第三十九話 セレノス様はどこ?(一)
「それじゃ!ハンク、ルナ、いろいろありがとう!!」
フレディアとカーナは、すぐにミントの町へ帰る事になりました。
「あぁ、お前たちも、しっかりな!」
「バズエルって野郎と戦わなければならないのだろ?」
「うふふ・・・。大丈夫!あたしたちにはセレノス様が付いているのだから!」
(いや、その根拠のない自信は一体どこから?)
(わたしは、そこはかとなく不安しか感じないのだけど・・・)
フレディアは、カーナの性格を少し羨ましく思いました。
「ルナ、元気でね!」
「・・・・・・・」
カーナはルナの事が心配でしたが、最後は元気に声をかけました。
フレディアもルナの事は心配でしたが、ハンクとの事は、自分にはどうする事も出来ないのを理解しています。
「じゃ!さようなら!!」
「バイ、バ~イ!」
一抹の寂しさは残りますが、こうしてハンクとルナとの旅も終わり、二人はミントの町へ旅立ちました。
ふらふら峠を越えた頃には、陽は大きく西に傾き、関所からは夕飯をかしぐいい香りが漂って来ました。
外で夕飯の準備をしている兵士たちが、峠から降りてくる二人を見つけ、駆け寄って来ます。
「おっ!君らはお騒がせのお嬢ちゃんたち!」
「お騒がせってなにさ!」
お腹が空いてペコペコなフレディアは、ちょっと機嫌がよくありません。
「はっ、はっ、はっ。そうむくれるなよ!」
「いまから晩飯なんだが、一緒にどうだい?」
「ちょうどスープも煮立ったところだ!」
「ラジャー!」
フレディアは、大喜びで飛び跳ねています。
その様子を見たカーナは、フレディアの性格を少し羨ましく思いました。
関所の天幕で一夜を過ごしたフレディアたちは、兵士たちに見送られて旅立ちました。
そして5日目のお昼ごろに、やっとミントの町へ到着しました。
「わ~~~い!やっとミントの町に帰って来た~!!」
「ほ~~~んと。大変だったね、カナちゃん!!」
「さぁ、早くセレノス様に会わなきゃ!」
「そうね!会ってひと言文句を言わなきゃ!!」
「まぁ、まぁ。そんなに怒らなくても・・・」
「妖精の杖も手に入ったんだし、それより、早く町の人たちを助けてあげなくちゃ!」
「それも、そうね・・・」
「じゃあ、神様を捜しながら、皆を元の姿に戻してまわろうか!」
「は~~~い!」
こうして二人は町中を駆け巡り、動物と入れ替わった人々を、元の姿に戻して回りました。
そして次の日の朝。
「フレディア、もう起きて!」
「ス~ス~・・・」
「ちょっと、フレディア!もう起きなさい!」
「ス~ス~・・・」
「もぉ!信じられない!!」
「!!!」
「フレディア~!ごはんですよ~!!」
ピョコ!
「おはよう、フレディア!」
「おはようカナちゃん・・・」
「じゃ、また・・・」
「こら~っ!!」
「ねぇ、フレディア・・・。セレノス様は、一体どこへ行ったのかしら?」
「町の人たちは無事に元の姿に戻せたのに、セレノス様だけが見つからないなんて・・・」
カーナは心配そうにフレディアに尋ねました。
「ほ~んと!町中捜して回ったのに、どこを捜してもいないなんてヘンよね~」
「ひょっとして、誰かに捕まって毛皮にでもされたんじゃ・・・」
フレディアは、よからぬ事を想像してカーナに言いました。
「え~~~っ!そ、そんな~~!!」
まじめなカーナは、フレディアの言葉を真に受けて、悲痛な顔で叫びます。
「じょ、冗談だってば・・・」
「ねぇ、フレディア。もう一度町の中を捜そうよ!」
「そうね、まだ見落としている場所があるかもしれないし・・・」
「それに町の様子がどうなったのか、気になるしね!じゃ、行こうか!」
冒険者用の宿屋を出た二人は、ネコになっていた道具屋のお姉さんに声をかけました。
「もう、元の姿に戻れないと思ったわ!どうもありがとう!」
「でも、ニャンでネコなんかになったのかしら?」
「キャハハ!問題なしね!」
「そ、そうね、ちょっと引っかかるけど・・・」
宿屋ではネロがフロントの前にいました。
「やあ!リンダがまたニワトリになっていないか、心配で見に来たんだ!」
「もう大丈夫よネロ。心配しなくてケッコーよ」
「皆さんのおかげで、もうすっかり元の姿にもどりましたわ!どうもありがとう!」
「キャハハ!問題なしね!」
「そ、そうね・・・」
次は武器屋の様子を見に行きました。
店の中では弟子がしょんぼりしています。
「親方が戻って来たんだけど、何だか機嫌が悪くて・・・」
「俺とぜんぜん口を聞いてくれないんだ」
「ここは、ちょっと問題かもね・・・」
「そうね」
次は牛にされていた花屋のおばちゃんに声をかけました。
「不思議な事があるものだね。長い間牛になっていたような気がするのよ」
「いやだね、モ~~~ッ」
「よし!ここは問題なし!」
「おかしいな~。村長さんの奥さんは普通にしゃべっていたのに・・・」
「モモちゃんの所はどうかな?」
フレディアたちはレストランを覗いてみました。
「いらっしゃいませ~!」
「当店自慢の干し草コロッケはいかが?注文が決まったら教えてね!」
モモちゃんは、相変わらず元気に働いています。
店の中では、お客さんたちが楽しそうに会話をしながら食事をしていました。
「よかったね。元の静かな町に戻って!一時はどうなる事かと思ったわ」
「ほ~んと!人間と動物が入れ替わっちゃうなんて、びっくりよね~」
カウンターの隅には、いつもの常連さんもいます。
「これがモモちゃんおすすめの干し草コロッケか・・・」
「どれ、どれ、お味は・・・」
「うえ~~~っ!!」
「うん、問題なしね!」
「ま、まあね」
教会ではシスターが、神父様に何かを熱心に語っていました。
「シスターが何かを悟ったそうです。いや、素晴らしい!!」
「わたくしが動物の姿に変身したのは・・・」
「言葉無き物の心を察せよと、神がわたくしに与えた教訓だと思います!」
「うん、ここも問題なし!」
「そうね!」
最後に、町はずれの一軒家を見てみました。
ここはダーク一家のアジトです。




