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第六十伍話 テグニスの町

ペルルカの町を出て11日目に、目的のテグニスの町に到着しました。


大富豪のグレコスが、フレディア達の馬車の車輪にも緩衝材を取り付けてくれたおかげで、マイオスの腰痛もだいぶ良くなっています。


テグニスの町は、はるか昔ヤーンの国が滅びた後に栄えた軍事国家、ザルドニア帝国があった場所です。

軍事国家だった名残からか、町は堅固な城壁で囲まれており、町の作りも見栄えの良さよりも強度を求めたため、きれいな色彩はあまり使われておらず、少し暗いイメージがします。


この町のおもな産業は油田開発です。

地下に埋蔵されている原油を採掘し、それを石油や灯油に精製して売っているのです。

最近一般家庭に普及して来たランプの油は、ここで精製される油が70%以上を占めています。


そんな事から、町に住むほとんどの人がこの産業に従事しているのですが、労働者に対する賃金も労働環境も悪く、油田開発にはつきものの事故に対しての保証もありません。

採掘中に起きる蒸気やガスの噴出で、怪我や命を落としても何の保証もないので、町には親を亡くした孤児や、劣悪な環境で働かされて体を壊した浮浪者たちで溢れていました。


この町ではそう言った弱者と、油で大もうけした富裕層が混在しており、雇用の改善を求めた暴動も頻繁に起こる、問題の多い町なのでした。


そしてさらに、フレディア達が訪れた時にも、また別の問題が発生していました。



「なんかギルドの中が騒がしいわね?」


ギルドに入ったシラが、騒然とした周りの様子を見て(いぶか)しんでいます。


見慣れぬ冒険者が9人も入って来た事を不審に思ったギルドの冒険者は、胸に輝く虹色のバッチを見ると、慌ててギルドマスターを呼びに行きました。



「ようこそテグニスの町へ!」


二階の執務室から急いで降りて来たギルドマスターのパルバットは、フレディア達に挨拶をしました。


「皆様の事は、国王から協力するように仰せつかっております」

「ご要望があれば、何なりとおっしゃって下さい!」


50代半ばの小太りのパルバットは、汗を拭きながら挨拶をします。

この人もパステルの副ギルドマスターと同じく、管理職からギルドマスターになった人のようです。


「ギルド内が騒がしいようですが、何かあったのですか?」


マウロが代表して質問しました。


「いや、お恥ずかしい話ですが、ここ最近困った事件が起きまして・・・」


そう言うと、パルバットは詳しい内容をつぶさに教えてくれました。


この町は大昔に栄えたザルドニア帝国があった場所ですが・・・と前置きし、その歴史から話してくれました。



ヤーンの国が滅んだあと、サンダレラ王国とザルドニア帝国の二つの国が大きな権力を持っていました。

そしてある時、ザルドニア帝国がサンダレラ王国を支配しようと目論んだのです。


ところが勢力が拮抗(きっこう)していたため、このままでは勝てないと悟った時の皇帝は、ヤーンが滅ぼしたダグダルムの生き残りの信者を吸収し、自国の軍事力を増強したのでした。



それから気の遠くなるような時を経て、この戦いも今や伝説となりました。

では何故、今更このような話をするのかと言うと・・・。


12年前に、バズエルの手によってダグダルム神殿が復活した時、この町に隠れ潜んでいた邪教徒、つまりダグダルムの信者の末裔が、バズエルの呼び掛けに応じて火の手を上げたのです。


油田に火を放ち、大暴れしたため町は大混乱になりましたが、直ぐにダグダルム神殿が消滅し、よりどころを失った邪教徒たちは全員捕縛され、この町の牢獄へ送られました。

これでこの町の騒動も一件落着と思われたのですが・・・。



「ところが一ヶ月ほど前、巨大な魔物が町に飛来し、牢獄を破壊して邪教徒共を逃がしてしまったのです」


それを聞いたフレディアは、すぐにピンときました。


「それ間違いなく、バズエルの仕業ね!」


フレディアは断言しました。


「きっと魔界から呼び出した魔物を使ってやったのだわ!」


カーナもフレディアの意見と同じです。


パルバットは「やはり!」と大きく頷くと、話を続けました。


「それからというもの、町の子供や、若い娘がさらわれる事件が続いているのですよ」


「何と!それは聞き捨てなりませんな!」


マイオスが怒りをあらわに言いました。


「で、なにか手掛かりは掴めたのですか?」


マウロが尋ねました。


「いえ、それが、未だに分からずじまいでして・・・」


「それで、今からその対策会議を行うところだったのです」


そう言うとパルバットは、是非フレディア達の力を貸して欲しいと言って来たのでした。

勿論フレディア達に断る理由はありません。


こうしてテグニスのギルドと、駐在する国の兵士を交えて協議を行い、これまでの行方不明となった者たちの調査が行われました。


そして不明者たちの最後の目撃地点をチェックしていった結果、とある教会の存在が浮かび上がりました。


この教会の神父様は町でも評判の慈善家で、孤児院を設立し、恵まれない子供たちを引き取って育てていました。

そのため、この場所を疑う者は誰もいなかったのです。


きっかけはフレディアの言葉でした。


「バズエルが絡んでいるのなら、きっと神父様は偽物か、操られているわね」


「そうね、力の杖を使って変身しているのかも・・・」


カーナも間違いなくそうだと断言しました。


そして事件解決の秘策として、おとり捜査が行われることになったのです。


行方不明になるのが孤児や女性など、弱い者達という事なので、捜査にはライトブリーズからフレディアとカーナ、それにルナが選ばれました。


そしてテグニスのギルドからは『チームクラッシャーズ』のBランク聖職者、ナタリーが選ばれました。


彼女は緑色の髪をした小柄な女性で、髪と同じ色の深い緑の瞳を持つ可愛い感じの女性です。

歳はルナと同じ19歳で、魔法は、ガード・マジックバリア・ハイヒール・キュアー・スローと多彩で、さすがはBランク冒険者と言えるでしょう。


実は最初はマルティーが候補に選ばれたのですが、マルティーの武器は殺傷能力が高いため、フレディアとカーナが反対したのです。


フレディアとカーナは天使なので、たとえ相手が悪人であっても、出来る限り人を傷つける事はしたくなかったようです。


そのため、『うたた寝の杖』を扱えるルナに協力を頼むことになりました。

この件にはハンクが反対しましたが、天使の二人がいるので大丈夫だと説得され、ルナも了承したため、仕方なく承諾したのでした。



その日の夕方、選ばれた四人はこの町の貧しい人たちと同じ服装に着替え、教会へ出発しました。


うまく教会に侵入できれば、連絡がない場合は明日の朝一番で乗り込む手はずとなっています。



「じゃあ、行ってくるね~!」


フレディアは元気よく出発しましたが、すぐにカーナにダメ出しされています。


「フレディア、そんなにニコニコしてちゃダメでしょ!」

「もっとしょんぼりして歩かなくちゃ!」


「あたし達は、お腹を空かした姉妹の振りをしなくちゃダメなんだから!」


「だから晩ごはんは抜きにしようと言ったのに、フレディアったらお腹いっぱい食べるんだもの・・・」


「だって、大好きな唐揚げが・・・」


「だってじゃありません!」


「ラ、ラジャ~!」


フレディアは『おとり捜査』という響きがカッコよく感じて、ついウキウキしてしまうのでした。


この二人の会話を聞いていたナタリーは、少し不安になってきました。

最初はSランク冒険者との合同捜査と言う事で、ヘマをしたらどうしょうと緊張していたのですが、いまは自分がしっかりしなくては・・・と思い始めているようです。


元々フレディアとカーナの実力を知らないナタリーは、二人を見た時はSランク冒険者の基準を疑ってしまった程なので、そう思うのも無理はありません。


その様子を見ていたルナは、なんだか申し訳なさそうにしていました。






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