第五十三話 イーヴの魔石
「「イーヴの魔石?」」
「うむ。ダグダルムとの戦いのため、神々がヤーンに授けた聖なる光の玉じゃ」
「それがあれば、力の杖の魔力を防ぐことが出来るのですか?」
カーナがセレノス様に尋ねました。
「そうじゃ!」
「もともと、力の杖はダグダルムが持っておったのじゃよ」
「えっ!そうなのですか?!」
「ダグダルムが滅びた時、神々が力の杖を天界の武器庫に保管したのじゃ。再びダグダルムが復活せぬようにな!」
「じゃあ!そのイーヴの魔石を取ってくればいいのですね!」
カーナは嬉しそうに尋ねましたが、王様は険しい顔で言いました。
「それは、難しい話じゃ!」
「ヤーンの国は大昔に滅び、その遺跡はカラカラ砂漠にあると言われておるが・・・」
「カラカラ砂漠は禁断の地。ヤーンの遺跡にたどり着き、無事に帰って来た者は一人もおらぬと聞く」
「えっ!それは、どうしてですか?」
今度はフレディアが尋ねます。
「カラカラ砂漠は迷いの砂漠・・・。あの広大な砂漠では、いま自分がどこにおるのかさえ分からなくなってしまう」
「砂漠で迷う事・・・。それは死を意味するのじゃよ」
「それだけではないぞ。ヤーンの遺跡は蜃気楼に守られているという噂じゃ」
「幻影の中に存在する幻の都、それがヤーンの遺跡なのじゃよ」
王様の言葉に、ギルドマスターのローゼスが付け加えます。
「普通に探しても決して見つからない遺跡がヤーンなのだよ」
「この遺跡を探すために多くの冒険者が旅立ったが、いまだに発見されておらぬ」
「まずは、ヤーンにたどり着く方法を見つける必要があるのだ」
「それに、たとえ運よく遺跡にたどり着く事が出来たとしても、そこから生きて帰る事は不可能と言われているのだ」
「えっ、どうしてですか?」
カーナが不安そうに尋ねます。
「ヤーンの遺跡には、沢山の恐ろしい罠が仕掛けられておるそうだ」
王様が険しい顔つきのまま答えました。
「「え~~~~っ!そんな~~~!!」」
二人は落胆の声を上げます。
その時でした、それまで黙って聞いていたダークが口を開きました。
「いや、方法はある!」
「えっ!」
「わしを牢獄から出してくれたお礼に、良いものを差し上げよう」
そう言うと、娘のロンロンに声をかけました。
「ロンロンよ!お前に預けた、盗賊の秘宝は持っておるか?!」
「あ、あぁ!それなら持っているわよぉ」
「でもぉ~。あれは、あたいらダーク一家のお宝なんじゃ・・・」
「俺はもう、裏の世界から足を洗うつもりでいる!だから、それは俺たちにはもう必要ない物だ!」
「お、親父・・・」
「それに、この世界がバスエルに支配されるような事になれば、おしまいじゃ!!」
「分かったよ親父、フレディアに渡すわよぉ~」
「ほらっ、一つしかない貴重なものだから、大事に使っておくれよ~」
そう言うと、ロンロンは渋々フレディアに盗賊の秘宝を渡しました。
「こ、これは?」
「それは簡単な罠なら見破る事の出来る、魔法のアイテムなのよぉ」
「うわ~っ!すご~い!」
「ただし、そのエリア内の罠だけだからね~」
「場所が変れば魔法の効き目は無くなるから、気を付けて使ってね~」
「は~~い!!」
「そう言う事であれば、同じギルドの仲間として、我々も協力させてもらうぞ!」
ローゼスは二人に、ギルドも全力で応援する事を約束しました。
ですが、王様はその事に少し違和感を感じたようです。
「なに、同じ仲間じゃと! お二人の天使殿が?」
王様が不思議そうな顔で尋ねました。
「はい!この二人は、我がギルドのBランク冒険者ですから!」
ヌートリスの大失態で、ギルドの面目が丸つぶれになりましたが、この二人の活躍で見事汚名を返上出来たので、ローデスは鼻高々に答えます。
「わたし達だけじゃないよ!このハンクも同じBランク冒険者だよ!」
フレディアは胸の銀バッチを自慢そうに見せながら、言いました。
「何と、そうであったか!」
「はい!我がギルド自慢の冒険者たちです、王様!!」
ローゼスが満面の笑みで答えました。
「まぁ!それではこの方たちに褒美を差し上げなくては!」
王妃様が王様に向かって言いました。
「そうじゃ!Sランクの最重要クエストを達成したのじゃからな!」
どんなご褒美をもらえるのか、フレディアは嬉しそうに目をキラキラさせていましたが、カーナの思わぬ一言で、その期待はもろくも崩れ去ってしまいました。
「いえ王様、ご褒美はダークさんの釈放でいただきましたから!」
カーナがそうきっぱりと断ると、フレディアはガックリと肩を落としました。
「う~~~む、しかし、それでは・・・」
「ん?待てローゼスよ。この者たちは何故Bランクなのじゃ?」
「えっ?な、何故と言われましても・・・」
「牛にされた后を治したほどの冒険者が、Bランクで良いのかな?」
「ははっ!ごもっともでございます王様!!」
「直ちにこの者たちをAランクの冒険者に昇格させます、はい!」
ローゼスの返事に大喜びのフレディアですが、ここで大臣がローゼスをギロリと睨んで言いました。
「そう言えば、王妃様の頭をトンカチで殴ったあの大バカ者も、金色のバッチを付けておりましたな?」
ギクッ!
「あの大バカ者と、この方たちとが同じ扱いというのは、チトおかしいのではないのかローゼスよ!」
王妃様の頭にたんこぶを作った事が、よほど腹に据えかねていたのでしょう。大臣はローゼスを睨みつけています。
「は、はい、おっしゃる通りです」
「では、この者たちをSランクへ昇格という事で・・・」
「うむ、それなら良いかな?天使殿!」
王様はフレディア達に確認しました。
「ラジャー!!」
カーナが断らないうちに、フレディアは急いで返事をしました。




