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無重力の死線、勝利への突破口

勝利の余韻が冷めやらぬまま、私は艦内に戻った。無重力での新たな戦術を編み出し、敵を打ち破った喜びが胸に残っている。しかし、それは束の間の達成感にすぎない。次の戦いが既に始まろうとしていた。


「ライナー、よくやったな。お前の間合いの理論は見事だった。」


 艦内に戻ると、カインが満面の笑顔で迎えてくれた。彼の顔には疲労の色が浮かんでいるが、同時に喜びも混じっていた。


「ありがとな、カイン。だが、これはまだ序章だ。俺たちはまだ戦いの真っ只中にいる。」


 私は深呼吸をし、精神を落ち着かせた。無重力空間での戦いは地上戦とは異なり、体力的な疲労だけでなく、精神的な消耗も大きい。無重力での操作や位置取り、敵の動きを読み取ることには、膨大な集中力が必要だった。


「次の指示はどうなっているんだ?」


 私は周囲を見渡し、指揮を取っているフィリシア中尉の姿を探した。彼女は冷静な目を輝かせ、周囲のモニターに目を向けている。


「中尉、次の行動は?」


 私は中尉に声をかけたが、彼女は一瞬、険しい表情を見せた。どうやら次の作戦に頭を悩ませているようだった。


「ライナー、カイン。次の目標は、敵艦隊の中央本陣だ。だが、問題がある。」


「問題?」


 カインが眉をひそめた。私はその言葉に胸騒ぎを覚えた。これまでの戦闘でも敵の動きにはパターンがあったが、何かが違うということなのだろうか。


「敵の本陣は強力なエネルギーシールドで守られている。これを突破するためには、通常の攻撃では全く効果がない。さらに、敵は我々の動きを完全に把握している可能性がある。」


 フィリシア中尉の説明に、私は唾を飲み込んだ。エネルギーシールドを破る手段は今までの戦術では存在しなかった。それに、敵がこちらの動きを把握しているということは、奇襲や隠密行動も通じないということだ。


「どうする、ライナー?お前の新しい戦術でも、このシールドは破れないだろう。」


 カインが心配そうに尋ねた。私は腕を組んで考え込んだ。無重力での戦術は確かに新しいアプローチを見出したが、今回のシールドはまるで別次元の問題だ。


 「待て、シールド…か。」


 私は急に閃きを得た。エネルギーシールドとは防御力を極限まで高める技術だが、その性質には共通の弱点がある。シールドは外部からのエネルギーを弾くが、過剰なエネルギーが加われば過負荷状態に陥ることがある。その理論を活用できるかもしれない。


「もしかすると、シールドの弱点を突けるかもしれない。」


 私は自信を持って言ったが、カインとフィリシア中尉は少し疑念を抱いているようだった。


「弱点?どういうことだ?」


 フィリシア中尉が問いかける。彼女の目には冷静さがあるが、同時にこれ以上の無駄な被害を避けたいという思いも感じられた。


「シールドがエネルギーを弾いているなら、逆にそのエネルギーを使って過負荷状態を作り出せば崩壊するかもしれない。ただし、必要なのは膨大なエネルギーだ。」


 私は推測を伝えた。エネルギーシールドの技術は、いずれの宇宙勢力にとっても重要な防御手段だ。しかし、過剰なエネルギーを加え続ければ、シールドの限界を超える可能性がある。


「つまり、エネルギーを使い切る前に、シールドに意図的な過負荷をかけると?」


 フィリシア中尉は少し考え込んでいたが、次第に理解を示したようだ。


「だが、そのエネルギーはどこから引き出すんだ?我々の艦隊にそんな余力はないぞ。」


 カインが実務的な質問を投げかける。確かに、それが最大の問題だった。敵のシールドに過負荷をかけるだけのエネルギーをどこで調達するか。その答えは簡単ではない。


「ある。」


 突然、艦内の通信が割り込んできた。スクリーンに映し出されたのは、帝国軍の司令官であるゼフィラス将軍だ。彼は冷酷な顔立ちで知られており、階級社会においては絶対的な権威を誇る存在だった。


「ゼフィラス将軍…!」


 私たちは一斉に敬礼をした。将軍は一瞬、私たちの態度に目を向けたが、すぐに話を続けた。


「敵のシールドを破る方法はすでに考案されている。我々の後方に配置してある大型エネルギー砲を使用すれば、シールドに過負荷をかけることができる。」


 その言葉を聞いて、私は息を呑んだ。後方にそんな装備があったとは知らなかった。


「大型エネルギー砲は一撃で全エネルギーを放出するが、その発射には時間がかかる。その間、前線で敵の攻撃を防ぐ必要がある。」


 ゼフィラス将軍の冷淡な声が響き渡る。私たちはその重責をすぐに理解した。


「つまり、俺たちが盾となって敵の攻撃を引き受け、その間に大型エネルギー砲がシールドを破るのを待つというわけか。」


 カインが険しい表情で言った。敵の攻撃を耐え抜くということは、死を覚悟した戦いになるということだ。私は冷や汗が流れるのを感じたが、ここで退くわけにはいかない。


「その通りだ。時間が限られている。すぐに準備を整え、前線で敵を食い止めろ。これは命令だ。」


 ゼフィラス将軍の命令に、私たちは再び敬礼をし、準備に取りかかった。


大型エネルギー砲の発射準備が進む中、私たち前線部隊は再び艦に乗り込み、出撃の準備を整えた。艦内は緊張感に包まれている。これから始まる戦いは、私たちの命を賭けた一大決戦だ。


「ライナー、準備はできたか?」


 カインが隣で声をかけてくる。彼の顔には覚悟が滲み出ている。私も同じように、心の中で覚悟を固めていた。


「ああ、もちろんだ。俺たちがやらなければ、誰もこのシールドを突破できない。」


 私は自分自身を鼓舞するように言った。無重力空間での戦いは過酷だが、それ以上に、この戦いには帝国の未来がかかっているのだ。


「行くぞ、全員!敵艦隊が接近している!」


 フィリシア中尉が号令をかけ、私たちは艦内での準備を終え、前線へと出撃した。


艦が宇宙空間に放たれると、すぐに敵艦隊が視界に入った。無数の光弾が飛び交い、無重力空間に炎と爆発が広がる。私たちは推進装置を最大限に駆使し、敵艦隊との距離を詰めながら防御体勢を整えた。


「ライナー、敵の攻撃が来るぞ!」


 カインの声に反応し、私は素早く反転して敵の光弾を避ける。推進装置の操作に慣れてきたことで、無重力空間での動きがスムーズになっていた。


「全員、シールドの前で防御を固めろ!時間を稼ぐんだ!」


 フィリシア中尉の指示に従い、私たちは敵艦隊の猛攻を防ぎつつ、後方の大型エネルギー砲の発射準備を待った。だが、敵の攻撃は想像以上に激しかった。


「くそっ…!」


 私は咄嗟にエネルギーシールドを展開し、敵の光弾を防いだ。しかし、シールドはすぐに限界を迎え、弾け飛んでしまった。


「ライナー、無事か?」


 カインが心配そうに声をかけてくる。私は息を整え、再び戦闘体勢に戻った。


「まだだ、まだ終わってない!」


 私たちは必死で敵の攻撃を防ぎ続けたが、次第に疲労が溜まっていく。無重力空間での戦いは、体力的にも精神的にも限界が近づいていた。


「時間が足りない…!」


 私は焦燥感に駆られながらも、敵の攻撃に対応していた。だが、その時、艦内から通信が入った。


「エネルギー砲の準備が整った!全艦隊、退避せよ!」


 ついにその時が来た。私たちは即座に退避行動を取り、後方の大型エネルギー砲に道を開けた。敵艦隊はまだこちらに集中して攻撃を仕掛けている。


「撃て!」


 ゼフィラス将軍の号令が響き渡り、巨大なエネルギー砲が発射された。無数の光が一瞬にして敵艦隊を貫き、そのエネルギーは敵のシールドに直撃した。


「シールドが…!」


 敵艦隊のエネルギーシールドが一瞬で崩壊し、無防備な状態に陥った。私たちはその隙を逃さず、一斉に攻撃を仕掛けた。


「今だ!攻撃を仕掛けろ!」


 私の号令に合わせて、艦隊全員が総攻撃を開始した。敵艦隊は次々に崩壊し、最終的には全滅した。


「やった…やったぞ…!」


 私は歓喜に震えながら、拳を握りしめた。無重力空間での戦いは過酷だったが、ついに勝利を掴むことができたのだ。


艦に戻ると、私たちは全員が疲労困憊していた。それでも、勝利の喜びが私たちを支えていた。


「ライナー、よくやったな。お前の理論がなければ、ここまで来られなかった。」


 カインが笑顔で肩を叩いてきた。私は少し照れくさく感じながらも、笑みを返した。


「俺一人の力じゃない。みんながいたからこそ、勝てたんだ。」


 そう言いながら、私はふと空を見上げた。無重力空間での戦いは終わったが、私たちにはまだ多くの課題が残っている。


「これからも、戦いは続く。俺たちはもっと強くならなければならない。」


 私は静かにそう呟き、次なる戦いに備えるための決意を新たにした。

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