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階級社会の重圧と無重力戦術の革新

宇宙戦闘は地上戦と違い、まさに三次元の戦場だった。上下のない空間で、前後左右、あらゆる方向からの攻撃に対処しなければならない。その事実を痛感するたび、地上戦術の常識が崩れ去るのを感じていた。


「ライナー、右から来るぞ!」


 カインの警告に反応し、私は推進装置を全力で操作した。すぐ脇をすり抜けるようにエネルギー弾が飛び、間一髪で攻撃を避ける。地上でなら瞬時に回避できたはずの攻撃が、ここでは少し遅れる。その微妙なタイムラグが今も私を苛立たせていた。


「まったく、無重力には慣れねえ…」


 私のつぶやきに、隣で戦っているカインが苦笑した。


「無理もないさ。お前は地上戦のエキスパートなんだからな。宇宙での戦闘は全く別物だ。だが、お前ならすぐに順応できるはずだ。」


 彼の励ましはありがたかったが、私自身はまだ自信を持てずにいた。前世で培った戦術の知識は、ここでは全く通じない。陣形や位置取りといった戦術の基本が、この宇宙では無力なのだ。上下がない空間で、敵の位置を正確に把握することさえ難しい。ましてや、連携を取りながら戦うのは至難の業だ。


 だが、それでも戦わなければならない。星間帝国の士官として、無重力の戦場で生き延び、勝利するために新たな戦術を編み出すことが私の使命だ。


「カイン、次の動きに備えているか?」


「ああ、問題ない。こっちの準備も万全だ。」


 カインは軽く頷き、私たちは再び前方の敵艦隊に向けて進撃を開始した。目の前に広がる敵の陣形は、まるで巨大な渦のように複雑に動いている。地上戦では考えられないような立体的な攻撃が、無重力空間では常に繰り広げられていた。


 私は必死でその動きを追いながら、どうにかしてこの戦場で有利に立つ方法を考えていた。地上での経験が役に立たない以上、新たなアプローチが必要だ。それは単なる反射的な動きではなく、理論的な戦術によるものだ。


「全員、次の攻撃に備えろ!敵艦が右舷に集中している!」


 フィリシア中尉の指示が飛ぶ。彼女は部隊の指揮官として、常に冷静かつ的確な判断を下していた。厳格な性格ゆえに部下たちからは畏敬の念を抱かれているが、その指揮能力は誰もが認めるものだった。


「了解しました、中尉。俺たちは右側を守ります!」


 カインが即座に応じ、私も彼に続いた。敵艦の動きは高速だが、そのパターンはある程度読めるようになってきた。地上戦とは違うが、敵の行動には一定の法則が存在する。


「よし、ここだ…!」


 私は推進装置を操作し、敵の動きを先読みする形で反撃の体勢に入った。敵艦が予想通りの軌道でこちらに接近してくる。


「今だ、撃て!」


 私の号令に合わせて、仲間たちが一斉に攻撃を仕掛けた。光弾が放たれ、敵艦の装甲を貫く。爆発音が虚空に響き、敵艦が火を吹いて沈んでいく。


「やった…!」


 私は思わず拳を握りしめた。無重力戦闘においても、パターンを読み、タイミングを計ることで地上戦術を応用できることが分かったのだ。


「さすがライナーだな。あの攻撃は見事だった。」


 カインが笑みを浮かべて肩を叩く。私も少しだけ笑顔を見せたが、心の中ではまだモヤモヤが残っていた。地上戦術が完全に通じるわけではない。今の攻撃が成功したのは偶然かもしれないし、もっと効率的な方法があるはずだ。


 その時、無線に中尉の声が割り込んできた。


「ライナー、カイン、次の目標を確認しろ。敵艦隊が中央に再集結している。これから大規模な反撃が来るぞ。」


 フィリシア中尉の声には緊張感が漂っていた。敵艦隊の動きが活発になっているということは、彼らも本気を出してくるということだ。私たちはすぐに準備を整え、再び前線に向かう体勢を取った。


「ライナー、気を引き締めろ。次はもっと厳しい戦いになるぞ。」


 カインが真剣な表情で私に警告する。私は深呼吸をし、冷静に周囲を見渡した。


「分かっている。ここで倒れるわけにはいかない。」


 敵艦隊の動きが一瞬止まったかと思うと、次の瞬間には猛烈な速度でこちらに向かって突進してきた。無重力空間での高速戦闘は、地上戦とは比べ物にならないほどのスピード感だ。私は必死で推進装置を操作し、敵の攻撃をかわしながら反撃の機会を狙った。


 だが、敵の攻撃は予想以上に激しかった。連続するエネルギー弾の嵐が、私たちの艦隊を襲い、次々と仲間が倒れていく。


「くそっ…!どうすれば…」


 私は焦りながらも必死で反撃の機会をうかがっていた。しかし、敵の攻撃は止まることなく、私たちの艦隊を圧倒していた。


「ライナー、何か考えがあるか?」


 カインが冷静さを失いかけた声で問いかけてきた。私も同様に焦りを感じていたが、ここで動揺しては何も解決しない。


 「待て…まだ何かあるはずだ…!」


 敵の動きを注視しながら、私は考えを巡らせた。この状況を打破するためには、地上戦術の応用ではなく、新しい戦術が必要だ。無重力空間での動きを完全に理解し、それを利用して敵を翻弄する方法が。


 その時、ふと気づいたことがあった。敵艦隊の動きには、ある特定のパターンがあった。彼らは一定の距離を保ちながら攻撃を仕掛けてきている。これは、彼らが無重力空間での動きを安定させるために必要な間合いなのではないか?


「間合いか…」


 私はその考えをもとに、次の行動を決めた。


「カイン、フィリシア中尉に連絡を取れ。俺に時間を稼いでくれ。」


「お前、何をする気だ?」


「敵の間合いを崩す。無重力戦の新しい戦術を試すんだ。」


 カインは驚いた表情を見せたが、すぐに頷いて私の計画に従ってくれた。彼がフィリシア中尉に指示を伝える間、私は推進装置を最大限に活用し、敵艦隊の中央に突進していった。


 敵の間合いに飛び込むことで、彼らの動きを乱し、攻撃のタイミングを崩す。無重力空間での間合いを利用した戦術だ。


「行くぞ…!」


 私は推進装置を操作し、一気に敵艦隊の中央に飛び込んだ。敵は私の予想通り、間合いを崩されて動揺し、攻撃のタイミングが狂っていた。


「今だ!全員、反撃しろ!」


 私の声が響き渡り、仲間たちが一斉に攻撃を仕掛けた。敵艦隊は次々と撃破され、私たちは勝利を収めた。


「やった…!」


 私は拳を握りしめ、喜びをかみしめた。無重力空間での新しい戦術が通じたのだ。地上戦術とは違うが、私なりのアプローチで勝利を掴むことができた。


「ライナー、お前…本当にすごいな。」


 カインが驚いた表情で私を見つめていた。彼の言葉は私にとって何よりの褒め言葉だった。


「ありがとう。でも、これはまだ始まりだ。もっと無重力戦術を磨かないといけない。」


 私は決意を新たにし、無重力空間での戦い方を極めるための新たなステップに進もうとしていた。地上戦術の限界を乗り越え、宇宙戦での新しい戦術を編み出す。それが、私の使命だと感じていた。



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