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第六十話 パステルの魔物

テニールの村を出てから12日ほどで、パステルの町へ到着しました。

赤い屋根の建物が立ち並ぶ美しいこの町は、とても歴史のある町で、その起源は神話の中にも登場します。


レヌス川の恵みを受け、肥沃な土地が広がるこの町は、農業と漁業、それと陶芸が栄えており、市場には新鮮な魚や豊富な果物、美しい色彩の陶器などのお店が立ち並び、活気にあふれていました。


フレディア達は賑やかな町の中心にある、パステルのギルドを訪れました。


ギルドでは本部から報告を受けていたギルドマスターのカレンが、フレディア達が来るのを心待ちにしておりました。


カレンは23歳という若さでギルドマスターにまで昇りつめた女性で、この地方特有の褐色の肌に、白く輝く髪を腰のあたりまで伸ばし、ブルートパーズのような青い目をした、とても美しい女性です。

そして獰猛(どうもう)な魔獣を飼いならす現役のAランクのティマーでもありました。


彼女はBランクの大きな漆黒の魔獣、ヘルハウンドを従えています。

ヘルハウンドはとても凶暴な魔獣ですが、主人に対してはとても従順で、決してそれ以外の人になつく事はありません。


また彼女自身も武闘派で、魔獣を使わなくても、自慢のムチだけでAランクの実力を持っているのです。

そのため同じギルドの冒険者でも、ヘルハウンドを従えた彼女が通ると、みんな怖がって離れて行きます。

そんなカレンですから、おのずと強いモノに憧れる性質を持っており、Sランクの冒険者が来るという通達に、今か今かと心を躍らせていたのでした。


「サントス!ギルド始まって以来、初めてのSランクの冒険者だよ!」


「どんなすごい男が来るのか、楽しみじゃないか!!」


副ギルドマスターのサントス相手に、上機嫌のカレンでした。


「ギルドマスター!本部から通達のあった方々がお見えになりました」


受付の職員から連絡を受けたカレンは、いそいそと二階の執務室から、魔獣と共に一階のフロアへ降りて行きました。


いったいこの国初のSランクの冒険者とは、どんな人物なのか?

憧れと共にティマーとしての性質上、そんな強い男なら自分に従えさせてみたいという、ドSな感情も抱き、ワクワクしながら待っています。


そして先頭を切ってギルドに入って来たのは、もちろんライトブリーズのリーダーである、フレディアでした。


「キャハハ!来たよ~!」


「お邪魔しま~す!」


続いてカーナが行儀よくお辞儀をして入ってきます。


「!!!」


「な、なんなのよ!これ・・・」


二人を見たカレンは、自分の抱いていたイメージからあまりにもかけ離れていたため、失望感と怒りでプルプルと震えています。

それを見た副ギルドマスターのサントスは、カレンが魔獣をけしかけはしないかと、気が気ではありません。


「ギルマス、お、落ち着いてください!」


続いて入って来たのは、ハンクでした。

2メートルを超す巨体に、人を射殺すような恐ろしい魔獣の眼光で、周りを威嚇(いかく)しています。


怒りでプルプルと震えていたカレンですが、ハンクを見た瞬間に心を持って行かれました。


「!!!」


「ス、ステキ!」

「ぜひ、この手で飼い馴らしてみたいわ!」


胸に両手を合わせてキュンキュンしています。


「ギルマス!あの人は魔獣じゃありませんから!」


サントスは、もう気が気ではありません。


次に入って来たのは、ルナです。

ハンクに寄り添うように、ハンクもまた、ルナを支えるようにしているので、カレンはまた機嫌が悪くなりました。


「なによ、あの娘!ぜんぜん彼に似合っていないじゃない!」


「いや、外見だけで言うなら、あなたもそうなんですけど・・・」


カレンは自分が美人だと言う事を、まったく自覚していないようです。

そしてその後からムーンライトのメンバーが入ってきました。


サントスはおどおどしながら、カレンを(うなが)します。


「とにかく、皆さんにご挨拶を・・・」



ギルド間の交渉や外交などのやり取りは、ギルド員としてのキャリアを生かして、ムーンライトのマウロとシラが行います。

ある意味残念チームのライトブリーズのメンバーでは、こういう事が出来る者は一人もいません。しいて挙げればカーナが出来そうですが、幼く見えるため、こちらには何かと不利でしょう。


またこちらのパステルのギルド側も、ギルドマスターのカレンはそう言うのは苦手のようで、仲介役は副ギルドマスターのサントスが行います。


武闘派のカレンとは違って、サントスは(よわい)30前後の小柄な男で、事務処理が専門の管理職といった感じです。

身長180センチのカレンと並ぶと、とてもチグハグなコンビに見えます。


「ようこそ、パステルの町へ!皆様の事は本部から通達があり、お待ちしておりました」


「はじめまして!我々はチームムーンライトで、チームライトブリーズの補佐として参りました」


こうしてお互いの自己紹介から始まり、マウロがフレディア達を紹介しようとした時です。


「ねぇ、このワンちゃんにお菓子をあげてもいい?」


「この子の名前は何ていうの?」


「「「えっ?」」」


見るとフレディアとカーナ、そしてルナまでもが、ヘルハウンドをワサワサと撫でまわしています。

ヘルハウンドは仰向けになって、シッポをブンブン振り、巨体をくねらせて喜んでいるではありませんか。


サントスは慌ててギルドマスターを見ると、カレンは真っ赤な顔に涙を浮かべてプルプルと振るえています。


「ゲッ!」


「み、みなさん、今日は長旅でお疲れでしょう!」

「部屋を用意しておりますので、ささ!どうぞこちらへ!」

「自己紹介などは、今宵の歓迎パーティーの時にでも・・・」


そう言うと、サントスは慌ててフレディア達を部屋まで案内して行きます。



夕方、ギルドの外庭に設えられたパーティー会場で、宴が催されました。

おいしい料理とお酒が振舞われ、舞台ではこの地に伝わる伝統的な踊りが披露されています。見るとムーンライトのマルティーも、酔っぱらって一緒になって踊っていました。

コローニも踊りたそうにしていますが、ちょっとためらっているようです。

マイオスはマイペースでお酒を飲んでいます。



フレディアはお腹が一杯になると、先ほどのヘルハウンドをナデナデしたそうに、ジッと見つめていますが、マウロからティマーの魔獣には勝手に触ってはいけないと釘を刺されているので、グッと我慢しています。

またヘルハウンドの方も、主人のカレンからお説教されたようで、目を閉じて寝たふりをしていました。


そんな時、この町の長老が従者と共にフレディアを尋ねてきました。


「あなた方が、Sランクの冒険者様ですかな?」

「わしはこの町の長を務める、ジャハトと申します」


そう挨拶をすると、フレディア達にある願いを頼みに来たと言いました。

ギルドマスターのカレンも、話の内容を理解しているようで、魔獣を置いて一人で話を聞きに来ています。


話の内容は、レヌス川に現れる魔物の討伐依頼です。

ケートスと呼ばれる水棲の魔物で、ワニのような頭にクジラの胴体を持つ体長12メートルを超す幻獣です。

暴れると津波を引き起こし、川辺で漁を営む人々から恐れられていた魔物です。

長い間その姿を見る事は無かったのですが、最近になって頻繁に姿を現し、住民を困らせていると言うのです。


もちろんパステルのギルドでも魔物の討伐は頻繁に行っているのですが、こと水棲の魔物となると、なかなか手を出せないのが現状なのでした。

陸の魔物であれば、真っ先に討伐してやるのにと、ギルドマスターのカレンが悔しそうに言います。


「そっか~。わかった!」


フレディアはそう言うと、ルナに話かけました。


「ルナ、できる?」


ルナは水の精霊セーラムの力を授かっているので、水の魔物なら何とか出来るのではないかと思ったのです。


「・・・・・・・・」


ルナはハンクの心に話しかけました。

そしてハンクはルナに頷くと、フレディアに向かって言いました。


「自分一人では難しいが、カーナの協力があれば、やれると言っている!」


「じゃあ、カナちゃんお願いね!」


「もっちのロンよ!」


カーナは右手の親指を立てて承諾しました。



(いや、いや、待て、待て!おかしいだろう?)


(ハンクやムーンライトのメンバーならまだしも、よりによってあの一番幼いお子様と、か弱そうなお嬢さんだぞ!しかも彼女ギルド員ではないじゃないの!)


カレンは納得がいきません。


「いや、ちょっと待って!そんな簡単な話じゃないだろう?」


「相手は水棲の魔物で12メートルを超す化け物だよ?」


カレンの意見に同意した、他のパステルのギルド員も口々に言います。


「そうだぞ!ここは無理をせず全員で対策を考えてだな・・・」


「いや、いくらSランクの冒険者と言っても、相手が悪すぎるだろ?」


「あんた達に何かあったら、俺たちの責任になるんだからな!」


「俺は実際にこの目でケートスを見たぞ!あれは絶対に討伐なんて無理だ!」


そう言ったパステル側の意見を、フレディアは一笑に付します。



「キャハハ!大丈夫だよ!」


何の問題もないと、笑って答えたのです。


ムーンライトのメンバーも、何の心配もしていない様子に、カレンたちパステルのギルド員たちは、全員信じられないと言った顔で、首を傾げていました。

しかし、仮にもSランク冒険者のリーダーであるフレディアが大丈夫と言うので、それ以上口を挟むわけにはいきません。


(まぁ、やってみるがいいさ!どうせ大恥をかくだけさ!)


(失敗して俺たちに助けを求めても知らねえからな・・・)


(Sランクのバッチを付けているから、後に引けないのだろう?かわいそうに!)


パステルのギルド員たちは、口には出しませんが、おおむね全員がそのような事を思っていました。




「おぉ!それでは、この依頼を引き受けて下さるのですな?!」


「ラジャー!」


長老の言葉に、フレディアは元気よく答えました。



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