第九十九話 腰を抜かしたセレノス様
翌日、ロファ城の玉座の間には、全ギルドのギルドマスターと、ライトブリーズが王様の呼び出しに応じて勢ぞろいしていました。
そして本部のギルドマスターのローゼスが、フレディア達が無事に任務を果たしたことを王様に進言しました。
「な、なんと!ヤーンの遺跡からイーヴの魔石を持って帰ったとな!?」
「キャハハ!ほらっ、これがそうだよ!!」
フレディアは自分の首にかけているペンダントを王様に見せてあげました。
「おぉ!それがイーヴの魔石!」
「いや、さすがは天使さん達じゃ!」
「ヤーンの遺跡から見事イーヴの魔石を持ち帰るとは!!」
「キャハハ!」
「ところでフレディア殿。前から気になっていたことがあるのだが・・・」
「後ろにおられる立派な騎士殿と、若い娘さんも天使なのかな?」
「ハンクとルナは天使じゃないよ。二人とも人間だよ」
「何と!天使ではなく、人間?!しかし、それにしては・・・」
「そうか!では、その騎士殿もバズエルの魔法で姿を!」
「いや、そうであったか・・・」
王様は一人で納得して頷いています。
「なんか、勘違いしているみたい・・・」
「ふふ・・・。別にかまわんさ」
フレディアはハンクを見て言いますが、本人は気にしていないようです。
「ハンク殿と申されたな。立派な体格をしておるが、きっと名のある騎士の家柄なのであろうな?」
「いや、俺は鉱山で働くただの男。そのような立派な家柄などではありませんよ」
「ハンクは捨て子だったの。それをジーノの鉱山で働くボムじいさんに拾われたのよ」
何か勘違いしている王様に、フレディアが説明しました。
「なに、捨て子!?それは失礼な質問をしてしまった。どうか許されよ」
「それと失礼ついでに、もうひとつだけ質問をさせてもらいたいのだが・・・」
そう言うと、ルナの方を見て尋ねました。
「ハンク殿の隣におる娘さんじゃが・・・」
「この娘さんには、このような危険な旅は似合わぬような気がするのだが・・・」
「なにか、特別な理由でもおありかな?」
「・・・・・・・」
「いや、話したくなければ、別によいのじゃ。ただ・・・」
返事をしないルナに王様がもう一度話しかけた時、それまで黙って見ていた王妃様が声をかけました。
「わたくしも、その事が気にかかっておりました」
「つい先ほどまで、フレディアさんと同じ天使様だとばかり思っておりましたので、何も申しませんでしたが・・・」
「このような可憐なお嬢さんが、ダグダルムへ行くなんて・・・」
「・・・・・・・・」
「どうでしょう?ここへ残られては?」
「いえ、是非そうなさってください!」
「・・・・・・・・」
王妃様が困った顔のルナを心配そうに見つめているので、カーナが代わりに答えました。
「あの~っ。ルナは声が出ないんです・・・」
「「えっ!!」」
「な、なんと!!」
王様と王妃様は驚きの声を上げました。
「それに、ルナはここには残りません」
「あたしたちが何度そう言い聞かせても、ダメなのです!」
「いや、しかし・・・」
王様がなおも引き留めようとした時、大臣と従者が息を切らせて駆けてきました。
「ふう、ふう・・・。王様、お申しつけの品をお持ちいたしました!」
「おぉ、大臣ご苦労であった!そこに置いてくれぬか」
「はっ!よいしょっと・・・」
大臣たちが運んできたのは、立派な鎧でした。
「ハンク殿!これは、ロファ王家に代々伝わる家宝の『ガイアの鎧』である」
「この鎧を身にまとい、国の平和のためバズエルと戦ってくれまいか!?」
王様に頼まれたハンクは、言われるままにガイアの鎧を身に着けました。
「「「おおぉ~~~~っ!!!」」」
「何と!まるで勇者のようだ!!」
鎧を身に着けたハンクの姿が、あまりにも凛々しく見えたので、周りの人も思わず声を上げました。
「うむ!見事な武者ぶりじゃ!!ハンク殿頼んだぞ!!」
王様はハンクの姿を見て、満足そうに頷いています。
「へ~っ!馬子にも衣裳って言うけど、すごく似合っているじゃん!」
「なんか、仕立てたみたいにサイズもピッタリだし!」
カレンが照れているハンクをからかいに来ましたが、あまりにも似合っているので、つい本音を言ってしまいました。
「ほんとピッタリね?」
「王家の人って、みんな身体が大きいのね・・・」
フレディアも感心していると、そこへトコトコとセレノス様がやって来ました。
「おぉ!お前たち、帰っていたのか!」
フレディアを見つけて声をかけましたが、ふと横にいるカレンを見たセレノス様は、まるで雷に打たれたような強烈な衝撃を受けました。
ガ~~~~ン!!!
(な、な、な、なんという美しい女性じゃ!!)
(わしは今まで、これほど美しい娘は見た事がない!!)
あまりのショックに、セレノス様の理性が完全にふっ飛んでしまいました。
(この美しい娘にスリスリしてもらえたら、わしはもう死んでも本望じゃ!)
「フレディア!よくやった!!」
理性がぶっ飛んだセレノス様は、そう叫びながらカレンに向かって走り出しました。
そして抱き付こうとした瞬間、カレンのムチがうなります。
ピシ~~~~~~ッ!!!
「どひゃ~~~っ!!」
セレノス様の足元に、容赦ない強烈なカレンの一撃が炸裂しました。
セレノス様は驚き、思わずその場で腰を抜かしています。
「おい、おまえ!」
「ネコの分際で、気安くオレに近づくんじゃない!!」
「ひえ~~~っ!わ、わしはネコなんかでは・・・」
「だまれ!ネコのくせにズベコベ言うんじゃない!!」
これは不味いと思ったハンクが、慌ててカレンに言いました。
「いやカレンよ、ネコはズベコベ言わんだろう?」
「そもそもネコが言葉を話せるのを、おかしいと思わんのか?」
ハンクがカレンにネコではないと説明しますが、まったく聞いていません。
「いいか!オレに近づいていいのは、強い猛獣か魔獣だけだ!!」
「お前がトラなら話は別だが」
「ネコは黙ってコタツで寝ていろ!!」
カレンにピシッと言われたセレノス様は、完全にビビッて目を白黒させています。
「キャハハ・・・・」
この様子を見ていたフレディアは、お腹を抱えて笑い転げていますが、カーナは青い顔をして慌ててセレノス様の元へ走りました。
「あわわ・・・。セレノス様だいじょうぶ?!」
「!!!」
「えっ!?」
カーナの慌てる様子を見たカレンは、驚いてハンクに尋ねました。
「おい、ハンク!あのネコって、まさか・・・」
「カーナのペットなのか?」
「そんな訳ないだろう!」
ハンクは、カレンの天然ボケにあきれ返って、ドン引きしています。




