第八十伍話 ヤーンの遺跡(四)
結局岩が転がる仕掛けが5カ所もあり、この回廊を抜けた時には全員フラフラになってしまいました。
岩に気付いてから、後ろのへこみに逃げ戻るか、前方のへこみに突っ込むか・・・。
ハンクの判断が遅ければ、みんなペチャンコになっているところです。
「うぷぷ・・・」
「えっ!何がおかしいの?」
肩を震わせて、必死に笑いをこらえているカレンを不思議に思い、フレディアが声をかけました。
「あっははは・・・・」
フレディアに声をかけられたのがキッカケとなり、とうとうカレンが堰を切ったように大笑いを始めました。
「だってオレ、フレディアとカーナが「キャ~~~ッ」って・・・」
「あんな泣きそうな顔をして逃げる姿、初めて見たもの~」
「あっははは・・・・」
カレンはお腹を抱え、涙を流しながら笑っています。
「あ・・・そう言う事ね・・・」
フレディアは納得した様子です。
「あれは仕方がないよね~」
「あたしも、あんな怖い思いしたのは初めてだったし・・・」
カーナは思いだして身震いしています。
どんなに恐ろしい魔物が現れても、平然と立ち向かうフレディアとカーナの姿を見ていたカレンは、今回の事がよほど愉快だったのでしょう。
ツボにはまったカレンの笑いが止まるまで、しばし休憩する事になりました。
長い回廊を突き抜けた先には、一つの部屋がありました。
その部屋には三つの通路がありますが、いずれの通路も板が打ち付けられて通れないようになっています。
だけど、それだけなら板を割ってしまえば済むのですが、何とその板にはそれぞれミイラとなった屍が吊るされていたのでした。
つまり、通路を守るために人柱にされているという訳です・・・。
「うわぁ~、なんかイヤだな~」
「夢に出そう・・・」
フレディアとカーナが目を背けています。
「仕方がない、俺が爆弾で壁ごと吹き飛ばしてやる」
ハンクが左の通路に爆弾を仕掛けて点火しました。
シュッ!
ボカ~~~ン!!
ギィヤ~~~ッ!!
通路の閉鎖物は吹き飛びましたが、死体には死霊が取り付いていました。
一斉に三体の死霊がフレディア達に襲い掛かります。
油断していたため、先手を取られたカレンが死霊に睨まれ、身体が麻痺して動けなくなってしまいました。
ルナが慌ててマジックバリアとガードの魔法を発動しましたが間に合わなかったのです。
しかし相手が三体だったため、大事には至りませんでした。
一体はハンクが炎の剣ヘスティア―で、一刀両断に斬り捨てました。
もう一体はカーナがルーンスピアで仕留めます。
二人が持つ武器が神から授かった神器であったため、簡単に倒す事が出来ましたが、そうでなければ苦戦を強いられる事になっていたでしょう。
最後の一体は、フレディアが閃光の弓矢で放ったアークⅡ『神の裁き』で消滅させました。
「まさか屍に死霊が取り付いていたとは・・・」
爆破したのはうかつだったと、ハンクが反省しています。
身体が麻痺して動けなくなったカレンは、ルナが新しく覚えたリフレッシュの魔法で治癒され、しばらくすると元に戻りましたが、このままでは負けず嫌いのカレンの気が収まりません。
「う~ん!くやしい!!」
そう叫ぶと、よせばいいのに隣の通路の屍をムチで攻撃してしまいました。
「えいっ!」
ピシッ!!
ギィヤ~~~ッ!!
ムチが当たった瞬間、屍から八体の死霊が飛び出しました。
「うっそ~?!」
「カレン、早く離れて!!」
泣きそうな顔のカレンに、フレディアが急いで離れるように言います。
そしてカレンが飛びのいたのを確認すると、アークⅢ『断罪』を発動しました。
キーン!!
八体の死霊の群れの中に小さな星が現れたと思うと、それが超新星爆発のような光を放って光速で膨張し、強烈な閃光がすべてを飲み込んでしまいます。
そして急速に収束すると、すべてが跡形もなく消滅していました。
一番右にあった通路の閉鎖物も屍も無くなっています。
「す、すごい・・・。これがアークⅢなの?」
カーナがフレディアに尋ねました。
「うん、でもこれね~、光を膨張させる範囲の調節が難しいのよ・・・」
「危険だから、あまり使いたくないのよね~」
横目でカレンを見ながら言いました。
「はぁ、そりゃどうも・・・」
放心状態でへなへなと座り込んでいるカレンが、ボソッと言いました。
三つの通路の先には、それぞれ小さな部屋がありました。
左の通路の小部屋には、魔力と体力を完全回復してくれる『命の泉』がありました。
真ん中の通路の小部屋には、神器の一つ『守りの腕輪』が奉納されていました。
金の腕輪に不思議な文字が彫られ、その文字の端々に色とりどりの宝石が散りばめられた、とても美しい腕輪です。
フレディアはその腕輪を取ると、ルナに渡しました。
「ルナは全ての状態異常の治癒が出来るから、これを持っていてね」
頷いたルナは、フレディアから守りの腕輪を受けとると、直ぐに左手にはめました。
すると腕輪は光り輝くと、ルナの手首にピッタリ収まる大きさに変わりました。
そして最後の右の通路の小部屋には、銀色に輝く手の平サイズの女神像が、美しく装飾された宝箱の中にありました。
「これ、思ったより重たいわね・・・」
カーナが手に取って見てみます。
「何か大切な意味があるかも知れないね!」
フレディアの言葉に、カレンが答えました。
「あれじゃないの?これの代わり・・・」
そう言うと、カレンは袋からリンゴを取り出して、シャキシャキといい音を立てて食べだしました。
「そうかもね~!」
「そうだといいけど!」
フレディアの返事に、カーナも期待した声で答えました。
フレディアはカーナから女神像を受け取ると、魔法のアイテムボックスへ入れました。
命の泉の部屋で睡眠をとったフレディア達は、サソリの絵が描かれた、大きな扉の部屋に戻りました。
カーナ、ハンク、カレン、ルナがフレディアを取り囲み、周囲を警戒しながら守っています。
そして水溝の前の置台に、フレディアはそっと銀の女神像を置きました。
すると・・・。
ガクン!!
「あっ!なんか変な音がした!」
カーナが期待のこもった声で言うと・・・。
ザザザザ~~~ッ・・・・。
みるみるうちに水溝の水が無くなり、サソリの扉まで進めるようになりました。
「「「やったぁ~!」」」
みんな大喜びで、飛び跳ねています。
「よし!じゃあ、サソリの絵の扉にハートを入れるよ!」
フレディアは赤い水晶玉をはめ込みました。
するとサソリを模ったラインが青白く輝き、扉一面に美しい星座の姿が浮き上がりました。
ガシャン!!
ギギギギ・・・・ガン!!
重厚な扉が開き、中には立派な祭壇の上に、光輝く宝玉にプラチナの装飾を施された、美しいネックレスが奉納されていました。
「うわ~!すごくきれい!!」
カレンが欲しそうに指をくわえて見ていますが、さすがにこれは無理でした。
「カレンには、今度何か別のお宝が見つかったらあげるね!」
フレディアはそう言うと、ネックレスを身に付けました。
フレディア達はついにイーヴの魔石を手に入れたのです。
ここまで読んで下さった皆様、どうもありがとうございます。
これより物語はいよいよ終盤へと進みます。
出来る限り毎日更新できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。




