第九話 堕天使バズエル
ダダダダ・・・・・。
「はぁ、はぁ・・・。く、くそっ!神様に物をぶつけるとは!!」
「あの罰当たりめ!!」
「神様を怒らせると、どうなるか・・・。あ、あれ?わしの杖・・・」
「な、な、な、ない!!わしの杖がなくなった!!」
「ど、ど、ど、どうしょう!!」
ネコの姿でうろたえるセレノス様。これは大変な事になりそうです・・・。
ドタ、ドタ、ドタ・・・。
熱心にはさみ将棋をしている神様の元へ、フレディアが帰ってきました。
「ただいま~~~!!」
「おぉ、帰ったかフレディア!」
「フレディア!お前もこっちへ来て将棋をやらんか?」
負けそうになっていた恋を取り持つ神様が、フレディアに席を譲ろうとしています。
「神様、あのね。今日ミントの町でヘンな神様にあったんだけど」
「なに、ヘンな神じゃと?」
「風の神様・・・って言っていました!」
「そいで、『力の杖』というすごい杖を持っていましたよ」
フレディアは今日あった出来事を、技術と創作の神様へ説明しました。
「なんと、そりゃセレノス殿じゃな!!」
話を聞いていた恋を取り持つ神様が、フレディアに教えてくれました。
「えっ?あの人、本当に神様だったんですか?」
「天界の12神の一人、由緒正しき神じゃ」
技術と創作の神様も、うなずきながらそう答えます。
「へ~っ・・・」
「でも、そんなすごい神様が、どうして地上に降りているのですか?」
フレディアは思った疑問を口にします。
「そ、それはじゃな。その、ちょっと悪いクセをもっておっての~」
「悪いクセ?悪いクセって、何ですか?」
「うむ、そ、それは、なんだ・・・」
「わっ、はっ、はっ、はっ・・・」
二人の神様は、最初は口をにごしていたのですが、フレディアがグイグイ質問してくるので、ついに根負けして話をしてくれました。
「その・・・。セレノス殿はちょっとスケベでのぉ・・・」
「他の女神にちょっかいを出してしまってのぉ~」
「それが大神ダレスの奥方、レトナ様に見つかってしまい・・・」
「あの奥方はめっちゃ怖いお方での~」
二人の神様は、交互にフレディアに説明してゆきます。
「ま、早い話が、天界におりづらくなったと言う訳じゃ」
「ゲッ!な、なにそれ?」
「あっ! どうして人間に変身したり、ネコに変身したのか分かった!!」
「神様なのに、よくやるわ・・・」
「まぁ、まぁ、そう言うなフレディア」
「セレノス殿は、それだけで地上に降りたのではないぞ」
ジト目のフレディアに向かって、恋を取り持つ神様がそう言いました。
「えっ?それだけじゃなくて、他に理由があるのですか?」
それについては、技術と創作の神様が説明してくれました。
「うむ!実は今から12年も前の話じゃが、天界の武器庫から力の杖を盗み、地上に降りた天使がおった」
「バズエルという天使じゃ!」
「バズエル・・・」
「バズエルは奪った力の杖を悪用し、魔界の神殿を復活させたのじゃ!!」
「魔界の神殿!?それは一体・・・」
「はるか昔、神々が封印した邪教の神殿ダグダルムじゃ!」
「奴は魔界の神殿にある魔法陣から、まがまがしい魔物を呼び出し、ロファの国を奪おうとしたのじゃよ」
「あっ!ロファの王女を誘拐した事件の事ね!!」
「そうじゃ!ロファの国王を脅迫し、国を奪おうとしたのじゃ!!」
「じゃが、その事に気づいたセレノス殿が。バズエルから力の杖を奪い返し、地上を救ったのじゃ」
「へえ~~~っ。そうだったんですか・・・」
「うむ、それで国は再び平和を取り戻したのじゃが・・・」
「バズエルに連れ去られた幼い王女は、結局行方が分からないままじゃ」
「王女様は、バズエルに殺されちゃったのかな?」
「その事については、奴はニタニタと笑うだけで、一言もしゃべらぬ」
「12年経った今でもな」
「え~~~っ!!バズエルは捕まって、処刑されたんじゃないんですか?」
「奴はまだ生きておるよ。天界の監獄に監禁されておった」
「ついさっきまではな!」
「ついさっきまで・・・って、それはどういう意味ですか?」
「逃げ出しおったのじゃ!」
「えっ!逃げ出した!?」
「今朝の新聞にそう書いてあったのじゃが、なに、そう心配する事はない。すぐに捕まるじゃろう」
ここまでの話をうん、うん、と頷きながら聞いていた恋を取り持つ神様でしたが、急に真顔になって、フレディアに話しかけました。
「そんな事よりフレディア!わしゃ腹が減った、飯を作ってくれんか?」
「おぉ!そうじゃ!何か言い忘れておったと思ったら、それじゃ!!」
「フレディア!飯じゃ、飯!!」
技術と創作の神様も、切羽詰まった顔で訴えます。
「えっ?」
(そんな事より・・・って)
こんなに緊張感がなくてもいいの?と、フレディアは思いましたが、急いで食事の用意を始めるのでした。