレン》(得物は鞭剣)

・奔放で人懐こいムードメーカー。亜麻色の緩いウェーブのかかったセミロングヘア。少し垂れ目。中性的というより、両性的な妖艶さの持ち主(両生類だけに)。

・元々は賞金を懸けられていた海賊団の一味だったが【チェバの女王クイーン・オブ・チェバ号】に船長が捕縛された際に、必死の命乞いで寝返りを許可される。以降、ダンデの信頼を得るため 忠実な右腕として振る舞っている。

・かつて乗っていた海賊船は捕まり、船長も既に処刑されたはずなのだが……?

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