第六話 ダーク一家
前作の話がチョコッとだけ出てきますが、気にせずスルーでお願いします。
でも、気になるようでしたら、それほど長い物語ではないので、読んでいただければ嬉しいです。
町の中を探索していたフレディアは、町並みから少し外れた場所にある一軒家の中にいました。
そこにはちょっと強面の男が7~8人で、酒を飲んだり、トランプで遊んだりしています。
奥のテーブルには、ターバンを巻いた、見るからに強そうな赤ひげの屈強な男と、その対面には男とはまったく不釣り合いな、美しい黒髪の女性が座っていました。
フレディアはその女性を見たとたん、彼女の着ている美しい服と、抜群のプロポーションに目が釘付けになってしまいました。
光沢のあるブルーの生地に、美しい花の刺繍がされたチャイナドレスは、体にピタッとフィットしていて、彼女の豊かな胸のふくらみを強調しています。
そしてドレスには大きめのスリットが入っており、そのスリットからはすらりと長い、美しい脚が露出していました。
(わわわ・・・。こ、これが脚線美の誘惑っていう、大人の女性の魅力なのね!)
フレディアは自分の脚と見比べ、ちょっとショックを受けているようです。
「ねえ、ザッパ。シンバとドッヂはどこに行ったんだい?」
対面に座っている屈強な赤髭の男に、女性が話しかけました。
「あぁ、何でも金になるモノが見つかったって、さっき二人で町の外れにある湖に行ったぜ!」
「金になる話ねぇ・・・。親父が捕まって牢獄に入れられてから、もう7年。ダーク一家も落ちぶれたものだねぇ。」
「アネゴの前で言うのもなんだが、親分もずいぶん無茶をしたものだ」
「町の娘を使って、行方不明になったロファ国の王女に仕立てようとしたんだからな」
「そうよね~。6人の娘を脅してロファ城に連れて行ったけど・・・。結果は全員ボツ!」
「しかも、だましたのがバレて、そのまま城の牢獄へ入れられてしまったんだから・・・」
「は~~っ。だけど賞金100万ゴールドは魅力よねぇ・・・」
アネゴと呼ばれる女性は、天井を見上げながらため息をついています。
「だけどよ。俺たち以外にも、王女に似た娘を国王の前に差し出した連中が沢山いたらしいぜ!」
「中には、自分の娘を王女に仕立てた親もいたそうだが、結果はみんな親分と同じだったそうだ」
「そうねぇ~・・・」
「きっと何か秘密があるのよ!例えば身体のどこかに変わった形のアザがあるとかぁ~。ホクロがあるとかさぁ~」
「う~~ん、それさえ分かれば、賞金はアタイたちの手に入るのにぃ~~!!」
「そうかな? 王女が行方不明になって、もう12年も経っているんだ」
「国中のギルドの冒険者が捜索しても見つからなかったんだぜ。きっと、もう殺されているんじゃないか?」
「あのダグダルムのバズエルって野郎によ!」
「え~っ!ダメよ!それじゃあ、賞金の100万ゴールドがもらえないじゃな~い!」
町はずれの一軒家を出たフレディアは、辺り一面に咲く美しい花々と、心地よい風に誘われて、小さな湖の周りを散歩していました。
この町へ着いた時は、まだ朝の冷たい風がそよいでいたのですが、今はもうお日様が真上より少し西に傾きかけています。
「あれっ?あそこに誰かいるわ。何をしているのかしら?」
見ると背の高い男と、背の低い小太りの男が、湖を見て何やら話をしています。
背の高い男は、緑色の髪のモヒカン刈りで、見るからに世紀末的雑魚キャラの風体で、もう一人の小太りの男は、浅黒い顔に、鼻の下に八の字の髭を生やした、いかにも悪そうな顔をしています。
「あれが俺の言っていた白鳥だ!見てみろドッヂ」
背の低い男が、背の高い男に何かを指示しています。
「ほ~~っ。なるほど、金色の羽を持つ白鳥ですかい」
「そりゃ、めずらしいですね~」
「だろ?あいつを捕まえて『お貴族様』に売れば、結構な金になるってもんだ」
「さすがはシンバの兄貴!あったまいい~~~!!」
「いいか、うまくやれよ。逃げられないように翼を狙うんだ!」
「け、けどよ、シンバの兄貴!もし手元が狂っちまって殺しちまったら・・・」
「な~~に、かまわんさ。死んじまったら、はく製にすりゃあいいんだ」
「だが、失敗はするなよ!一度逃がしてしまったら、もうここへは戻って来ないからな!」
「へっ、へっ、へっ・・・。殺してもいいんなら、楽勝だぜ!」
「よし、やれ!!」
ヒュン!
ビシッ!
何と言う事でしょう!シンバの命令で放ったドッヂの矢が、白鳥に命中してしまいました。
それを見たフレディアは、ビックリして飛びはねています。
「あっ!ひど~~い!!何てことするの!!」
「こんなひどい事するなんて、ぜ~ったいに許せない!」
「見てらっしゃい!!」
そう言うと、フレディアはキューピットの矢とは別の矢を弓にセットしました。
「よし!やったぜ!!」
「へっ、へっ、へっ。どんなもんだい!!」
ドッヂは有頂天になって踊っています。
「よし、捕まえに行くぞ!!」
シンバがドッヂに命令した時でした。
「天罰!!」
フレディアは矢を放ちました。
パシュッ!
キラリン!
シンバに矢が命中した瞬間、淡い青色の光が身体から溢れ出ました。
「はうっ!!」
「い、いててて・・・・。な、なんだ、急に腹が痛くなって来たぞ?!」
そう言うと、その場にしゃがみ込んでしまいました。
次に白鳥を捕まえようとするドッヂに向かって矢を放ちました。
パシュッ!
キラリン!
ドッヂに矢が命中した瞬間、淡いピンク色の光が身体から溢れ出ました。
「はあ~~っ!な、なんだろう、この胸の高鳴りは!?」
「こ、これはひょっとして、恋の予感!!?」
「ありゃ?なんで?」
「あっ、しまった!間違えてキューピットの矢を使っちゃった!」
湖の中に入りかけたドッヂは、そこで一人悶えています。
それを見たシンバは、冷や汗をかきながらもドッヂに罵声を浴びせました。
「な、なに訳の分からん事をやっておるのだ!!」
「さっさと、白鳥を捕まえんか!この役立たずめ!!」
シンバの声に振り向いたドッヂは、猛スピードでシンバの元へ駆け寄ります。
「シ、シンバの兄貴・・・・」
「うっ!お、お前、なにをやっておるのだ!」
「好きだ!」
「えっ!」
「好きだ!シンバの兄貴!」
「お、おれと結婚してくれ!!」
「え~~~~っ!」
「好きだ!もうはなさない!!」
ぎゅ~~~っ!!
「どひゃ~~~っ!!な、なにをする!」
「や、や、や、やめんかドッヂ!!」
ぶちゅ~~~っ!
「うわわ!!!や、やめろ~~~っ!!」
「うおぉ~~~っ!!もうがまんできね~~~~っ!!」
「ぎや~~~~っ!!」
あまりにえげつない(良い子には見せられない)光景に、フレディアも一瞬固まってしまいましたが、ハッと我に返ると・・・。
「わたし、し~らない!!」
そう言って一目散に逃げて行きました。
「あ~怖かった~。」
「あ、そうだ!白鳥さんが心配だわ!!」
二人から離れた場所にくると、キョロキョロと辺りを見回しました。
「あれ~~っ?あの白鳥さん、どこへ行ったのかな?」
「大丈夫だったのかな?」
そう言うと、フレディアはキューピットの弓矢を手に取りました。
「気を付けて矢を選ばないと、とんでもない事になるわね・・・」
さすがに、ちょっと反省している様子です。
フレディアが今回シンバに使った矢は『戒めの矢』と言って、技術と創作の神様が新しく作ってくれた武器です。それともう一本『懺悔の矢』も作ってくれました。
天界の掟では特別な理由がない限り、地上に降りた天使は、武器の使用が禁止されているのですが、フレディアは以前、『幻の宮殿エルサラーム』の脅威から人々を救った功績が認められ、特別に許可をもらっているのでした。
戒めの矢・・・・一時的に腹痛を与え、相手の動きを封じる事ができます。
懺悔の矢・・・・自分の罪をさらけ出し、悔い改めさせることが出来ます。
いずれも恒久的な効果はなく、一時的なものです。知性の無い魔物などには効きません。