第四十六話 ダークという名の囚人
まだまだお城の中には入れそうにないので、フレディアたちはお城の外を見て回りました。
すると城壁に囲まれた一角に、囚人を入れる牢獄がありました。
「カナちゃん、ここ並んでないからすぐに入れるよ!」
「いや、そこは勝手に入っちゃダメな所でしょ?」
カーナの言う事も聞かず、フレディアは扉を開けて中を覗きました。
中では監守が椅子に座って居眠りしています。
「気持ちよく寝ているから、起こしちゃ悪いわよね・・・」
そう言うと、フレディアはトコトコと中へ入って行きます。
「ちょっと、フレディア!」
「おい、おい!下手すりゃ、俺たちもぶち込まれるぜ?」
そう言いながらも、三人は囚人が捕らわれている地下へ降りて行きました。
薄暗い牢屋の中には、数人の囚人たちが捕らわれていました。
その中の一人が、フレディアたちに気付いて、鉄格子のそばまで寄ってきました。
「あんた達、ここで何してんだ?」
「あたしたち、ちょっと人を捜しているの」
「あぁ、だったら一番奥の独房にいる人に聞けばいいよ」
「その人、この牢屋のボスだから」
囚人のおじさんは、カーナの返事に答えてくれました。
「おじさん、何でここにいるの?」
知りたがり屋のフレディアが、囚人に質問しました。
「オレか?」
「食い逃げしようとしたら、食べ過ぎて走れなかったんだよ。とほほ・・・」
「あ~~~っ・・・」
フレディアは残念な声を出しましたが、とりあえず納得したようです。
おじさんに教えてもらった独房に行ってみると、中には白い髪をオールバックにして、口ひげを蓄えたダンディーな初老の男性がいました。
若い頃はさぞかし女にモテたであろう、渋い感じの人でした。
机に向かって本を読んでいたその囚人は、フレディアたちに気付くと、こちらへやって来ました。
「おや?あんた達、どうやってここへ入って来たのかね?」
「キャハハ!ちょっと人を捜してて・・・」
「ほう!それでここへ迷い込んだって訳かい」
「で、一体誰を捜しているんだ?俺に言ってみな!」
「俺の名はダークといってな、この中じゃ一番の古株だ」
「ここの奴なら誰だって知っているぜ」
「そ、それが・・・。ここに入る様な人じゃないのですけど・・・」
ダークの鋭い眼光を見て、カーナが恐る恐る言いました。
「実は、あたしたちの捜している人は・・・」
「なに!!行方不明になった王女そっくりの娘を捜しているだと!?」
「う~~~む。そりゃ、当然ここにはいないだろうぜ」
「王女か・・・」
そう呟くと、ダークは捕らわれた日の事を思い出して、しばらく目を閉じていましたが、おもむろにフレディアたちに語り始めました。
「実はな・・・・。行方不明になった王女について、ちょっと気になる事があるのだが・・・」
「気になる事ですか?」
「今から7年前・・・。俺は賞金欲しさに、6人の娘を王女に仕立て上げ、王様の前に差し出した」
「どの娘も捜索願いの紙に書かれていたように、赤い髪で茶色の瞳をした王女にそっくりの娘だった・・・」
「え~っと、今から7年前って言う事は、バズエルに誘拐されてから5年後・・・」
「つまり王女様の歳が12歳の時ね!」
フレディアの説明にダークは頷き、話を続けます。
「ところがどうだ!王様は娘たちに、たった一言質問しただけで、直ぐに偽物だと見破ってしまったのだ!」
「え~~っ。たった一言でバレちゃったの?いったいどんな質問をしたのかしら?」
カーナが興味深そうに尋ねました。
「それが・・・。何の変哲もない、ありきたりの質問だった・・・」
そう呟くと、ダークは再び目を閉じて、その当時の事を語り始めました・・・。
ロファ城内の謁見の間には、王様と、その右隣には王妃様が座り、王様の左には大臣が立ち、周りを30名ほどの衛兵が警護をしていました。
そんな中で、王様は直接娘たち一人一人に質問をしてゆきました。
そしてダークが仕立てた6人の、最後の娘に質問した時です。
「それでは、次の娘に質問する」
「名前はマーガレット。年齢は12歳の女の子・・・」
「それで相違ないな?」
「・・・・・・・・・」
ところが緊張したのか、その娘はすぐに返事をしませんでした。
その様子を見た王と王妃は、顔を見合わせると急いで返事の催促をしました。
「どうしたのじゃ?さ、さ、答えておくれ」
「ま、まさか、言葉がしゃべれない訳ではあるまい?」
娘は俺の方を見ておどおどしていたので、俺は娘にすぐに返事をするように促した。
「は、はい・・・。間違いありません」
「そうか・・・。相違ないと申すのだな・・・」
(にやっ!そうだ、それでいい・・・)
俺は最後の娘に手ごたえを感じ、上手く行ったとほくそ笑んでいたのだが・・・。
「いや、良く分かった」
「それでは、結論を言おう!」
「残念じゃが、この中にはわしの娘はおらぬ!!」
「そ、そんな!」
「王様、そんな簡単な質問だけで結果を出されるなんて!もう少しお調べになってからでも・・・」
「いや、今の質問で十分じゃ!ダークとやら、もう下がってもよいぞ」
その王様の言葉の後、すぐに兵士が王様の元までやって来ました。
「王様、申し上げます!ただいまミントの町から特使が参りました」
(な、なに!ミントの特使!?)
「何でも、ミントの町のダークという者が・・・」
「し、しまった!!」
「という訳だ・・・」
「王様の質問は、どこにでもあるような、ありきたりの質問だった・・・」
「なのに、確実に嘘を見破ったのだ!おかしいと思わねえか?」
「そうね~。おかしいわね~」
「誘拐されてすぐなら顔を見れば分かると思うけど、5年も経っているのならねぇ・・・」
カーナとフレディアは、腕を組んで考え込んでいます。
「で、オレはこの7年間、考え抜いて一つの結論を出した!」
「えっ?なぜ嘘が見破られたのか分かったの?」
「あぁ!」
「えっ!なに、なに!!教えて、教えて~~!!」
二人とも必死になって尋ねました。
「質問の答えなど、どうでも良かったのだ。おそらく王女は・・・」
「王女はなに?」
「うむ!恐らく王女は・・・・」
「ゴクリ!」
フレディアも、カーナも生唾を飲んで聞き入っています。
「いや、これは機会があれば、俺が直接王様に聞いてみたいと思っている事だ」
そう言うとダークはさっさと机に戻って本を読みだしました。
「そ、そんな~~~。ここまで気を持たして~~~」
「教えてくれたっていいじゃない!けちんぼ!!」
諦めきれないフレディアが文句を言いますが、ダークはそれっきり相手にしてくれませんでした。
牢獄を出たフレディアたちは、セレノス様が居ると思われる、ライブハウスへと向かいました。




