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第一章・9話 〜情報収集〜


「うおー、派手に散らかってるねぇ」


 東が現場へ到着した頃には、現場検証が始まっていた。

 特別警察の調査官たちが忙しなく動き回り、証拠の検出や死体の処理を黙々と行っている。

 また、現場(店)に居合わせていたお客様たちへの取り調べも始まっていた。


「ちょっと、一般人の立ち入りは禁じられて‥‥‥東様!?

 お、お世話になっております!

 なぜ、こんな所へお越しになられたのでしょうか?」


 東を見つけた警官が、驚いて声を上げる。

 その声に釣られて、他の警官たちも一斉に頭を下げた。


「いやぁ、金剛家のご子息に不幸があったと聞いて、居ても立っても居られなくなってね。

 ちょっと詳しい話を聞いてもいいかい?」


 特別警察は独立した組織だが、県の知事であり、尚且つ風神家の一員である東を無碍にはできない。

 警官は東の機嫌を損なわないよう細心の注意を払いながら、不都合な事実を隠しつつ、状況を伝えた。


「それで、天士君はどうやって殺害されたの?」


「それがまだよく分かっておりません。

 目撃者の証言は的を得ないものばかりでして」


「遺体を見せてもらえる?」


「‥‥‥はっ、こちらが天士様のご遺体です」


 警官がブルーシートを広げて、天士の遺体を東に見せる。


 鉄の鎧を纏った五体バラバラの死体。

 明らかに、金剛家の固有術式を使った形跡がある。


 つまり、天士は術式を使ったのにも関わらず、犯人に負けて殺されてしまったことになる。


「‥‥‥これ、術式使ってるよね?」


 東の問いに、警官は無言の頷きで答える。

 通報を受けて現場に駆けつけた警官たちも、この状況が信じられなかったのだ。


 金剛家の固有術式『黒鐡弁慶』は、ただ単に鉄を纏うものでは決してない。


 鉄と親和性の高い固有の闘気によって、纏った鉄は強度が数十倍にも跳ね上がっており、並大抵の攻撃では擦り傷1つ付けることができない。

 それにも関わらず、天士の遺体は鎧の上からバッサリと切り裂かれていた。


「しかも、切断面が黒く焼け焦げている。

 ただ切ったのではなく、焼き切ったというのが正しいか。

 犯人は真影焔流の達人か?」


「いえ、この店で働いていた劣等非民の青年らしいです。

 目撃者たちも、犯人が刀を使用している様子は無かったと証言しております」


 いよいよ訳が分からない。


 おそらく犯人は何らかの固有術式を持っているが、この国では魔術に適性のある者は必ず上級国民になれる。

 ではなぜ、劣等非民が固有術式を持っているのか?

 出生時検査で不備があったか、それとも、そもそも出生時検査を受けていなかったか。

 謎は深まるばかりである。

 

「ありがとう、ちょっと目撃者にも話を聞いてくるわ」


 東は警官と分かれて、目撃者たちの方へと向かった。


「誰に聞こうかな〜、ん?」


 話しかけやすそうな目撃者を物色していると、彼らの中に1人めちゃめちゃ涙を流している少女がいた。

 中学生くらいで、エプロンを身につけている。


「お嬢さん、どうして泣いているんだい?」


 とりあえず東は、その少女に声をかけることにした。

 何となくだが、彼女はこの一件に深く関わっているような気がしたからだ。


「うぅ、お父‥‥‥さんが‥‥‥しん‥‥‥った」


 しゃくりあげているせいで上手く聞き取れなかったが、どうやらこの子の父親が死んでしまったらしい。

 天士と一緒にいた警官の中に、父親がいたのだろう。


「そうか、父親がテロリストに殺されてしまったんだね」


 そう言った瞬間、泣いていた少女が急に顔をあげ、とても怒った表情で叫んだ。


「違う!私のお父さんはお兄ちゃんを庇って、警察に殺されたんです!」


(ん?どういうことだ?)


「ど、どうかしましたか?」


 少女の叫び声を聞きつけた警官が、東の下へ駆けてきた。

 東にバレたくないことでもあるのか、非常に焦っている。


「いや、何でもないよ。

 皆は仕事に集中してて」


「しかし‥‥‥」


「大丈夫、悪いようにはしないから」


 東は何となく、警官たちが隠していることに気が付いた。

 目の前の少女の発言や、天士の悪い噂を総合して考えれば、答えを導き出すのは容易だった。


 だからこそ、東は警官たちに理解を示した。

 面倒ごとにはしないから、安心して欲しいと。


「承知しました。

 先ほど、正宗様まさむねさまよりご連絡がありました。

 息子の死を悲しんでいただき感謝申し上げる。

 東様の貴重なお時間を取らせるのは申し訳ないので、あとは我々特別警察に任せて欲しいとのことです」


 金剛正宗、県の特別警察長官である。

 言外に釘を刺されてしまった。


「分かった、もう少ししたら帰るから」


 そう返すと、警官たちは一礼し、仕事に戻っていった。


(まぁ、帰るつもりはないんだけどね!)


「お嬢さん、さっきの話、詳しく教えてくれない?」


「あなたも、警察の仲間なんですよね?」


 警官と話している様子を見た少女は、東を敵対視する。

 父親を殺した警察は敵であり、警察と仲良くしている東も同じく敵なのだ。


「仲間ではないかな。

 時々一緒に仕事をするだけだよ」


「私から話すことはありません。

 私は何も見ていないですから」


 少女はそう言うと、顔を背けてしまった。


「うーん、女の子にここまで嫌われるのは久々だなぁ」


 東は冗談を言うが、少女はぜんぜん笑わない。

 いやまぁ、当然だが。


 このままでは話が進まない。

 東は方針を変えることにした。


「テロリストって、君のお兄ちゃんのことだよね?

 きっと冤罪なんだろうし、とても強い固有術式を持ってるようだから国の繁栄のために守ってあげたいんだけど。

 このままだと、お兄ちゃん、殺されちゃうよ?」


 東の冷たい言葉に、少女は体をビクリと震わせる。


「お兄ちゃんのこと、教えてくれないかな?

 俺、こう見えてかなり権力あるし、特別警察からお兄ちゃんも、君のことも守ってあげられるよ」


「あ、あなたは誰なんですか?」


「よくぞ聞いてくれた。

 俺は風神東、この県の知事を任されている。

 何か困ったことがあったら、何でも言ってくれ。

 県民の悩みは、俺がぜんぶ解決するから」


 ウィンクしながら、サムズアップする。


「えっ、東って、あの東ですか!?」


 東が名乗ることで、少女は今目の前にいる男が誰なのか初めて理解した。

 今までとても無礼な態度をとっていたことも。

 だが、そんなことは今はどうでも良い。


「お、お願いします!

 お兄ちゃんを助けてあげてください!」


 変人だが聡明な方と噂されている東知事なら、何とかしてくれるのではないか。

 少女は希望を胸に膨らませる。


「ちょ、声が大きい(ボソッ。

 警官たちにバレると面倒だから(ボソッ」


「ご、ごめんなさい」


 こうして東は、犯人の情報を聞き出すことに成功した。


 少女の話によると、今日この日まで、誰も犯人が魔術を使えることを知らなかったようだ。

 犯人は何故か、意図的に魔術を使えることを隠していた。


 また、犯人はやはり冤罪で、この事件の始まりは天士の嫌がらせによるものだったようだ。

 因果応報としか言いようがない。


 あと、犯人はこの場所を去る前に、次にどこへ行くのか、家族である少女だけに教えていたらしい。

 犯人の目的は、金剛正宗、特別警察長官の命だった。

 これは貴重な情報だ。

 先回りして犯人を捕まえることができる。


「他にお兄ちゃんは何か言っていたか?」


「そう言えばーーー」


 少女は何かを思い出したように、言葉を続ける。


「ーーー術式を使えるようになったのは、昔、悪魔から術式を買ったからだって言っていました」


 瞬間、東の頭の中で点と点が線で繋がった。

 ずっと疑問に思っていたことの答えを、東はついに導くことができたのだ。


(なるほど、めっちゃ面白いじゃん)


 運命の輪が大きく動き出すのを、東は確かに感じていた。

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