第五十話 乱入者
「おい、こら!!貴様ら勝手に入ってはならん!!」
「うるせえ!!」
ドン!
制止する衛兵を突き飛ばして、何者かが乱入してきました。
「騒々しい、何事だ!!」
異変に気付いた大臣が兵士に問い質します。
「はっ!この者たちが、王様に会わせろと、強引に押し通ろうとしましたので!」
乱入してきた者を見た瞬間、ハンクの顔色が変わりました。
「チッ!!こいつらは!!」
「お前たちは何者だ!ここを何処と心得る!!」
「お~~~っ、ほっ、ほっ、ほっ・・・」
「大臣、わたくし達は怪しい者ではありませんわ!」
優雅に笑いながら、貴族風の婦人が進み出てきました。
「お前はエルゼのババア!!」
「ハンク待って!ここで暴れたらまずいから!」
婦人を見たハンクは、殴りかかろうとしましたが、フレディアとカーナに止められました。
「ほっ、ほっ、ほっ・・・。わたくし達は、大切なお方をここへお連れしたのです」
「なに?大切なお方だと!?」
婦人の言葉に、大臣は衛兵に捕縛の命令を出すのを止めました。
「さっ!こちらへお連れしなさい!」
「!!!」
「「あ~~っ!!ルナ!!」」
ジョルダンとバルガンが、ルナを連れて現れました。
「お~~~っ、ほっ、ほっ、ほっ!」
「なにを隠そう、このお方こそ12年前に行方不明になられた・・・」
「ウオ~~~ッ!!!もう我慢ならん!!」
ハンクは一声吠えると、フレディアとカーナの腕を振りほどき、夫人の前にいた四人の兵士を放り投げて、無法者たちに襲い掛かりました。
「うわっ!!ハ、ハンク!!て、てめえなぜここに!!」
「貴様ら、もう許さん!覚悟しろよ!!」
「「どひゃ~~~~~っ!」」
ハンクが二人の男に殴りかかろうとしたその時でした。
「騒々し!!いったい何事じゃ!!!」
凛とした声を発したのは、何と!ロファ国の王様でした。
「こ、これは?!」
大臣は自分の目をこすって、何度も確認していますが、それは紛れもない王様でした。
「「「ええっ!?王様がもう一人!?」」」
その場にいた全員が、まるで狐につままれた様な顔で、二人の王様を見比べています。
「ありゃ?これ、どういう事なの?」
「王様って、二人もいる訳ないわよね?」
フレディアとカーナも、お互い顔を見合わせて驚いています。
後から現れた王様が、玉座の間へ進んで来ました。
「これは、いったい何の騒ぎじゃ!」
「!!!」
「おぉ!!后よ、その姿は!!?」
後から現れた王様は、元の姿に戻った王妃様を見て驚いています。
「まぁ!!これはどうした事でしょう!?王が二人もいるなんて!?」
「な、何じゃと?わしが二人じゃと?」
王妃様に言われ、後から現れた王様は、目の前に自分とうり二つの王様がいる事に気付きました。
「「な、な、なんじゃ!これは一体どういう事じゃ!!」」
二人の王様は、まったく同じ事を言っています。
「あわわ・・・。一体どちらが本物なのだ?」
大臣はどちらの王様が本物なのか見分けが付かず、オロオロしています。
「あ!そうだ、妖精の杖を使えば!!」
ニセの王様を見分ける方法を思いついたフレディアは、王様に杖を返してくれるよう言いました。
「王様!ちょっと、その杖を返してくれませんか?」
「おぉ!そうであった!この杖はそちの物であったな?!」
「ふっ、ふっ、ふっ・・・。だが、わしはこの杖が気に入っておるのじゃ」
「この杖は、わしがいただく事にするぞ!」
「えっ!」
「貴様!王ではないな!!」
ジョルダンの胸ぐらをつかまえて、殴りかかろうとしていたハンクが叫びました。
その声を聞いた大臣と兵士たちが、慌てて後から現れた王様を庇います。
「お、お前は何者だ!!」
大臣の問いに、最初からいた王様が答えました。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・。わしの本当の姿を、この妖精の杖を使って見せてやろう」
そう言うと、男は杖に魔力を送り込みました。
すると杖にはめ込まれている宝玉が光だし、暖かい緑の光が男の姿を包みます。
キュイ~~~ン!
ほんの数秒で光は消えました。
そして、そこに現れたのは・・・。
銀色の髪に、青い瞳をした見目麗しい容姿に、金色の美しい魔法の刺繡のされた青のローブをまとい、そして背中には黒い翼が生えています。
「き、貴様はバズエル!!」
本物の王様が叫びました。
「バズエル!?」
フレディアとカーナが驚いています。
大臣は驚きのあまり、腰を抜かしてしまいました。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・。久しぶりだな王よ!」
「12年ぶりに帰って来てやったのだ!もう少し嬉しそうな顔をしてもらいたいものだな・・・」
「お、おのれバズエル!」
全員が堕天使バスエルの登場に気を取られている隙に、ルナが夫人を突き飛ばし、ハンクの胸に飛び込みました。
ハンクはルナを守るため、しっかりと抱きしめながら、バズエルを鋭い目で睨んでいます。
「さて、そこの天使のお二人には、礼を言わねばならんな」
「何しろ、力の杖を使う私にとって、一番厄介な妖精の杖を進呈していただいたのだからな」
「あげたんじゃ、ありません!!」
「杖を返せ!」
カーナとフレディアは、プンプン怒って文句を言います。
「まぁ、まぁ、そう怒るな!私たちは同じ天使同士じゃないか。仲良くやろうぜ!」
「何を言っているのですか!早く二つの杖を返して、おとなしく自首しなさい!!」
「でないと、セレノス様に懲らしめてもらいますよ!!」
カーナがバズエルに脅しをかけますが、バズエルはそれを笑い飛ばしました。
「は~~っ、はっ、はっ、はっ・・・」
「セレノスだと!?あんな老いぼれに何が出来る!!」
「お前たち、一体何が楽しくて、あんな身勝手な神に仕えているのだ?」
「天使が神様にお仕えするのは当たり前でしょ!」
セレノス様をバカにされたカーナが、泣きそうな顔で言い返します。
「まさか、まじめに神に仕えて修行すれば、いずれ自分たちも神になれると信じているのじゃないだろうな?」
「そ、そうよ!まじめ修行すれば、きっと立派な神様になれるわ!」
今度はフレディアが怒って言い返します。
「騙されるなフレディア!それは、神が天使を利用するための口実にすぎないのだ!」
「口実?」
「そうだ!神の力は絶対ではない!神は、天使の持つ力を恐れているのだ!だからうまい事を言って、我らを利用しているのだ!」
「・・・・・」
「フレディア、私に協力しろ!愚かな人間どもをねじ伏せ、我ら天使が神に代わってこの世界を支配するのだ!!」
「フ、フレディア・・・」
すぐに返事をしないフレディアを心配して、カーナが声をかけました。
するとフレディアは、右目の下まぶたを指で引き下げて言いました。
「あっかん、べー!!」
「くっ!それが答えか!!ならば、こうしてくれる!!」
そう言うなり、バズエルは力の杖をフレディアたちに向けて振るいました。
「よけろフレディア、カーナ!!」
そう叫ぶと、ハンクは二人を突き飛ばし、ルナを抱えて飛び退きます。
バズエルの放った杖の魔力は、フレディア達の後ろにいた夫人と二人の無法者に直撃し、三人はネズミの姿に変ってしまいました。
「「「チュ~~~~ッ!!」」」
「ちっ!外したか!」
「まぁ、いい!ダグダルムの神殿はまもなく復活する!この国は滅びたのも同然だ」
「わっ、はっ、はっ、はっ・・・・」
そう言うと、バズエルはコウモリに姿を変え、城の窓を突き破って飛び去りました。




