反逆者の計略、そして新たな敵
ヴァルゼック大佐の捕縛は、私たちにとって大きな勝利だった。彼の捕獲により、敵勢力は指揮系統を失い、混乱に陥ることは確実だった。しかし、戦争が一つの勝利で終わることはない。戦場には常に新たな脅威が現れ、油断すれば即座に命取りとなる。
ヴァルゼック大佐を捕らえた後、私たちは彼を拘束し、帝国の主力艦に移送するための準備を進めていた。彼はその冷静さを保ちながら、捕縛されるのを受け入れていたが、私はどこか違和感を覚えていた。彼の態度が、あまりにも落ち着きすぎている。
「ライナー、これで一安心だな。ヴァルゼック大佐が捕まったことで、敵勢力は確実に瓦解するはずだ。」
カインが笑顔で話しかけてくるが、私はまだ不安を拭いきれない。大佐がこんなに簡単に捕まるとは、どうしても思えなかったのだ。
「そうだな、カイン。だが、油断は禁物だ。彼はただの戦略家じゃない。何か裏があるかもしれない。」
カインは私の言葉に驚きながらも、軽く頷いた。
「確かに…お前の勘はこれまで当たってきた。何があってもいいように、警戒は続けるべきだな。」
彼の言葉に同意し、私は大佐の動きを常に監視するよう指示を出した。
しばらくして、ヴァルゼック大佐を乗せた小型艦は、帝国の主力艦に向けて発進した。私たちは彼の護送にあたり、帝国艦に無事到着させることが第一の任務だった。
「ライナー、気をつけろよ。これが終われば、俺たちも少しは休めるかもしれないが、まだ気が抜けない。」
カインがふざけた口調で言うが、その目は真剣だった。彼もまた、何か不安を感じ取っているのかもしれない。
数時間後、私たちは帝国艦に無事到着した。護送は問題なく進んだように見えたが、私の不安はますます大きくなっていた。ヴァルゼック大佐は、ただ捕まっているだけでは終わらない男だ。何かしらの策を巡らせているに違いない。
「ライナー、そろそろ本艦に移送する時間だ。」
フィリシア中尉が私に声をかけてきた。彼女もまた、この任務に神経を張り詰めている様子だ。
「わかりました、中尉。気を抜かずに進めます。」
私は頷き、大佐を移送するための準備を整えた。彼は私たちの目の前で手錠をかけられ、護衛に囲まれながら艦を下ろされていく。だが、その瞬間、大佐が口元に微笑を浮かべたのを私は見逃さなかった。
「何かがおかしい…!」
私が声を発した瞬間、突如として警報が鳴り響いた。私たちのいる艦全体に赤い警告灯が点滅し、緊急事態を告げるアラームが響き渡った。
「何が起きている!?敵襲か!?」
フィリシア中尉が通信機を操作し、周囲の状況を確認しようとした。しかし、返ってきたのは無機質なノイズだけだった。
「通信が途絶えた…」
不穏な空気が広がる中、突然、爆発音が艦内に轟いた。振動が全身を襲い、私たちは一瞬の混乱に飲み込まれた。
「くそ、爆発だ!何者かが艦内に潜入している!」
カインが叫び、私たちはすぐに行動を開始した。私は護衛兵に指示を出し、ヴァルゼック大佐を再度拘束するよう命じたが、すでに彼の姿はどこにもなかった。
「やられたか…!」
私は歯を食いしばり、すぐに大佐の行方を追った。彼は何者かと連携し、私たちの艦内に爆発物を仕掛け、混乱を引き起こしていたのだ。
艦内は混乱の渦に包まれていた。敵が艦内に潜入し、破壊活動を行っているのは明らかだった。だが、彼らがどこから来たのか、どのようにしてここまで侵入したのかは全くわからない。
「ライナー、ヴァルゼック大佐が消えた!何者かに救出されたんだ!」
カインが焦燥感を露わにしながら駆け寄ってきた。私はすぐに周囲を確認し、敵の動きに備える。大佐が逃げたということは、艦内のどこかで彼の救出作戦が進行しているということだ。
「フィリシア中尉、艦内の全員に警戒を強化させてください。敵が内部にいる可能性が高いです。」
「了解。全員、警戒を強化せよ!敵が潜入している可能性がある!」
中尉の指示が全艦に伝わり、兵士たちは一斉に警戒態勢に入った。だが、その矢先、再び爆発音が響いた。今度は艦の後方からだ。
「またか…!どうなっているんだ!」
私は即座に後方に向かい、爆発の現場を確認した。そこには、艦の重要な制御室があり、敵がこの場所を狙った理由は明らかだった。制御室を破壊すれば、艦の動きを封じることができる。
「ライナー、急げ!制御室が破壊されれば、私たちは動けなくなる!」
カインが叫びながら駆け寄ってくる。私は推進装置を最大限に稼働させ、制御室に突入した。
制御室に入ると、そこには何者かが仕掛けた爆発物が残されていた。それは特殊な装置で、通常の方法では解除できないような精巧な仕掛けが施されていた。
「このままでは、艦が…」
私は即座に通信機を手に取り、専門部隊に支援を要請した。しかし、応答は途絶えており、制御室の爆発を防ぐためには私たち自身で何とかするしかない。
「ライナー、これをどうする!?」
カインが焦燥の表情で問いかけてくる。私は一瞬考え、爆発物の解除に挑むことを決めた。時間は限られているが、今できることはそれしかない。
「俺が解除を試みる。カイン、お前は周囲を警戒しろ。何が起きてもおかしくない。」
私は息を整え、慎重に爆発物の解除作業に取りかかった。目の前には複雑な配線があり、少しでもミスをすれば即座に爆発する危険性があった。
「集中しろ…」
自分に言い聞かせながら、私は慎重に手を動かし、配線を解析していった。敵は高度な技術を使ってこの爆発物を設置していたが、その仕組みを理解することで解除の可能性は見えてくる。
数分後、私はついに爆発物の解除に成功した。緊張感が一気に解け、制御室の機能が正常に戻るのを確認した。
「よし…解除完了だ。」
私はカインに報告し、周囲の状況を再確認した。艦は再び動きを取り戻し、敵の破壊工作を回避することができた。
「ライナー、お前がいなければ、今頃俺たちは全滅していたかもしれない。」
カインが安堵の表情を浮かべて笑ったが、私はまだ気を緩めることができなかった。
「まだ終わっていない。ヴァルゼック大佐を捕らえなければ、この状況は改善しない。」
私は再び大佐の捜索を始めるため、艦内の調査を進めることにした。敵はまだ潜んでおり、彼らの目的が何なのかは不明だ。
艦内の捜索が続く中、私はある場所で不審な影を見つけた。それは大佐の護衛として活動していた者の一人だったが、彼は通常の護衛兵とは異なる動きをしていた。
「何者だ…?」
私はその男を追いかけ、廊下の先で追い詰めた。彼は何かを操作しており、その手元には小型の通信装置が見えた。
「待て!」
私は銃を構え、男に降伏を促した。しかし、彼は笑みを浮かべながら、通信装置を起動させた。
「もう遅い…我々の主力艦が到着する。」
彼の言葉に、私は戦慄を覚えた。彼らは既に次の一手を打っていたのだ。私たちがヴァルゼック大佐を捕らえたことを知り、彼らの主力艦がこちらに向かっているというのだ。
「くそ…」
私は即座に艦内に報告し、全員に警戒を促した。新たな敵の出現により、戦局はさらに複雑化していくことになるだろう。
「この戦いは、まだ終わらない…」
私は心の中でそう呟き、次なる敵との戦いに備えることを決意した。ヴァルゼック大佐を捕らえることができたとしても、戦争の終わりはまだ遠い。それどころか、新たな戦局が幕を開けようとしていた。