第六十三話 大富豪グレコスの依頼
フレディア達は、宿屋の前まで迎えに来た大型の馬車に乗って、村長たちと面会する場所へ移動しました。
「あれっ?この馬車すごく乗り心地がいいね?」
驚くフレディアに、マイオスも頷きます。
「確かに!これならわしの腰にも負担が少ないのう」
マイオスが心地よさそうに座っています。
確かにこの馬車には、ガタガタと揺れる路面からの振動がほとんどありませんでした。
「この馬車には路面からの振動を抑える、緩衝材が使われているのでございます」
御者の案内人がそう教えてくれました。
15分ほど走ると、目的の場所へ到着しました。
場所は町長宅ではなく、商工会の会長であるグレコスの屋敷でした。
驚くほど立派な豪邸に案内された一行は、ここで町長のマサードと、屋敷の主であるグレコスを紹介されました。
テーブルには豪華な食事が並べられ、ステージで演奏される音楽を楽しみながら、食事会が始まりました。
ここの主であるグレコスは、商品の輸送に革命を起こした起業家でした。
先ほどフレディア達を乗せた馬車のように、荷馬車を改善したことにより、従来の馬車ではありえなかった速度で、大量の荷物を輸送する事に成功したのです。
その工法とは、テグニスの町から輸入している石油を使って、弾力性のある緩衝材の開発に成功した事でした。
従来の木の車輪にこの緩衝材を巻き付け、また車軸と荷台の間にも取り付けた事により、振動を抑え、快適により早く走行する事が出来るようになったのです。
これにより、従来の倍以上の移動距離を稼げるようになりました。
そしていま、その輸送力を活かした、より大きな事業を始めているのですが、ここで困った問題が発生し、その解決のためにフレディア達を招待したのでした。
豪華な食事会が終わった後、フレディア達は別室に招かれ、そこで本題の問題を相談されました。
別室にはグレコスと町長のマサード、それに事業の重役五名と、現場の監督二名がいます。
グレコスは40代後半のがっしりした体格で、茶色い髪に少し白いものが混じってきた、聡明な顔をした男性でした。
町長は50を過ぎた小柄な男で、頭は剥げていますが、立派なカイゼル髭を生やしています。
グレコスがフレディア達に、現在やろうとしている事業についての説明を、大きなこの国の地図を示しながら始めました。
「皆さん、遠い所から遥々このペルルカの町まで旅をされて来た訳ですが・・・」
「日数にしていかほど掛かりましたかな?」
「ミントの町からですが、宿泊日数を省き、移動時間だけを言えば37日間ですね」
マウロが答えました。
「それは大変な旅ですね」
「出発地点がロファの街だとしたら、さらに10日は増えますかな?」
「ええ、そうなりますね」
グレコスの問いに今度はシラが答えました。
その答えを聞いたグレコスは、大きく頷きこう言いました。
「では、ロファの街からこのペルルカの町まで、47日間かかる旅が、わずか20日で行けるとなればいかがですかな?」
「「ええっ?!」」
全員驚きの声を上げますが、グレコスはさらに付け加えます。
「私の開発した輸送車であれば、最短一日で行く事も可能なのですよ!」
その自信あふれる言葉に、フレディア達は驚きつつも、とても信じられないという顔で聞いています。
皆さん、これは魔法でもなんでもありません。
従来通りの、馬車を使っての移動時間なのです。
そう前置きし、フレディア達に詳しく説明してくれました。
ロファの街からここぺルルカの町までの街道の距離は1700キロメートルあります。
その距離を馬車の平均速度を時速6キロメートルとして、一日6時間移動すれば、47日かかる計算になります。
皆さんの来られたミントの町からだと、1340キロメートルなので、37日かかった訳ですね。
それで、私がいま行っている事業とは、このペルルカとロファを直線で結ぶ街道を作る事なのです。
そうすれば、わずか720キロメートルの距離に短縮されます。
この距離だと馬車を使えば20日で行き来できるのです。
そして、私の開発した輸送車ですと、時速30キロメートルで移動できるので、中継所を設置して馬の入れ替えを出来るようにすれば、たった一日で行く事が出来るようになるのですよ。ただし、魔物との遭遇は計算に入れていませんが・・・。
これらの説明を、大きな地図を使って説明されたため、とても分かりやすく、聞いている皆もなるほどと頷いています。
「それで本題なのですが・・・」
「現在50キロメートルの地点まで工事が進んでいるのですが、ここで大きなトラブルが発生しているのです」
「トラブルってなに?」
知りたがり屋でせっかちなフレディアが、すぐに尋ねます。
「実は魔物による工事の妨害が発生しているのです」
「それなら、ペルルカのギルドに依頼し、討伐してもらえばよろしいのでは?」
シラが答え、他のメンバー達も頷いています。
「ええ、本来ならそうするのですが、実は今回の場合はちょっと事情がありまして・・・」
「事情・・・ですか?いったいどのような事情がおありなのですか?」
再度シラが尋ねます。
「実は妖精たちが魔物を使って工事を妨害しているのです」
「「ええっ!妖精たちが?!」」
妖精に詳しいフレディアとカーナが驚きの声を上げました。
普段は大人しい妖精たちが、人間に危害を加える事は滅多にありません。
よほど何かひどい事をしたのではないかと、フレディアは勘ぐりました。
「あなた達、妖精にどんなひどい事をしたのさ!」
フレディアの厳しい言い方に、グレコスは慌てて釈明します。
「い、いえ、いえ!わたくし共は何もしておりません!」
「だから、何故工事の妨害をするのか、その理由を知りたいのです」
グレコスの言葉の後に、現場を監督しているおじさんも慌てて言います。
「私どもは、こちらから危害を加えるような事は、一切行っておりません!」
「問題ごとは、すべて会話により解決するのが、この事業の方針なのですから!」
「ですから、その理由を知りたいのですが・・・」
「まったく聞く耳を持たないのです」
最後はグレコスが締めくくりました。
「そうなの?」
フレディアとカーナが顔を見合わせ、首を傾げています。
「そこで妖精の力をお借りし、ロファの王妃様を治療なされたあなた方をお招きしたのです」
「なぜ工事を妨害するのか、その理由を聞き出して欲しいのです」
「そのうえで、妖精たちと交渉したいと思っているのですよ」
ここまで話を聞いた他のメンバー達は、これはフレディアとカーナに丸投げで良いと決め込み、出されたお茶を飲みながら、雑談を始めました。
その様子を見たフレディアは、ちょっとムッとしていますが、グレコスから出された話に態度をコロッと変える事になります。
「むろん、ただでお願いは致しません」
「お金ではなく、私の所有する珍しいコレクションを対価としてお支払いしますが、いかがですかな?」
「珍しいコレクション?」
「ええ、遺跡やダンジョンから出土した、貴重なアイテムなどもあります」
「どうぞ、こちらへ」
そういうと、フレディアとカーナを別室に案内しました。




