1−2 狩人カインとの出会い
シンは弓を構える男に対して、刀を構えたままじっと動かずにいた。お互いに警戒し合いながら、視線を交わす。
「※◇△◎?」男が鋭い声で問いかけた。しかし、その言葉はシンにとって理解できない異国の言葉だった。シンは男の言葉を理解できないことに気づき、両手を上げて敵意がないことを示そうとした。
男は弓を引き絞りながら、シンを観察していた。シンは冷静さを保ちながらも、心の中では警戒心を強めていた。この異世界での最初の出会いが友好的なものであることを願いながらも、いつでも戦闘態勢に入れるよう準備を整えていた。
その時、男の目がシンの腰にある刀に向けられた。男は一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。「※◇…◎△?」男は呟いたが、シンにはその意味が分からなかった。
シンは男に対して慎重に一歩を踏み出した。「待て、俺は敵じゃない。」シンは母国語で言ったが、男には通じなかった。男はさらに警戒を強め、弓の矢をシンに向けたまま動かなかった。
シンは一瞬の静寂の中で何をすべきか考えた。言葉が通じない状況で、相手に自分の意図を伝える方法を見つけなければならない。彼は手のひらを広げて見せ、ゆっくりと刀を鞘に収める動作を見せた。これにより、敵意がないことを示そうと試みた。
男はシンの動きをじっと見つめていたが、シンが刀を鞘に収めると、少しだけ警戒心を解いたように見えた。男は弓を下ろし、慎重にシンに近づいた。
「◇◎※?」男は再び問いかけたが、その言葉は依然としてシンには理解できなかった。
シンは手で自分の胸を叩き、「シン」と名乗った。そして、男を指差して名前を尋ねる仕草をした。男は一瞬戸惑ったが、自分の胸を叩いて「…カイン」と答えた。シンは頷き、カインの名前を覚えた。
カインはシンの行動を見て、少しずつ敵意を解いていった。彼は弓を完全に下ろし、シンに対して手を差し伸べた。シンはその手を握り返し、少しだけ安堵した。「カイン...」シンはカインの名前を繰り返し、互いに理解し合うための第一歩を踏み出した。
カインはシンに何かを伝えようとしたが、言葉が通じないために身振り手振りで説明し始めた。彼は近くの村を指差し、その方向に向かうよう示した。シンはその指示に従い、カインの後に続いて歩き始めた。
道中、カインはシンに対していくつかの質問を投げかけたが、シンはそのほとんどを理解できなかった。それでも、カインは辛抱強くシンに説明を続け、少しずつコミュニケーションの方法を見つけようとしていた。
「◆◇△◎※。※◇△?」カインが再び問いかけた。
シンは肩をすくめ、自分が理解できないことを示すために首を振った。カインは少し考え込んだ後、突然立ち止まった。「◎◇◆△◎。」カインは言いながら、近くの木に登り、見渡せる場所に移動した。
シンはその間、周囲を警戒しながらカインの動きを見守っていた。数分後、カインは木から降りてきて、「◇※◆。◇◎。」とジェスチャーで示した。
しばらく歩いた後、二人は森の端にある小さな村に到着した。カインは村の入口で立ち止まり、シンに対して「◆※◇△◎」と示すように手を広げた。
カインはシンを村の中に案内し始めた。シンはカインの後をついて行きながら、この村でどのような情報が得られるのか期待と不安を胸に抱いていた。
村の中心には小さな広場があり、そこには数人の村人たちが集まっていた。カインは広場を横切り、他の家よりも少し大きく、風格がある建物を指差してこっちにくるよう手招きしている。
カインはドアをノックし、中から年老いた男性の声が聞こえてきた。「◇◎。」
カインはシンを連れて家の中に入り、男性にに向かって頭を下げた。「◆◆◆◆△◇◎△◇◆。◎△◆※△?」
その男性はこの村の村長のようだ。
村長はシンをじっと見つめ、彼の異様な姿に興味を持ったようだった。「※△◎、△◇※◆◆※。△◎※※。」
シンは村長の言葉を理解できなかったが、カインのジェスチャーに従って席に着いた。村長はシンの姿をしばらく観察した後、カインに何かを尋ねた。
「※◎◇△※※、◇△◎△※◆◆?」
カインは首を振り、「◆※△、△△◎※◆。△※△◎※※。」
村長は深く考え込んだ。「◆※※△◎◇△、△◇△◎※◆◆◆※※。」
シンは二人の会話を見守りながら、自分が理解できないことに苛立ちを感じていた。しかし、ここで焦っても何も始まらない。彼は冷静さを保ち、状況を見守ることにした。
カインは村長に向かって再び話しかけた。「◎※△◇◆△◇◎※◆。△◇◎※△◇◆。△◎※◆※◎◆※。」
村長は頷き、「※△◎、◆※△※◎△。△△※◎◆◆。」と言って奥の部屋に消えて行った。
シンはカインと共に村長の家で待つことにした。しばらくすると、村長が古い書物を持って戻ってきた。
村長は書物をテーブルの上に置き、開いた。彼は呪文を唱え始めた。シンは興味深くその様子を見守りながら、自分が何をされるのか不安を感じていた。
突然、その書物が淡い光を放ち始め、シンの周囲に不思議な気配が漂った。シンは一瞬身を硬くしたが、次第にその光が優しく包み込むように感じた。
「これでどうだ?」村長がシンに向かって尋ねた。
シンは驚きながらも、村長の言葉が理解できることに気づいた。「あなたの言葉が...理解できる...」
村長は満足そうに頷いた。「よし、これで話ができるな。お前は一体どこから来たのだ?」
シンは深く息を吸い、ゆっくりと話し始めた。「私は倭国という国から来た侍です。戦いの最中に敵の魔法に巻き込まれて、この世界に飛ばされてしまいました」
村長はシンの話をじっと聞いていた。「…そうか。異世界から来たとは信じられないが、もう日が落ち始めている。とりあえずこのレンウィン村でゆっくりしていきなさい。」
シンは深く頷いた。「ありがとうございます。」
村長は頷きながら「カインよ、この若者が泊まれる場所に案内しなさい。」
カインは頷き、シンに向き直り、「では、行こう。」と言って手招きした。シンはカインの後について村長の家を出た。
外に出ると、日がすっかり傾き、村は夕暮れの静かな光に包まれていた。カインはシンを連れて村の中心部に向かいながら、「さて、シン。異世界から来たという話は本当か?」と問いかけた。
「本当だ。」シンは真剣な表情で答えた。「戦いの最中に陰陽師の魔法に巻き込まれ、気がついたらここにいた。」
カインは少し考え込んでから、「それは驚いた話だ。だが、お前が嘘をついているようには見えないな。」と笑みを浮かべた。
「ありがとう。俺もまだこの状況が信じられないが、元の世界に戻る方法を見つけるために何か手がかりを探さなければ…」シンは俯きながら言った。
カインはシンの肩を軽く叩き、「大丈夫だ。村長が言っていた通り、ここで少し休んで体力を回復しよう。明日はまた考えればいいさ。」と励ました。
二人は村の中央にある小さな宿屋に到着した。カインは宿屋の主人に話しかけ、「この若者が一晩泊まれる部屋をお願いしたい。」と言った。宿屋の主人は笑顔で頷き、シンに部屋の鍵を渡した。
「こちらへどうぞ。」カインがシンを部屋まで案内しながら、「今夜はゆっくり休んでくれ。明日から一緒に手がかりを探そう。」と声をかけた。
「ありがとう、カイン。」シンは感謝の意を込めて頭を下げた。
カインは微笑みながら、「助け合いが大事だ。この村の人々は皆、親切だから安心していい。」と答えた。
シンは部屋に入ると、簡素ながらも清潔な部屋を見回した。ベッドに腰掛け、深呼吸をして一日の出来事を振り返った。「異世界に飛ばされるなんて、まるで夢のようだな...」
シンはベッドに横たわり、静かに目を閉じた。彼は徐々に眠りに落ちていき、村の静けさと疲れから解放され、深い眠りについた。