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海に沈んだ ものがたり

 実際にセッションをしたわけではないのですが、TRPGリプレイを小説に書き起こしたものをイメージして書いています。

 そのため 敢えて世界観にそぐわない、メタ的な表現をしている箇所やパロディネタも入れてあります。苦手な方はご注意下さい。

 むかーしむかし、まだ この星に 名前などついていなかった頃。

 大陸は海の上にバラバラに広がっていて、それぞれに独自の生命の形があった。そのうちの一つに、現生の『ヒト』に似た存在も生まれていたという。


 彼らの暮らしていた地は 大陸と呼ぶにはだいぶ 小さなところであったが、気候は穏やかで暖かく湿潤、動植物の気性も優しく、既に完成した楽園とも云えた。彼らが知恵を育て、文明が発展するのは自明の理である。


 やがて充分な技術力を手にした彼らは、船を造り 大海原へ漕ぎ出した。

 未知の生物、未知の土地、未知の気候。知識欲に掻き立てられるまま 世界を巡り、多くの素晴らしいものを発見した。


 いつしか彼らの生活圏は大きく拡がり、それぞれに新たな文化が開花していった。それでもこの星は どこまでも豊かで、彼らどうしで争いが起こることなどなかった。この星の全ては 楽園だったのだ。


 ――星の外より 侵略者が現れるまでは。


 ある時、空の彼方から 銀色の方舟が降り立った。

 彼らに良く似た形の、全く違う『ヒト』が中から現れ、勝手にこの星を 惑星《セス》と名付けた。

 彼らは初め 自らを【セノア】の民であると名乗った上で、侵略者を客人まれびととして歓迎した。自分たちは豊かな楽園を治める 優秀な民であると、一夜の旅人を愉しませるだけのつもりだった。


 素晴らしい、実に素晴らしいと、侵略者は全てを褒め称えた。

 なんと美しい、なんと豊かな。――我らが支配するに相応しい。

 この星を丸ごと、我らに寄越せ、と。


 一夜の旅人ではなく 侵略者であったと 彼らが気付いた頃には、時すでに遅し。彼らの宝の多くが奪われ、王は殺され、民の多くは奴隷として飼い慣らされた。

 ――これが、天前文明【セノアテ】の結末である。


 侵略者に踏みにじられた楽園は、やがて侵略者どうしの争いによって焼き払われた。美しく豊かだった大地を散々 破壊した挙げ句、一万年周期で起動する厄介な巨人兵器《アーカディウス》を置き土産にして、侵略者は再び 空の彼方へと逃げ去っていった。


 わずかに逃げ果せた【セノア】の民は、大海原より大地の滅びゆく様を見届けたそうだ。もうあの場所に、帰るべき楽園はない。――否。


 一つだけ、残っていた。

 北の果て、星のてっぺんに浮かんでいた 始まりの地だ。

 集結しつつある他の大陸に取り残され、じわじわと海面に呑まれゆく小さな大地へと帰り、最後の民は秘術を解く。


 それは、己が身に水の生き物の性質を取り込み、陸を失っても生存を可能にする神秘の技術。

 ある者は、人でありながら 魚のヒレと鱗、もう一つの呼吸器官エラを手に入れた。

 ある者は、人でありながら 粘性の肌と幼少期を水中で過ごすための二つの姿を得た。

 ある者は、人でありながら 骨を捨て、強い外甲殻と永遠の成長力を選んだ。

 ほんの少しの臆病者だけが、純粋なヒトの姿を手放せないまま 地上での暮らしの方を諦めたらしい。


 かつて【セノア】と名乗っていた彼らは、大海原に散らばる島々を拠点に 新たな生活を築きはじめた。いつしか自分たちが【セノア】の民として、天前文明【セノアテ】と共に生きていたことも 忘れてしまった。


 天前文明【セノアテ】の繁栄は波に呑まれ、時折 水底からその欠片のみ顔を覗かせる。誰かがそれを持ち帰り、真偽の知れぬ おとぎ話として こうやって語り継いでいる。



 ここまで熱心に聞き入ってくれた お前さんなら、わかるだろう?

 さあ、出航の時間だ。

 天前文明【セノアテ】とやらの財宝オタカラを、根こそぎ頂戴しに 行こうじゃないか。

 『パンゲニアTRPG ワールドガイド』のシリーズには入れてありますが、前作・前々作と直接的なつながりはありません。小説上で共有しているのは惑星の名前くらいです。

 完全新規作のつもりで書いていますので、パンゲニアシリーズが初めての方もご安心ください!

(お気に召したなら、他の作品も読んでいただけるとすごく!嬉しいです)

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