第七話 風の神セレノス
湖から町中に戻ったフレディアは、レストランの窓から中を覗いている人がいるのに気付きました。
(ありゃ?これって、モモちゃんの言っていた人じゃ!)
フレディアは近くの木の裏に隠れて、しばらく様子をうかがう事にしました。
銀色の長い髪に、少し日焼けした端正な顔立ちの美青年が、レストランの窓にへばりついて、何やらぶつぶつと独り言を言っています。
「か、かわいい・・・。いつ見てもかわいいな~あの娘!」
「思い切って店に入ってみようか?」
「い、いや!それは出来ぬ!」
「そんな軽はずみな事をしては、後々何かと面倒な事に・・・」
「あぁ・・・。しかし、かわいいな~!」
「え~い!思い切って行っちゃおうか!」
「い、いや!いや!それはまずい!!」
心の中の葛藤に苦しみながら、体をよじって悶々としている様子は、さすがにちょっと引くものがあります。
しかしモモちゃんの心の声を聞いていたフレディアは・・・。
「あっ!これは、きっと恋の悩みね!」
「やった!またまたわたしの出番だわ!!」
「お相手はきっとモモちゃんね!」
「よ~~~し!ちょっと行って見てこよっと!!」
フレディアは大急ぎで店の中へ駆け込みました。
「あら?あの人また来ている!」
「ひょっとして、私に気があるのかしら?」
「な~んてね!だったらいいのにな~!」
「はぁ~。あの、眉間にシワを寄せてクネクネしている姿」
「それになんとも悩まし気な顔がステキ!」
「でもぉ~。いつも窓からこちらを見ているだけなんだもん・・・」
「たまにはお店に入って来てくれないかな~」
「ポッ!」
店の中では、モモちゃんが窓の方をチラチラと気にしながら、頬を赤く染めています。
「やっぱりそうだ!お互い気があるのね!」
「やった~!!」
「まかせて、まかせて~!!」
「このフレディアちゃんが、恋の悩みを解決してあげるわ!!」
「よ~し、あの男の人の所へレッツ・ゴー!」
店の外へ走り出たフレディアは、早速キューピットの弓矢を構えます。
「よ~し!いくわよ!!」
「それっ!」
パシュッ!
ボン!
「きゃっ!!」
何と!矢が当たった瞬間、若い男の姿がまるで仙人のような、お爺さんの姿に変わってしまいました。これにはさすがのフレディアもビックリです。
「あわわわ・・・」
フレディアは驚きのあまり、その場で腰を抜かしています。
その様子を見た老人は、フレディアに向かって声をかけました。
「これ!そこの天使の小娘!!」
「うろたえるでない!!」
「ひゃっ!わ、わたしの姿が見えるの?!」
「当り前じゃ!わしは神様じゃからのぉ!」
「えっ!か、か、か、神様!?」
「さよう!わしの名前はセレノス!風の神じゃ!」
「あわわわ・・・。で、でも神様がどうして地上にいるの?」
「うっ!そ、それはじゃのぉ・・・」
フレディアの質問に、セレノス様はちょっとうろたえているご様子です。
「それはのう~・・・。それは・・・」
「!!!」
「それは、わしは天界より地上が好きだからじゃよ!」
「ふぁっ、ふぁっ、ふぁっ・・・」
「ふ~~~ん。そうなんだ・・・」
(えっ!納得したのか?)
「それじゃあ、どうして人間の姿になっていたの?」
「ギクッ!」
フレディアの質問に、セレノス様はますますうろたえているご様子です。
「そ、それはじゃのぉ・・・」
「それは?」
「そ、それは・・・」
「!!!」
「それはじゃのぉ!この杖の力じゃよ!」
そういうとセレノス様は持っていた杖をフレディアに見せました。
「えっ!?つ、つえ?」
「そうじゃ、この杖じゃ!」
「この杖は力の杖と言っての!自由に姿を変える事の出来る、すごい杖なのじゃ!!」
「見ておれ!」
そういうと、セレノス様は一瞬で羊の姿に変身しました。
「わわっ!!すご~~~い!!」
「それっ!」
今度はニワトリの姿に変身してみせます。
「すごい!すごい!!パチパチパチ・・・」
「どうじゃ?!すごいじゃろ!!」
元の姿に戻ったセレノス様は、どや顔でフレディアに言いました。
(ふぅ・・・。な、なんとかごまかせたようじゃのぅ)
「うん、すごい!わたしもやってみたい!!」
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ・・・。お前さんがこれを使うには、まだちっと早いわい!」
「ところで、お前さんはどこの天使じゃ?」
「わたしの名前はフレディア!技術と創作の神様の所で修行しています!」
「おぉ!スクラップ殿か!!」
「フレディアよ。この杖は天界の武器庫に保管されておった杖じゃ」
「お前さんがこの杖を使えるようになるには、もっともっと修行を積んでからの話じゃよ」
「ふ~~~ん・・・。すごい杖なんだ・・・」
「では、がんばって修行を続けるがよい!!さらばじゃ!!」
「えっ!?さ、さらばって・・・」
「わたしが聞きたかったのは、どうして人間の姿に・・・」
(なに?!こ、こやつ、忘れておらんかったのか!)
(もう、こうなったら強行突破じゃ!)
「さらばじゃ、フレディア!もう行ってよいぞ!!」
「は、はい、でも・・・」
「たっしゃでの!!」
「は、はい。さようなら、神様」
フレディアは少し歩いてから、未練たっぷりに振り返りました。すると、間髪入れずにセレノス様は言い放ちます。
「スクラップ殿によろしくの!!」
「は、はい」
(ふぅ~~~)
フレディが去って行く姿を確認したセレノス様は、おおきく息をつきました。
「やれ、やれ・・・。まさかこんな所で天使に会おうとはのぉ~」
「危ないところじゃったわい・・・」
「じゃが、所詮は小娘。老練なこのわしにかかれば、ちょろいもんじゃ!」
「うひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ・・・」