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第六十四話 閃光の弓矢

フレディア達が案内された部屋には、さすがは大富豪といった、貴重な物や高価な物がたくさん陳列されていました。

美しい陶器や絵画、それに一体何に使うのか分からない物なども展示されていましたが、フレディアの目に留まったのは、奇麗な装飾がされた弓矢でした。


「この弓矢は?」


フレディアの質問に、グレコスは丁寧に説明してくれました。


「これはカラカラ砂漠にある、『ニコヤの遺跡』から見つかった物です」


ニコヤの遺跡は、ヤーンの国が滅びた後に栄えた『サンダレラ王国』のあった所で、ヤーンが滅びた時、その遺産のいくつかを譲渡されたと言われています。


この弓矢の名は『閃光の弓矢』と言われる武器で、矢は存在せず、弓を握る事で魔力を通して矢が顕現(けんげん)するのです。


勿論魔力の量によって威力も、顕現する矢の数も変わってきます。

しかし非常に多くの魔力が必要となるため、魔力がBランクの冒険者でも、一度の戦いに1~3本の矢を顕現するのがやっとの事だそうです。

普通の矢を射る事も出来るのですが、それでは普通の弓矢と威力が変らず、結局使い勝手が悪いという事で、オークションに出された物を、高額で入札した一品なのでした。


「ちょっと触ってもいい?」


フレディアはグレコスの了解を得ると、さっそく矢を出現させました。

そしてその矢にアークをまとわせてみました。

すると矢は消滅する事なく、矢にまばゆい光がまとわりついています。

次に同じくアークⅡをまとわせてみましたが、これも大丈夫そうです。


「う~ん、ここまでが限界みたいね・・・」


やはりアルテミスの弓矢とまでは行きません。どうやらアルテミスの弓矢の劣化版のようですが、フレディアはとても満足しているようです。


「うん、これならあのケートスも倒せるわね!」


「カナちゃん、上手く行ったら、これもらってもいい?」


「うん、いいよ!」


カーナの了承を得て、フレディアは依頼を受ける事にしました。



翌日フレディアとカーナは、馬車に乗って街道整備の道を、50キロメートル先まで行きました。

道はよく整備されていて、時速30キロメートルで走行しても、まったく問題はありません。

2時間もかからずに目的の場所に到着しました。


その場所に到着してしばらくすると、森の中が急に騒がしくなり、やがて大きな木がこちらへやって来ました。


「グオオ~~~~ッ!」


うろのような口を開けて威嚇してきたこの木の魔物は、Bランクのウドラーです。

フレディア達を踏みつぶそうと根の足を上げた時、枝の間から顔を出した小さなおじちゃんが慌てて止めました。


「おい!ちょっと待った!!」


そう叫ぶと、ウドラーからピョンと地面に降りてきたおじちゃんは、三角帽子をかぶり、真っ白な長い髭を伸ばした妖精ノームでした。

そして小さなおじちゃんは、二人に向かって声をかけてきました。


「あなた達は、ひょっとすると天使様ではありませんか?」


「そうだよ!わたしは技術と創作の神様にお仕えするフレディア」


「あたしの名前はカーナ。風の神セレノス様にお仕えしています」


二人が挨拶すると、小さなおじちゃんは大喜びで挨拶を返しました。


「あなた様ですね!最果ての沼のヌシ、ヨルムンガンドを倒した勇者は!」

「あなた様の事は、ビットから話を聞いておりますぞ!」


「あっ!妖精の森の番人ビットね!」


フレディアが思い出して笑顔で答えました。


「そうです!ワシはビットのまたいとこの、チャカと申します」


「で、天使様はいったい何用で、このような所へ?」


フレディア達は、ここへ来た理由を説明しました。


「う~~~む・・・」


「いかに天使様の頼みでも、ワシは邪悪な人間どもを、この地に入れる事は出来ませんぞ!」


チャカは険しい顔でそう言いました。


「そっか、わかった!」


「悪い人間ばかりじゃないんだけどね~」


フレディアはそう言うと、一緒にここへ来た使用人たちに、用意した物を運ぶように言いました。


使用人たちは馬車から運び出した大きな木のテーブルに、食事の用意を始めます。

それを見たチャカは、怪訝な顔でフレディアに尋ねました。


「これはどういう事ですかな?」


「今日は天気もいいし、さっきの話はもういいから、一緒にご飯を食べようよ!」


「すごくおいしいお酒も、いっぱいあるよ!」


見るとテーブルの上に、種類の違う酒樽が5つも用意されています。

それを大きなコップに注いでいくと、芳醇(ほうじゅん)なとてもいい香りが森の中に漂っていきます。

見るとその匂いに誘われて、他に四人のノームも、少し離れた所から隠れてジッとこちらを見ていました。


ゴクリ!


コップに注がれた酒を見て、チャカが喉を鳴らします。


「ま、まあ、先ほどの話を抜きと言うのでしたら・・・」


「そうよ!今日はみんなで楽しくお食事しましょうよ!」


そう言うと、カーナはお酒の入ったコップを、チャカに渡しました。

そして隠れて見ていた他のノーム達も、ここへ呼びました。


テーブルには上質のお酒と、肉や魚の料理、それに色とりどりのケーキなどが、ところ狭しと並んでいます。

ノーム達が酒に目が無い事を知っていたフレディアが、用意させていたのでした。


最初は警戒していたノーム達も、酒が入ると一気に気が緩み、飲んで食べて大いに盛り上がっています。

するとチャカが、フレディア達にヨルムンガンドとの戦いを聞かせてくれとせがみました。


ノーム達は小さいけれど力は強く、とても勇敢な妖精です。

そして何より大好きなのは、強い勇者の武勇伝を聞く事でした。


フレディアはノーム達にお酒を勧めながら、ヨルムンガンドとの戦いや、テニールの村での200匹を超えるゴブリンとの戦い。

そしてパステルの町でのケートス退治の話を、面白おかしく聞かせてあげました。


もう、ノーム達はフレディア達の武勇伝に感動して、大はしゃぎしています。

興奮してパンチを繰り出す者や、主人公になり切ってこん棒を振り回す者など、大声で騒いでいました。

そして食事が終わるとフレディアは、ノーム達に明日もう一度だけここに来るから、返事を聞かせてくれと頼みました。そしてチャカの耳元でささやきます。


「チャカたちが望む物なら、どんな無理な事でも聞いてくれると思うよ」


そう言うと用意していた酒の入った大樽を、3つドンと置いて帰って行きました。


「フレディア、あんなこと言って大丈夫?」


馬車の中でカーナが心配して、フレディアに尋ねました。


「妖精は人間と違って、欲深くないから大丈夫だよ!」


フレディアは自信満々に答えました。



翌日、約束の場所へ行ってみると、昨日の五人のノームが居ました。

そしてチャカが代表して、フレディアに文字の書かれた大きな葉っぱを渡しました。

葉っぱには五つの要求が書かれています。


・街道はご神木から10キロメートル以上離す事。

・街道以外の場所の木を伐採しない事。

・火の取り扱いには十分注意する事。

・何か問題があった時は、我々に意見を聞く事。

・森の使用料として、酒を月に五樽よこす事。


そしてチャカはフレディアに言いました。


「酒の五樽は多いかもしれぬが、これは各部族にも渡すのであって、決してワシらが独り占めするのではないのだぞ」


「ラジャー!」



フレディアはこの要件を、馬車の中に待機していたグレコスに知らせると、グレコスは大喜びです。二つ返事で了承しました。


この街道が完成した時に得る莫大な利益の事を考えると、酒の五樽など痛くも痒くもありません。


馬車の外では、ノーム達がやはり三樽にした方が良かったか・・・などと言い合っています。

そこへフレディアが用意させた酒樽七つを、使用人たちに運ばせました。


「これは約束の五樽と、残りの二樽は今回のお礼だよ!」


そして今後のこまごまとした事は当人同士に任せて、フレディアとカーナは意気揚々と帰って行きました。


後日、グレコスから約束の『閃光の弓矢』を受け取ったフレディアは上機嫌です。

近くにあった大岩に、アークⅡ『神の裁き』をまとわせた矢を放つと、大岩は跡形もなく粉砕されてしまいました。


「うん、これなら間違いなくケートスでも倒せるわ!」


フレディアが嬉しそうに、閃光の弓矢をナデナデしています。

その様子を見た他のメンバーは、完全にドン引きしていました。


「弓矢で大岩を砕くなんて、絶対におかしいでしょ!」


アーチャーのマルティーが、あきれ返っています。


「見た目とのギャップがひどすぎるわ!」


シラはフレディアとカーナを交互に見ながらつぶやきます。


「天使だから仕方がないんだよな・・・」

「そうだよなルナ?」


ハンクはうんうんと頷くルナに納得している様子です。

その他のメンバーも何か言いたそうにしていましたが、ハンクの言葉に納得したようです。


こうして強力な武器を得たフレディア達一行は、次の目的地であるテグニスの町に向かいました。


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