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9.彷徨う哀悼

投稿がすっかり滞ってしまって申し訳ありません。

TRPG版のルールブック作成の手伝いや、他作品のアナログ執筆を進めています。

過積載なのは承知ですが、書きたいものはたくさんあるので、ゆっくりじっくり進めさせていただきます。

 それは、ここ数年で最も大きな嵐が来る、数日前のことだった。


「海賊が攻めてきたぞーっ!!」

「女子供は逃げろ! 怪我人 病人 年寄りは隠れろ!」

「命のが大事だ、財産は諦めろ! 荷物なんかいい、逃げ……ぐわあ!!」


 ツチの民がひっそりと暮らす地下集落《マルケートス》は、略奪を主として活動する【ヘルメイア海賊団】の襲撃を受けた。

 人口も少なく 交易も最低限しか行ってこなかった《マルケートス》の住人に 抗うほどの屈強な戦士も武器もなく、食糧も財産も人の命も、ただ差し出すことしかできなかった。


「地面の下だけあって 湿気た里だな。大したモンも出てきやしねぇ」

「あとは女とガキだけか? ツラの可愛い奴だけでいい。不細工は女でもいらん」

船長オカシラはブレないねぇ。筋金入りの面食いじゃん」

「だぁから お前ちゃんも乗せてやってんだろぉ? おおん?」

「残念だねぇ、ムームーちゃん。女のコなら、もーっと 可愛がってもらえたのによぉ」


 下品に笑い声を上げながら【ヘルメイア海賊団】の一味が、静まり返った集落の住居を覗いて回る。時折 舌打ちの音と悲鳴が聞こえるところから、全員が逃げ果せた訳ではないと分かる。

 この時、たまたま地下三階層にある教場に、パトも友人や教師のルクレチアと共に集っていた。ただならぬ事態であると察したルクレチアが、教場内の隠れられそうな場所へと子どもたちを誘導していたのだった。


「ルクレチア先生、知らない人の声がする」

「しー、ですよ。先生がいいって言うまで 隠れてましょうね」


 教職に就いたばかりで、自身もまだ少女を抜け出したばかりの うら若き女教師は、必死に震えを押し殺しながら微笑んでいた。


「お? こっちにも階段が続いてるぜ!」

「でかしたレーイ!」


 三階層最奥の備品倉庫に隠れた直後、上階から降りてくる複数の足音が聞こえてきた。誰もが両手を組み、海賊が気付かないまま通り過ぎる事を祈っていた。


「待って待って! そっちはオレっちが見てくるよ。アニキたちは そっちの明るい方、見ておいて」

「お前、耳良いもんな! 任せたぜ、ムームー」


 よく通る霧の民の声の中でも、ひときわ澄んだ声の主が パトたちの隠れている備品倉庫に寄ってくる。

 息を殺すルクレチアと子供たちの前で、備品倉庫の扉が細く開いた。

 一見 女性と見まごうような、やさやさした霧の民の顔が 隙間からひょいと覗く。

 思わず声を上げそうになったパトを見つけると、その若い海賊は口元に人差し指を立てた。「何かあったかー?」との後方からの問いかけに「ネズミの巣ー」とだけ返しながら、備品倉庫の扉は元通りに閉ざされた。

 やがて海賊たちの足音は消え去り、地下三階層から人の気配がなくなった。


「さっきのお兄さん、見逃してくれたのかな」

「そうみたいですね。……もう少し時間を置いてから、先生が外の様子を見てきます。みなさんは、先生がいいって言うまで 出てきてはダメですよ」


 口々に「はーい」と返す子供たちに、真剣な顔でルクレチアは頷き返す。しばし扉の隙間から周囲をうかがい、意を決した表情で ルクレチアは備品倉庫を出て行った。


「オレん、大丈夫かなぁ……」


 誰かがぽつりと口にした呟きに、年少の子供がつられてぐずり始める。地下二階層の物音は、階段付近でしか聞き取れない。上層で何があったかなど、幼い子供たちには想像のしようもなかった。



「……先生、帰って来ないね」


 外の様子を見に出ていったまま、ルクレチアは戻って来ない。

 薄暗い倉庫の中では 時計の盤面もろくに見えない。どれほどの間、ここで待っていたのだろうか。


「わたし、先生 探してくる!」

「じゃあ ぼくも!」


 静かに待っていることに飽いてしまった何人かが立ち上がる。我慢の限界に達していた年少の子供たちも、声を上げて泣き出してしまった。


「ダメだよ! 先生がいいって言うまで 待ってなくちゃ……!!」

「その先生が 戻って来ねーじゃん!」

「先生、一人で帰っちゃったんだよ!」


 言いつけに忠実であろうとしたパトに、次々と抗議の声が飛んでくる。現に、ルクレチアは戻って来る気配すらない。


「そんなに言うなら、パティは一人で待ってなよ! わたし、もうこんなトコで待ってるのヤダもん!!」

「オレも帰る! 母ちゃんたちといた方が安心だし」


 学友の言い分に、パトの気持ちもわずかに揺らぐ。それでも 脳裏に浮かんだ若い海賊の顔が、行ってはいけないと警告してくる。

 結局、パトを除いた半数以上の子供たちは、ルクレチアの言いつけすら守らず 備品倉庫を飛び出して行ってしまった。地下三階層に子供の声と足音が わあっと響いたかと思うと、騒ぎは徐々に遠ざかり 階段の方へと吸い込まれていった。

 いつもなら とうに帰宅しているだろう時間なのに、子供たちを心配して迎えに来る保護者は一人もいない。様子を見に行ったルクレチアも、彼女を探しに出た子供も家に帰ると言った子供も、誰一人 現れない。


「……みんな、どうしちゃったんだろう……」


 お父さんもお母さんもお祖母ちゃんも、誰も迎えに来てくれない。ルクレチア先生も、いつまで経っても「もう いいですよ」って、言ってくれない。自分同様に不安で泣きじゃくる年下の女の子を撫でてやりながら、すがるような気持ちで パトは黙りこくった備品倉庫の扉を見つめていた。


 不意に、備品倉庫の扉から光が漏れる。そのまま音もなく、扉は開け放たれた。

 「先生っ!?」何人かの声が上がる。しかし、そこに覗いた顔は ルクレチアではなく、申し訳なさそうにしている 先刻の霧の民のものだった。


「ぬか喜びさせてゴメンねぇ。お兄さん、伝言 頼まれただけなんだ」


 ぐるりと倉庫内を見回し、残っている子どもを数えて 霧の民の若者はぎゅっと眉根を寄せる。諦めたように首を振ってから、澄んだ真っ直ぐな声は 言伝てを告げた。


「キミたちの先生からね、“もう少し 我慢して待ってなさい”って」

「もう少しって、いつまで!?」「先生は? 帰っちゃったの??」


 相手は幼い子供たちだ。霧の民の若者が言葉を終えるより先に、口々に不安を叫び出す。怒鳴りつけてその場を静めることもできただろうに、霧の民の若者は困った顔をしただけで 子供たちを叱りつけたりはしなかった。


「先生もすぐに戻れないだけで、向こうにいるよ。んー、そうだな……今日はここでひと眠りして、起きたらみんなで 先生のところに行こうか」


 穏やかな笑顔で取り出された提案に、何人かは素直に頷く。それでも「こんなトコじゃ眠れない」とぐずる子供の方が多かった。


「そうだよね、わかってる。お兄さんが 落ち着く歌を唄ってあげよう」


 五年後のパトならば、それが眠りを誘う【呪歌】であると識っている。その効果を抜いても、霧の民の若者の子守唄は 優しく子供たちの不安を除けていった。


 霧の民の若者が 見知らぬ不審者であることを皆が忘れ、唄声に聞き惚れてパトもうとうとし始めた頃、唐突に子守唄が止められた。


「なぁんだ、まぁだ居るじゃねぇかぁ、可愛いガキどもがよぉ」


 唄い手の若者とは異なる、ねっとりとした品のない声の登場に パトの眠気も吹き飛んだ。自分たちを騙していたのかと霧の民の若者を見やると、背後から口を塞がれ 無理やり唄を止められたのだとわかった。唄い手の若者は 品のない声の主の仲間であっても、子供たちを騙そうとしていた訳ではないようだ。


「おやおやぁ? 将来有望な別嬪ちゃんもいるねぇ」


 乱暴に唄い手の若者を突き飛ばすと、品のない声の持ち主――横に広い顔に大きな口をニタつかせた オオサンショウウオ部族の霧の民だった――は、パトの顎を掴んで 値踏みを始めた。


「パ、ぱ、パティに触るな!!」


 怖くて声も出せずにいるパトの代わりに、聞き慣れた少年の声が投げつけられた。幼馴染のフレディだ。月に一度はプロポーズをしてくる学友だ。


「そうかそうかぁ。坊主、お前のコレだったかぁ」


 オオサンショウウオ部族の霧の民はパトを放し、前に出たフレディに小指を立ててみせた。ニイィと笑い、フレディの頭をグリグリ撫でる。


「でもなぁ、たった今から この《半裂(ハンザキ)》のローザン様の彼女モノになったんだよぉ」


 言い終えるやいなや、ローザンと名乗った霧の民は フレディの横っ面を殴り飛ばした。


「パティちゃんて いうのぉ、可愛いねぇ。……あとは、後ろのチビちゃんと奥のお嬢ちゃん二人、一緒においでぇ」


 当たりどころが悪かったのか、フレディは突っ伏したまま痙攣している。駆け寄り、介抱しようとしていた唄い手の若者に ローザンは声をかけた。


「その不細工は要らねぇよぉ。引き上げるぞ、ムームーちゃん」


 俯き、一度 唇を噛み締めてから、唄い手の若者は振り返る。花を散らすような笑顔を作って、そのままローザンに足早に歩み寄る。


「もうるモノもないし、こんな湿気た場所 早く出よう! もたもたしてたら《悪魔狩り》に嗅ぎつけられちゃう」

「おうおう、そうだなぁ! だけどよぉ?」


 引き連れてきた手下に 好みの子供たちを押し付け、ローザンは腰のサーベルを抜いた「こぉんな小っちぇえガキども、残していったら可哀想だろぉ?」。

 ローザンのしようとしていることを察し、唄い手の若者の顔色が変わる。


「なんでそこまで……!! もう、この子たちしかいないんだよ!? 放っておいても……」

「放っておいたら 長く苦しませちまうだろぉ? 慈悲だよぉ、御・慈・悲」


 「外道」と呟いても、唄い手の若者に 彼らを止めることはできなかった。


**


 誰もいなくなった《マルケートス》の集落を後にし、大量の『戦利品』を得た【ヘルメイア海賊団】の船は 意気揚々と海原へ漕ぎ出した。

 《マルケートス》の『戦利品』は、まとめて薄暗い船倉に詰め込まれている。パトがルクレチアと再会したのも、船倉に放り込まれた直後であった。


「……あなたが“信じて”って言うから、子供たちを任せたのに」


 鍵のかかった扉の向こうに、涙の滲む声で ルクレチアは恨み言を吐いた。


「アンタの言いつけが弱かったせいだよ。オレが行く前にはもう、ガキどもは うろついてたんだぜ」


 備品倉庫で聞いたそれより、優しさの消えた声が返ってくる。どこか 突き放そうとする演技臭さをパトは感じていたが、静かな怒りに支配されたルクレチアには 読み取れているかどうか。


「それでも! パティさんたち……この子たちは 言いつけを守ってたのよ!?」

「アンタがオレに、余計なこと させたせいだろ」


 唄い手の若者が目の前にいたなら、ルクレチアは平手打ちの一発でも食らわせていたに違いない。この時のパトも、ルクレチアと同じ気持ちになっていたと覚えている。五年後の今なら、彼の演技臭さは 悔し涙を堪えるために出ていたものと 理解できるのだが。


 朝も夜も判らない、常に薄暗い船倉の中で揺られて、何日ほど経ったのだろう。【ヘルメイア海賊団】にとって都合の悪いモノが、二つ同時にやってきた。


「オカシラー! 二時の方向に【チェバの女王クイーン・オブ・チェバ号】が見えたぞ!!」

「オカシラ! 後方にチョッピー観測!! じきに ここいらも時化るぞ!」


 忌々しげに舌打ちし、【ヘルメイア海賊団】のカシラは がなる。


「ひとまず 十時の方向に全速前進だぁ! 嵐はともかく、【チェバの女王】は 振り切るぞぉ!!」

「イエッサー!」「アイッサー!」


 《悪魔狩り》と海上の嵐に挟み撃ちにされ、大した逃走距離も稼げず【ヘルメイア海賊団】は お縄を頂戴することとなった。


 その後【チェバの女王号】も嵐に巻き込まれ、ついでに取得するはずだった【ヘルメイア海賊団】の所有船も 失われてしまったのだが――……

 ――これはまた、別の誰かの物語おはなし

【NPC設定 ファイル その3】

[オレンジ・オルカリオ]22歳 男性

アラシの民 シャチ部族

・バトルジョブ(推定)《水守ミナモリ

・「ホエール・レッツラー!」を合言葉に、大八界洋オクトパシフィックオーシャンを股にかけて活動する【クジラ】愛護団体【パクスマーレ】の団長。ライムは双子の妹。

・嵐の民シャチ部族には 祖先が【鯨竜類】であったとの伝承が残っており、祖先を敬う気持ちが行き過ぎて過激な愛護活動に走るようになってしまった。

・幼い少女を愛でる趣味があり(イエスロリータ、ノータッチ)、中でも妹ライムの幼少時が至高と信じて疑わない。大人になった今でも、ライムのことは可愛がっている。

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