第四十二話 ハンクと再会
「「ハンク!!」」
ルナを故郷に帰すと言っていたハンクが、一人でここにいる事に二人は驚いています。
「ハンク、一体どうしたの?ルナがいないけど、一緒じゃないの?」
カーナが急いで尋ねました。
「ルナがさらわれた!」
「「えっ!」」
「それどういう事!?」
フレディアが理由を尋ねます。
「夫人にハメられたんだ!」
「あのババア、パーティーの食べ物に睡眠薬を仕込みやがった!」
「睡眠薬を!?」
「そうだ!気が付いた時には、ルナと夫人はすでに消えていた後だった」
「村の者の話では、あのミントの町から来た二人組と一緒に、西へ向かったと・・・」
「だから、俺は奴らを追ってここまで来たのさ」
「そっか・・・」
「でも、ルナはこの町にはいないよ!わたしたち、町中を見て回ったもの」
フレディアが自信をもってハンクに伝えます。
「そうだわ!きっと、ロファの街に行ったのよ!!」
「だってあの人たち、ルナの事を12年前に行方不明になった王女様だと言っていたもの!」
村長の家で話していた事を思い出したカーナが、ハンクに言いました。
「あ~~~っ!!そういえば、そんな事言っていたわね!!」
「ハンク!ルナはロファの国王の元へ連れて行かれたのよ!!」
「ちっ!そうか、ロファか・・・」
「ねえ、ねえ、ハンク!わたしたちも、これからロファへ行くのよ!」
考え込んでいたハンクの服を引っ張って、フレディアが促します。
「なに、本当か!?じゃあ、奴らを追うのを手伝ってくれないか?」
「もっちのロンよ!」
「ルナはあたしたちの大切な仲間だもん!」
カーナが右手の親指を立てて答えました。
「それに、ハンクが一緒だと、わたしたちも心強いわ!」
もちろんフレディアも大喜びです。
「サンクス!よし、じゃあ急ごう!!」
話しがまとまり、さあ行こうという時に、めんどくさい男がしゃしゃり出てきました。
「ちょっと、待ちな!!」
「おめえ、オレ様を無視して話を決めるなんて、いい度胸しているじゃねえか!!」
頭のネジがぶっ飛んでいるドッヂが、肩を揺らしながら出しゃばってきました。
「フレディア、この頭の弱そうな男は何者なんだ?」
フレディアたちとは、およそ縁の無さそうな男が出て来たので、ハンクが尋ねました。
「あ、それね・・・。ちょ、ちょっとね・・・」
「ロファの街までの道が分からないって言うから、一緒に連れて行ってあげようと・・・」
フレディアが口を濁すので、カーナが代わりに答えました。
「いいか、狼男!ここのパーティーを仕切れるのは、Bランク冒険者のこのオレ様だって事を忘れるな!!」
「いいだろう!お前が俺より強ければ、そうしてやるよ」
「なんだと!!」
ドッヂは有無も言わさずハンクに殴りかかりましたが、ハンクはそれをヒョイとかわすと、容赦なく反撃します。
そしてボコボコにタコ殴りにされたドッヂは、完全にのびてしまいました。
「ちょ、ちょっとやり過ぎなんじゃない?」
ドッヂを治療しながらフレディアが言うと、ハンクは笑いながら答えます。
「この手の輩は、口で説明すると時間が掛かるんだよ・・・」
「こうするのが、一番手っ取り早いのさ!」
ハンクの言う通り、効果はてきめんでした。
ドッヂは気が付くと、すぐに土下座して謝りました。
「おみそれしました・・・」
「これからハンクさんの事を、アニキと呼ばせてください」
「好きにすればいい。だが、俺たちに迷惑の掛かるような事はするなよ!」
「ヘイ!!」
(さすがはハンクね。この手の輩の扱いに慣れているわ・・・)
フレディアはうんうんと頷いて納得しています。
「よ~~し!じゃあ、ロファへ向けてしゅっぱ~~つ!!」
ロファの街は、ミントの町から南に下がり、ラスカン峠を越えた東の地にあります。
旅の日程は熟練の旅人で約十日間の旅となります。これは魔物との戦闘も含めた日数なので、フレディア達なら、もっと早くに着くことが出来るでしょう。
気を取り直したフレディアの号令で、四人はロファの街へ向けて出発しました。
そのころ天界の神様の家では、技術と創作の神様と、恋を取り持つ神様がため息をついていました。
「毎日インスタントラーメンも食べ飽きたのぉ~」
技術と創作の神様が天井を見てつぶやいています。
「フレディアは一体いつ帰ってくるのじゃ?」
恋を取り持つ神様が、箱の中をゴソゴソしながら聞きました。
「分からんわい。そろそろ帰って来ても良さそうなものじゃが・・・」
「ひょっとして、下界が楽しくて帰って来んのかもしれんぞ?」
「なに?そんな事あるはずがないわい!」
「それより、お前とこのオリビアこそ、旅が楽しくてもう帰って来んのではないか?」
「うひゃ、ひゃ!心配無用じゃ!」
そう言うと、恋を取り持つ神様は、ゴソゴソしていた箱を技術と創作の神様に見せました。
「なんじゃ、それは?」
「うひゃ、ひゃ、ひゃ!オリビアが旅行先から送って来たお土産じゃよ」
「おっ!なにかうまい物でも入っておるのか?」
そう言うと、技術と創作の神様は、箱の中を覗き込みました。
中には温泉饅頭と、袋に入った温泉の元と、絵葉書が入っていました。
絵葉書には、温泉に浸かって『温泉タマゴ』を、おいしそうに食べているオリビアが写っていました。
「「ごくり!」」
「なんか、うまそうなタマゴじゃのう・・・」
フレディアが居なくなってから、毎日パンとラーメンしか食べていなかった二人の神様は、よだれを垂らして見ています。
しばらく絵葉書を眺めていた技術と創作の神様ですが、ふと名案が閃きました。
「そうじゃ!温泉タマゴが作れるかもしれんぞ!」
「おっ!本当かの?」
「うむ!わしの作った魔法レンジを使えば、簡単に出来るぞい!」
技術と創作の神様は、自慢げに恋を取り持つ神さまに魔法レンジを見せました。
「このレンジを使えばのぉ、冷えた飯でも1分チンすれば、暖かいご飯になるのじゃ!」
「おぉ!それはすごいの!」
「で、どうやって温泉タマゴを作るのじゃ?」
「まず、このおっきい丼に水を入れての・・・」
「ふむ、ふむ・・・」
「次にオリビアが送って来た温泉の元をちょっとだけ入れて、よくかき混ぜるのじゃ」
「ほう、ほう・・・」
「で、どんぶりの中にタマゴを入れて、わしの自慢の魔法レンジでチンすれば、あっという間に温泉タマゴが出来るという訳じゃ!」
「おぉ!さすがは技術と創作の神じゃ!」
「では、早速やってみようかの!」
神様たちは、丼の中に玉子を6つも入れ、魔法レンジのスイッチを入れました。
「うひゃ、ひゃ!楽しみじゃの!」
「おっ!ドンブリの水が沸いてきたぞ!」
二人はわくわくしながら、魔法レンジの中を覗き込んでいます。
と、その時でした。
ボカ~ン!!
「「どわ~~~っ!!」」
玉子が破裂し、辺りは飛び散った玉子でメチャクチャになってしまいました。
玉子は絶対にレンジでチンしないでください。




