第七十七話 悲劇のハープ
ギ、ギ、ギ、ギ・・・・・・・。
ガシャン!!!
扉の開く音が塔全体に響き渡ります。
部屋の正面には、巨大な白い竜が侵入者を待ち構えていました。
そして有無を言わせず、強烈な炎のブレスで攻撃を仕掛けてきました。
ゴ~~~~~~ッ!!!
二人に直撃した炎は、フレディアとカーナの周りでグルグルと渦を巻き、そしてかき消えてしまいました。
カーナが風を操作して、ブレスの流れを変えたのです。
それを見た聖獣フロイドは、もう一度ブレスで攻撃しようとしますが、フレディアがすかさずアークを放ちました。
キーン!!
乾いた音と共に、聖獣フロイドの身体を光の粒子が取り巻きます。
「!!!」
巨大な竜は、金色に輝く瞳でフレディアとカーナをジッと見つめています。
そしてゆっくりと口を開きました。
「あなた達は天使なのですね?!」
「そうか!セレイヤ様がお遣わしになったのですね!」
「わたくしを解放してくださるために!」
白い竜は、期待のこもった声でフレディア達に話しかけました。
怖ろしい竜の姿には似つかわしくない、凛とした優しい女性の声が塔に響きます。
その問いにフレディアが答えます。
「いいえ、わたし達はセレイヤ様のお使いではありません」
「わたしは技術と創作の神に仕えるフレディアといいます」
「そして彼女は風の神セレノス様にお仕えするカーナといいます」
「わたし達はあなたの守る、『悲劇のハープ』をもらいに来たのです」
フレディアはそう説明すると、白い竜は落胆した声でフレディアに言いました。
「そうですか・・・。ではこのハープを渡す訳にはゆきません」
「たとえ相手が何者であっても、このハープを奪う者には死を与えるまでです!」
そう言うと白い竜は、大きな翼を広げて戦闘態勢を取ったので、慌ててフレディアは補足しました。
「ちょっと待って、フロイド!」
「わたし達は、堕天使バズエルからこの国の人達を守るために、そのハープが必要なの!」
「そして、その仕事が終われば、ハープはわたしが責任を持って天界に戻します!」
フレディアは奪いに来たのでは無いと、白い竜に訴えました。
「なに!ハープを天界に戻す?」
「そう!だから、あなたはもう自由になっていいのよ!」
カーナも白い竜を説得します。
「自由・・・」
フロイドは、塔の窓から空を見上げて呟きました。
「フロイド、心配いらないわ!わたしがセレイヤ様に事情を説明するから!」
「あなたは、もうこの塔にいる必要はないのよ!」
フレディアがフロイドを自由にすると約束しました。
そしてカーナも協力すると約束します。
「セレイヤ様に納得していただけるよう、あたしもセレノス様に頼んで説明してもらいますので・・・」
「・・・・・・・・」
白い竜はしばらく考え込んでいましたが、やがて青い空を見上げて決心したようです。
「わかりました!」
「お二人の言葉を信じましょう!」
「天使のフレディアとカーナ・・・」
「くれぐれもセレイヤ様によろしくお伝えください」
そう言うと、塔の窓から広い空へ飛び立って行きました。
塔の柱の陰に隠れていたハンク達は、白い竜が飛び立ったのを見て、わらわらと出てきました。
「すげ~な二人とも!あの竜のブレスを防ぐなんて!」
カレンはあのすさまじい攻撃を思い出して、ブルブルと身震いしています。
「俺も、あんなすごい奴はいままで見た事がない!」
「あの竜からハープを奪うなんて無理な話だ!」
さすがのハンクも、あの竜には勝てないと理解したようです。
「フロイドが納得してくれてよかったね、フレディア!」
カーナがフレディアに、戦わなくて済んで良かったと言いました。
「そうね!さすがにセレイヤ様の使いをやっつけたら、後で大事になるものね!」
フレディアはそう言って笑っていますが、その言葉にカレンはドン引きしています。
(うそでしょ?あの竜を倒すって!)
(一体どんなけ強いのよ、フレディアは!!)
塔を守る竜がいなくなった部屋の奥に行くと、美しいハープが立て掛けられていました。
光沢のある美しい木製のハープには、目を奪われるような見事な彫刻と螺鈿細工が施されています。
そして、そのすぐ近くには、骨だけになった屍が転がっていました。
「あっ!これってもしかして・・・」
フレディアがその骸に注目していると、カレンがフレディアの後ろから覗き込み、屍の腕に付けているブレスレットを見て言いました。
「このブレスレットに刻まれているのは、『サンドレラの紋章』だね・・・」
「じゃぁ、この亡骸は・・・」
フレディアの疑問にカーナが答えました。
「悪魔に言われてハープを取りに来た、サンドレラの第一王子セルトンね!」
「カナちゃん、この悲劇のハープと、セルトンの骸を見せたら・・・」
「死霊になったマリポサを、呪いから解き放てるかもね!」
カーナが右手の親指を立てて、そう言いました。




