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パンゲニアTRPG2.0ワールドガイド 大地が滅びた その後で―Jump out to the OCTOPACIFIC OCEAN―  作者: 久眠
Othello and Desdemona ―黒の【クジラ】と白の【クジラ】―
2/5

1.フラグは立てるだけ

初回投稿なので、二部分連続で投稿させていただきました。

次回更新からは 一部分ずつ投稿になります。

「なあ、チョミィ。このあと、あたしたち どーなると思う?」

「んー、死ぬんじゃないかなぁ。方法までは分かんない」


 黒く巨大な帆船の甲板に、若い男女が 粗めの縄で縛られた状態で座らされている。

 彼女らは最初から この禍々しい黒船に乗っていたわけではない。もっと小さく 船員も少ない、彼女らでも力ずくで乗っ取れそうな貧乏海賊の船を狙って 忍び込んだはずだった。


「んーっとぉ? チェリオ・グラフトン、だっけか。安いながらも一応は賞金首だからな、有り難く換金させてもらうぜ」


 黒船の帆柱マストの前に立つ大柄な男が この船のボスだろう。ボロボロになって帆柱に縛りつけられている方が、彼女らが忍び込んだ海賊船の船長だ。


「何アレ、酷いねぇ……どっちが海賊か分かんないよ」


 相方の呟きに、彼女も「まったくだぜ」と返す。自分たちも似たような事をするつもりだった事など、とうに忘れた。


**


 事の発端は、二日前。【チェリーガイズ海賊団】なる 名前からして貧弱そうな連中が、彼女らが寝泊まりしている宿酒場にて 古代文明【セノアテ】の秘宝の手がかりを得たと うそぶいたことから 始まった。


「よぉーし! 見つけたぜ、チョミィ。連中が言ってた【天前文明の鍵円盤セノア・ディスク】。コレさえあれば……」

「古代文明【セノアテ】の宝物庫の扉が開く……のかなぁ? そのまま売った方が 確実な稼ぎになると思うけど」


 渋る相棒に「それじゃつまんねぇだろ」と返し、彼女は不可解な文様の入った 両手サイズの薄い円盤を懐に押し込んだ。もとからボリュームのある胸に一つくらい荷物が増えても、目立つことはない。


「あとは おとなしく運んでもらって、目的地に着いたら とんずらしようぜ」

「そう、上手くいけばいいんだけどねぇ」


 船員も少なく小さな海賊船に、船上荒らしを生業とする二人組が忍び込むのは容易だった。お目当てのブツも あっさりと 手にすることができた。

 今回は楽な仕事だと、船の倉庫で保存食を齧りつつ一夜を過ごした その翌日、昼を過ぎた頃のことであった。

 不意に、船の後方から突き飛ばしてくるような衝撃を受けた。倉庫内の樽や木箱が一斉に中身をぶち撒ける。


「うわっ!? な、なんだ今の……」

「船が攻撃されたみたい! ここは危ないから、上の方に行こう」


 互いに頷き合い、混乱する乗組員をどうにか躱しつつ、外の様子が窺える場所に身を潜める。

 小さいながらも小奇麗な【チェリーガイズ海賊団】の船、【チェリンカ号】に覆い被さるように、巨大で禍々しい黒船が背後に迫っていた。


「うわあああ!! 【チェバの女王クイーン・オブ・チェバ】だああ!! 《悪魔狩り》の船だああ!!」

「なんでウチみたいな弱小に目ェ付けんだよぉ!?」

「母ちゃーん!! おウチ 帰りたいよォー!!」

「早く! 早く船長 突き出そーぜ!」「名案!!」


 実際に目にするのはお初だが、噂なら彼女も知っている。《悪魔狩り》の二つ名を持つ賞金稼ぎ ダンデ・ナシギエーリ。彼を頭に据えた船乗り集団はそんじょそこらの海賊船より規模が大きく、目を付けられたら最後、生きて逃げ果せる賞金首はいない。

 小さな【チェリンカ号】は 為すすべもなく黒船に絡め取られ、直付けされた側から【チェバの女王号】の乗組員がぞろぞろと飛び込んでくる。

 その中でも ひときわ大柄で豪奢なコートを羽織い、黒い巻き毛を束ねた男が甲板に飛び降りると、その圧で一瞬 小さな船は傾き 沈み込む。


「すまんね。あんまり ちぃちゃくて可愛い船だったモンで、つい ケツに一発 ブチ込んぢまったぜ」


 長く鋭い触角ヒゲを潮風になびかせ、男は掲げた片手を振り下ろす。


「野郎ども、かかれェ!!」


 《悪魔狩り》ダンデの合図と共に、甲板の上で大乱闘が始まった。


「どどど、どうする、レイネル!? にに、逃げるよね? えーっとぉ、脱出用のボートか浮き輪か何かあるはず……」

「あー、どうするかなぁ……なんか あっちの船のが、金持ってそうだよなぁ……」

「ちょ、レイネル? 何 考えてるの……?」


 この船でお目当てのブツは手に入れた。無事に乗ってはいられないなら、忍び込む船を変えるのも手だ。と、軽い気持ちで彼女は考える。


「これだけの乱闘騒ぎなら、紛れてあっちの船に 乗り込めるんじゃね?」

「出会った当初から思ってたけど、レイネル おバカでしょ!!」

「そんなトコロが 放っとけなくて可愛いって? よせやい、照れるじゃねーか」

「そりゃ放っとけないし可愛いし大好きだけど……何 言わせんのおバカー!!」

「よっしゃ分かった、この戦いが終わったら 結婚しようぜ!」

「うわああ、フラグ立てやがったー!! いや、嫁にはもらうけどね」

「決まりだな! 行くぜ、おりゃああああ!!」


 相棒の説得も虚しく、彼女は甲板へと飛び出していく。


「僕の話も聞いてよぉぉ!!」


 これだから放ってはおけないと、慌てて相棒も 彼女の後を追いかけた。



 一方的に蹂躙される【チェリンカ号】の乗組員を哀れに思いつつも、矛先がこちらに向かわぬよう 注意深く 黒船へとにじり寄る。時折 感付いたどちらかの船員のみ いなして、【チェバの女王号】までもう一息という所まで辿り着いた。

 何処からか、その場に似つかわしくない 低く柔らかな唄声が流れ出す。


「グラフトン船長の【呪歌】だ!」

「助かったァ!! もうちっとの辛抱だ!」


 にわかに【チェリーガイズ海賊団】側の士気が巻き返す。それと同時に、黒船を目指していた二人組も 自らの異変を感じ取った。


「あれ……? なんか、眠たくなってきた……」

「あの【呪歌】ってヤツの効果だ! マズイぞ、僕らも効果対象に入ってるみたい」


 唄声に乗って襲い来る眠気を、頬を張ってなんとか堪える。幸い、黒船へ乗り移るロープまで もう一歩だ。


「……ほう、カシラが《奏手(サイレン)》やってるのか、面白い。それならこっちも――ムームー、出番だ。デュエットしてやれ」

「任せて、キャップぅ!」


 ずっと後方で交わされる 黒船の主と誰かのやり取りの後、グラフトン船長の【呪歌】を打ち消す声量で 別の唄声が溢れ出した。


「ば、馬鹿な……向こうにも《奏手(サイレン)》がいる、だと……スヤァ……」

「ウチの船長の【呪歌】が、押し負け……グォォ……」

「クソッ! 何つぅ色っぽい《奏手(サイレン)》なんだ……っ……ママぁん……」


 澄んだよく通る唄声が広がると、次々に【チェリンカ号】の乗組員たちは倒れていった。そこかしこから 高らかなイビキが上がりはじめる。


「う、うおおお……どっちのも効くぅぅ……」

「耐えるんだ、レイネル! あとちょっと、あとちょっとで【チェバの女王号】に……すぷぅぅ……」

「チョミィ!? ちくしょう、寝息可愛いな!! チョミィまで、やられ、ちま……た……」


 そして、気が付いたときには【チェリーガイズ海賊団】の一味ともども捕縛され、【チェバの女王号】の甲板に転がっていたのだった。


**


「古代文明【セノアテ】、ねぇ。そりゃあ 海の底のどこかには、どデカいお宝もあるんだろうけどさぁ」


 点々と散らばる島々の周り全方位に、《大八界洋オクトパシフィックオーシャン》と呼ばれる海が 果てしなく広がっている。その水底には、今より陸地が大きかった頃に栄えていた王国【セノアテ】の遺物が 幾つも沈んでいるという。


「僕としては即物的なお宝より、【セノアテ】の文化とか歴史とかの方が興味あるなぁ。【セノアテ】の人々が生き残るために使った 肉体改造の秘術って、どんなだろう」

「なんだ、チョミィ。細マッチョになるつもりか? そんなの許さねーぞ」

「そっちの肉体改造じゃないよ!! おなか揉むのやめて!! ……ん?」


 各島に伝わる昔語りを統合すると、現在 確認されている五つの種族のうち三つが、【セノア】の民の肉体改造により生まれた種族らしい。


「……何でレイネル、僕のおなか揉めてるの?」

「へへ、背ビレで縄、切れちゃった」


 若い男女の女の方、夕陽のように真っ赤なくせ毛を雑に伸ばした レイネルと呼ばれている娘は、尖った歯をニ、とむき出して笑ってみせた。彼女こそ 魚のヒレと鱗を手に入れた【セノア】の民の末裔、『イカズチの民』のひとりである。陸上でも水中でも生きられる彼らの半数は、浅い海の底で集落をつくって暮らしている。陸上で暮らし 船にまで乗るような 好奇心旺盛で荒々しい気性の持ち主が、レイネルを含む残りの半数だ。


「……それにしても。どうせ役所に突き出すなら、アイツの船、欲しかったなー」

「もったいなかったねぇ。小さい船だけど、船長が『キリの民』だから 綺麗な船だったのに」

「あー、綺麗な船だから、目ェ付けられたんじゃね? 変態に」

「しーっ!! レイネル、しぃーっ!! 聞こえちゃうよぉ!!」


 レイネルたちが忍び込んだ方の船長――グラフトンとか聞こえた――は 帆柱に縛られているだけでなく、猿ぐつわまで噛まされている。彼ら『霧の民』は 他の種族より気性の穏やかな者が多く、武力を振るうよりも交渉に持ち込む方が得意だ。美しい声と優しい言葉、巧みな話術で、どんな相手の心にもつけ込んでくる。幼少の頃は水中で暮らし、成長しても肌が乾くと生きられない彼らは、多くが水辺の湿地に集落をつくっている。グラフトン船長もおとなしく故郷で暮らしていたなら、こんな目には遭わなかったろうに。


「ずいぶん盛り上がってるな、小僧ども。退屈してるなら、海で【クジラ】と遊んで来るか?」

「あ? 誰が小僧だって?」

「わーっ!! レイネルやめてぇ!! ごめんなさい、静かにしてますっ!!」


 小声で話していたつもりだが、呑気に喋り続ける二人組は悪目立ちしてしまったようだ。黒船の主がつかつかと歩み寄り、レイネルたちを睨み下ろす。

 赤黒くゴツゴツと硬い肌は、レイネルたちのそれとは性質が全く違う。彼ら 無骨な甲殻を肌として纏う『ギョウの民』は 体内に骨を持たず、脱皮を繰り返して成長し続ける。脱皮に失敗して死亡する者もあるが、長く生きれば それだけ大きく強靭になれる種族だ。長い触角ヒゲと太く広がる尾ビレを持つところを見ると、《悪魔狩り》のダンデは イッセー海峡出身のイセエビ部族と思われる。体格と貫禄から、レイネルの倍は生きていそうだ。

 以上が【セノア】の民の秘術により生み出された三つの種族である。しかし、レイネルの相棒であり可愛い弟分のチョミィは、それらのいずれにも該当しない。


「あのね、レイネル。この海域は冗談抜きで【クジラ】が多いし、そうでなくても こんな大きな船から落とされたら、海面で砕け散るよ?」

「【クジラ】はともかく、砕け散るは言い過ぎだろ」

「もぉ、分かったから あんまり変なコト言わないで!」


 古くは遠い大陸から流れてきたという、立ち上がった肉食獣のような姿をした種族、それがチョミィたち『アラシの民』だ。砂浜や海辺に暮らす彼らの多くは 鰭脚類から進化したものといわれている。チョミィ自身も、分厚い脂肪と筋肉に身を固めた 立派な牙とヒゲを持つ巨漢のセイウチ部族なのだが、見た目とは打って変わって 気の弱い繊細な少年である。間の離れたつぶらな瞳も相まって、そんなところが可愛くてたまらない一品とレイネルに言われて以来、無理に自分を変えるのはやめた。


「キャプテーン!! ちょっと風向き変わってきましたよー! 早いとこ引き返した方が良さそうですよー!」


 操舵室から年若い少年が顔だけ出して叫ぶ。声変わりもしていない、少女のようにも聞こえる声だ。そんな子どもが こんな禍々しい黒船の乗組員であることも驚きだが、ちらりと見えた顔立ちは更に珍しいものだった。


「……見たか、チョミィ。『ツチの民』だったぜ」

「見えた見えた。船に乗る『地の民』もいるんだね」


 他の四種族に比べて何の特徴もない『地の民』、彼らは最も【セノア】の民に近い旧い種族といわれる。肉体の変化を拒んだ臆病な者たちの末裔であり、島の奥地や洞窟などにひっそりと隠れ住む者が殆どだ。海に出るどころか 他種族との交流も滅多になく、そうそうお目にかかれない。


「……パトが言うなら 間違いないか。野郎ども、港に引き返すぞ」

「アイアイサー!(✕?)」


 黒船がゆっくりと進路を変える。レイネルたちの他にも捕縛された【チェリーガイズ海賊団】の乗組員が 何人か、揺れに合わせて甲板を転がっていく。


「あーあ、船長さん 助けるつもりかなぁ。余計なことしない方がいいのに」


 チョミィの呟きどおり、簡単に気付かれ 彼らはそのまま 海に蹴落とされていた。


「まあ、少なくともあたしらは、港に着くまでは生きていられるんじゃね?」

「生きるか死ぬかで言ったらそうだけど……でも レイネルは女の子だしなぁ……」

「おう? あたしのカラダ、心配してくれてんの? 可愛いなぁ、チューしようぜ」

「ばっ!? こんな状況でやめてよ! こっちだって心の準備ってのしなきゃならないんだから!!」


 真っ赤になってそっぽを向く相棒をニヤニヤしながら眺めていると、唐突に船を突き上げるような強い衝撃があった。船体が大きく揺れる。


「キャップテーン!! 【クジラ】でさぁ!!」


 今になって見張りが声を張り上げる。黒船の主は取り乱す様子もなく「だろうな」と口にすると、揺れにも慣れた足取りで 操舵室へと向かっていった。


「いつも通り 二、三発も砲をくれてやれば、連中も相手の悪さに気付くだろう」


 これが初めてのトラブルではないと、《悪魔狩り》のダンデは落ち着き払って指示を出す。

 修羅場を幾つも乗り越えてきた 歴戦の猛者である彼の判断が、まさか今回に限り 通用しない相手だったと判るのは、【チェバの女王号】が大破した後であった。

【キャラクター設定 ファイル その1】

 [レイネル]19歳 女性

イカズチの民 プロトスフィラエナ系部族

・バトルジョブ《漁人(カリンチュ)》(得物は両手銛)

・好戦的なチンピラ娘。夕陽のような色のくせ毛のロングヘアで緑の瞳。長身で手足が長く女性にしては筋肉質、胸も大きい。

・実家は船乗りを相手にした酒場を営んでおり、幼い頃から海の男たちを見て育ってきた。

・表向きは、チョミィと共に世話になっている宿酒場の用心棒をしている。


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