第九十二話 パステルの町の大浴場
ハンクはジェンナから受け取った矢を、丹念に調べています。
そしてジェンナに向かって言いました。
「思った通りだ!」
「この爆薬より、ジーノの鉱山で使っている爆薬の方が威力は上だよ」
「えっ!じゃあ・・・」
「あぁ、そいつを使えば、今の倍の威力になるだろう」
「ば、倍の威力!?」
「ジーノのギルドと合流したら、量産できるようにギルドマスターに頼んでみるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
(ハンクさん、やさしい・・・)
ジェンナが感激してウルウルしていると、フレディアの声が聞こえてきました。
「みんな、今日はお疲れ様でした~!」
「じゃあ、明日から球を50個に増やすから、よろしくね!」
「「「ええ~~~っ!!!」」」
「お、鬼だ!フレディアちゃんは、本当は鬼だったんだ・・・」
「もう無理!絶対に無理!」
フレディアのサラリと言った言葉に、その場の全員が激しく動揺しています。
「あ~・・・。そう言う訳だから、今日は解散!」
ダグラスの号令で、今日の訓練は終了となりました。
それから9日後、一行はパステルの町に到着しました。
「「「うわっ、はっ、はっ、はっ・・・・・・」」」
大笑いしているのは、船上で訓練をしていたギルドの男連中でした。
疲れを癒すために、みんなでここパステルの町の大浴場へ来ていたのです。
「それにしても、ひでえ有様だな!」
「いや、いや、お前の尻のアザには負けるわ!」
大笑いの原因は、氷の球が当たって出来たアザでした。
全員体中アザだらけになっており、お互いにそれ見て笑っていたのです。
「いや、だけどアザの数ではカチュアには勝てないわ~!」
「そうだな!大アザチャンピオンはカチュアに決定!!」
「「「うわっ、はっ、はっ、はっ・・・・・・」」」
「うるせえ!そんな称号いらんわ!!」
茶化すブロンディとフランクに、ブスッとした顔でカチュアが文句を言います。
そんなカチュアに、同じギルドのテイストが笑いながら言いました。
「いや、カチュアよ!そんな顔するなよ!」
「実は、俺達はお前の勇気を尊敬しているんだぜ~!」
「はぁ?どういう事?」
意味が分からず、カチュアは怪訝な顔でテイストに尋ねます。
「みんな聞いてくれ!こいつの武勇伝を!!」
テイストは、よく通る大きな声でみんなに呼びかけました。
「なんだ!一体なにをしたのだ?」
「言っておくが、俺たちは少々の事では驚かんぞ!」
「あぁ、ここにいる連中は、みんな死線をくぐりぬけて来た猛者ばかりだからな!」
その場にいた他のギルドの面々も、一体何事なのかと、興味津々で聞き入っています。
「聞いて驚くなよ!!」
「だって、こいつ!カルカラッサの全ギルド員の見守る中で!」
「あのカレンさんにプロポーズしたんだぜ~!!」
「「「ええ~~~っ!!!」」」
「すごい!まさに勇者だ!!」
「恐れ入りました!これから勇者カチュア様と呼ばせてください!」
「命知らずなの?それともバカなの?」
ギルドの猛者たちが口々にカチュアを囃し立て、もう浴室の中はテイストの爆弾発言で大騒ぎになっています。
そして渦中のカチュアは、顔を真っ赤にして浴槽の中に沈んでしまいました。
「それで?!」
「それでどうなったんだ!?」
「早く結果を教えてくれ!」
みんなプロポーズの結果を知りたくて必死です。
「プロポーズの結果は・・・」
ゴクリ・・・。
「尻を噛まれて撃沈しました~!!」
「「「どわっ、はっ、はっ、はっ・・・・」」」
みんな腹を抱えて大笑いしています。
「いや、ちょっと待て・・・」
そんな中、クラッシャーズのオニールが、腹をかかえながらテイストに尋ねます。
「カチュアの尻に嚙みついたのは、一体誰なんだ?」
「そこをハッキリさせておかないと!」
「なに言ってんだ、従魔のブルートに決まっているだろ」
「はっ、はっ、はっ・・・」
「いや、そうだろうと思ったけどさ!」
「でも、あのカレンさんならやりかねないと・・・」
オニールがそこまでしゃべった時、隣の女湯から聞き覚えのある声がしました。
「おい、ジェンナ!」
「あの声は、お前のチームのオニールだな?」
「は、は、は、はい!た、たぶんそうだと思います!」
「「「ギョッ!!!」」」
隣の女湯から流れて来たその声を聞いた瞬間、男湯に居た全員が凍り付いてしまいました。
オニールは顔面蒼白で、お湯の中でガタガタと震えています。
(((やばい!カレンさんだ!!)))
身の危険を感じた男たちは、全員無言のまま慌てて湯船から上がって行きました。
テイストも、縋るような目で見ているオニールを両手で拝みながら、一目散に逃げて行きます。
「そ、そんなぁ~・・・」
一人湯船に残ったオニールは、そのうちブツブツとうわごとのように呪文を唱え始めました。
「時間よ戻れ!時間よ戻れ!時間よ・・・・・」
チ~~~ン!
それからしばらくして、のぼせて浴槽に浮かんでいたオニールが、急遽ギルドへと運ばれて行きました。




