第四十七話 セレノス様と再会
ライブハウスに並んでいた人達は、もう店の中に入っていたので、フレディアたちも急いでお店に入りました
「いらっしゃいませ!3名様ですね。ドリンクお食事付きで、60ゴールドになります」
「一度お店から出ますと、入場の際には再度料金をいただくことになりますので、お気をつけください」
「それでは、どうぞお席の方へ。ライブショーをお楽しみください!」
お店の人に促されて中へ入ると、みんなライブショーの始まるのを今か今かと待っていました。
一番前の席に座っていた女の子が、嬉しそうにフレディアに教えてくれました。
「あのね、お姉ちゃん!しゃべるネコの名前は、セレちゃんっていうのよ!」
「早く始まらないかな~」
「セレちゃんだって!うぷぷ・・・」
「セ、セレちゃん・・・」
フレディアは必死に笑いをこらえていますが、カーナはショックで今にも倒れそうになっています。
そんなカーナを支えながら、三人は会場を抜けて、奥にある二階へ行く階段を進みました。
二階の控室の前では、シンバが見張りに立っていました。
「!!!」
「なんだ、お前たちは?」
「ここにいる、しゃべるネコに会わせてほしいんだけど・・・」
「だめだ、だめだ!ここは関係者以外立ち入り禁止だ!あっちへ行け」
「わたしたちは、あのネコに大事な用事を頼まれて、ここまで来たのよ!」
フレディアはシンバに文句を言いますが、彼は聞く耳を持ちません。
「知らん、知らん!そんなものは聞いとらん!!帰れ!帰れ!!」
「おじさん、あのネコが誰だか知っているの?」
カーナも文句を言いますが、まったく相手にされません。
「そんな事知るもんか!あのネコが何であれ、今は俺たちのモノだからな!」
「ひどい!!セレノス様の事をモノだなんて!!」
カーナは顔を真っ赤にして怒っています。
「とにかく、ネコに会わせてよ!わたしたち、大切な用事があるんだから!」
「ちっ!しつこい奴らだ!ダメだと言ったら、ダメだ!!」
ドン!
業を煮やしたシンバは、フレディアを突き飛ばしました。
「貴様!!」
「おおっ!な、なんだ、お前!」
ボカッ!!
「いで~!!く、くそう!て、てめえ、よくも!!」
怒ったハンクが、シンバを殴り飛ばしたその時でした。
「ちょ~~~っと!待った!!」
大声で争いを止める者が現れました。
その声の主は、大きな体にモヒカン刈りの、世紀末的雑魚キャラのドッヂでした。
「シンバの兄貴~~~!!」
「どひゃ~~~っ!!て、てめえはドッヂ!!」
「シンバの兄貴!会いたかったぜ~~~!!!」
叫びながらシンバに向かって走り出しました。
そしてドッヂがシンバに抱き着こうとすると、シンバは大慌てで逃げ出します。
「ひぇ~~~~っ!!助けてくれ~~~!!」
「待ってくれ兄貴~~~~!!」
必死に逃げるシンバを、逃がすまいとドッヂは慌てて追いかけて行きました。
「やれ、やれ・・・」
「とにかく、邪魔な奴は消えたようだな・・・」
「そ、そうね。入りましょうか」
フレディアは扉のドアを開けました。
部屋の中では、5~6人の男たちがたむろしています。
フレディアが背伸びをして奥を覗くと、セレノス様がトランプをして遊んでいる様子が見えました。
「あっ!!いた!!」
セレノス様を見つけたフレディアが、大きな声で二人に知らせました。
「なんだ、お前ら!!」
手前にいた男たちがフレディアの声に気付き、慌てて近づこうとしたのを、ハンクが前に出て止めました。
「おっと、お前らの相手はこの俺だ!」
「何だと、てめえ!死にたいのか!?」
男たちがハンクをぐるりと取り囲んだ時、奥にいたターバンを巻いた赤ひげの男、ザッパが騒ぎに気付きました。
「おや?何だい、あんたたちは?」
「むっ!あんたは確か・・・」
近づいて来たザッパは、ハンクを見ると周りの子分たちに引くように命令しました。
「おい、やめとけ!お前らが束になってもかなう相手じゃねえ」
「あんた、ジーノのハンクさんだね?」
「そうだ!」
「こ、こいつが、あの・・・」
イキっていた子分たちも、すごすごと引き下がりました。
「あんたの噂は聞いているよ。かなり腕がたつそうだな・・・」
「で、そのハンクさんが、ダーク一家に一体何の用があるって言うんだ?」
「用があるのは俺じゃない。連れの二人だ」
「うひゃ、ひゃ・・・。今度こそ、わしの勝ちじゃな!ロンロンちゃん、早くカードを・・・」
トランプに熱中するセレノス様の後ろに、カンカンに怒ったフレディアと、それとは反対にすごく悲しそうな顔をしたカーナが立ちました。
「ぎょっ!な、何やら、背後から突き刺すような冷たい視線を感じるが・・・」
「も、もしや・・・」
「セレノス様!!!!」
「ひゃっ!や、やっぱり!!」
セレノス様はトランプを投げ出して、飛び上がりました。
「あのね・・・。これ、一体どういうことか説明してくれる?」
「なんで、こんな所でトランプなんかして遊んでいるのよ!!」
「そ、それは・・・」
フレディアに迫られ、セレノス様は大汗をかいています。ネコなのに・・・。
「セレノス様!ちゃんと説明してください!!」
「い、いや・・・。そ、それが、その・・・」
カーナにも言われ、セレノス様はもう、オロオロとうろたえるばかりです。
「ちょっと、あんた達!セレちゃんの一体何なのさ!」
「セ、セレちゃん!?」
カーナが振り向くと、そこには黒髪のとても色っぽいお姉さんが立っていました。
セレノス様はチャンスとばかり、フレディアの視線をかいくぐり、カーナの後ろに付ました。
そしてカーナの影に隠れながら、セレノス様はロンロンに言います。
「ロンロンちゃん、わしはちょっと急用を思い出した」
「えっ?」
「この者たちと一緒に行かねばならぬのでな。悪いがこれでさらばじゃ!」
「さ、さらばって・・・」
「さ、セレノス様!早く行きましょう!!」
「今、お城では大変な事になっているのですからね!早く行ってバズエルを退治しなくちゃ!!」
「うむ!では、行くとするか」
セレノス様は、カーナに手をつながれ部屋から出ようとしましたが、そう簡単に行くはずがありません。
「ちょっと、おまち!!」
「そうは行かないよ!!」
「ザッパ!例のモノを!!」
アネゴはそう言うと、ザッパから紙を受け取りました。
「これが契約書だよ!」
アネゴはカーナに契約書を突き付けました。
「「契約書?!」」
「そうさ、契約書さ!」
「うふふ、1年間あたい達と一緒に仕事をします・・・って取り決めた契約書さ!」
ガ~~~ン!!
「「セレノス様!!!」」
フレディアとカーナは、すごい形相でセレノス様を睨みました。
「い、いや。こ、これは・・・」
「うひゃ、ひゃ、ひゃ!ど、どうしよう・・・」
何と言う事でしょう、とうとうフレディアとカーナに助けを求めています。
「信じられない・・・」
フレディアはそう言いながらも、このまま放ってはおけないので、何とか頼んでみました。
「ねえ、ねえ。わたしたち、とても大事な用事があるんだけど・・・」
「何とかなりませんか?」
カーナもお願いします。
「そりゃ、無理な話だね。何しろ、宣伝費や場所代とかに沢山お金がかかっているんだから!」
「ここでやめたら、大損さ!」
「そこを何とか・・・」
カーナが必死にお願いします。
「うひゃ、ひゃ。わしからもお願いするぞ!」
「あなたのせいでしょ!!」
「そ、そうでした・・・」
フレディアに怒られ、セレノス様は小さくなっています。
その様子を見ていたアネゴは、急に何か閃いたようで、いつもの色っぽい顔に戻りました。
「そうだ!うふふ、いい事を思いついたよ!」
「あんた達。この契約書を反故にしてあげてもいいわよぉ~」
「えっ!本当ですか!?」
カーナは嬉しそうにアネゴを見ました。
「本当さぁ、ただし、条件がひとつあるのよ~」
「じょ、条件? 条件って、いったい・・・」
「あたいの親父をここに連れてきたら、セレちゃんを返してあげるわよ~」
「おぉ!!そりゃ、いい考えだ!!」
「さすがはアネゴだぜ!!」
子分たちが色めき立っています。
「親父さん?親父さんって、どこにいるの?」
フレディアが尋ねました。
「あたいの親父はダーク一家の親分さ、いまロファ城の牢獄の中にいるよ」
「牢獄の中?!」
(あっ!あの人か!)
「そうさ、そこから無事に親父を出す事が出来たら、この契約は無かった事にしてあげわよ!」
「どうだい?」
「うん、わかった!何とかやってみる!」
「カナちゃん、行こうか!」
「うひゃ、ひゃ。しっかりやるのじゃぞ!」
「・・・・・・・・・」
フレディアの無言の圧力に、セレノス様は目が泳いでいます。
「じゃあね!セレちゃん!!」
フレディアはそう言うと、スタスタと部屋から出て行きました。
「な、なかなか難しい年頃じゃの、フレディアは・・・」
「カーナがフレディアみたいにならんように、気をつけなくては・・・」
そう呟きながら、フレディアたちを見送りました。




