第三十八話 妖精の杖の力
ジーノの廃坑を進み、あと半日ほどで坑道を抜け出る所まで来た時です。
何者かが魔物に襲われている声が聞こえてきました。
「いて~!くそっ、足をやられちまった!!」
「ダメだ!こんな奴らには勝てねえ!」
「もうダメだ!助けてくれ~!!」
悲痛な声で助けを求めています。
フレディアたちは、急いで声のする方へ走りました。
見ると4人の冒険者パーティーが、魔物の群れに襲われています。
大コウモリが6匹と、巨大アリが3匹もおり、退けようと奮戦しているのは一人だけで、残りの3人は怪我で戦意を無くし、ガタガタと震えていました。
危機的状況だったため、カーナは咄嗟に風の魔法『木枯らし』を発動しました。
ビュ~~~ッ!!
ピキ~~ン!!
乾いた音がして、大コウモリは地に落ち、巨大アリもその場で動けなくなっています。
カーナの放った凍てつく風で体がこごえ、動けなくなってしまったのです。
あとはもう、全員でタコ殴りです。
魔物を全滅させると、負傷した者をフレディアとカーナが治癒魔法で回復させてゆきます。
「魔物の群れに気を付けろと、忠告しただろう」
ハンクが奮戦していた背の高い男に声をかけています。
「やあ、あんたか!すまない、本当に助かったよ!」
「大コウモリにてこずっている間に、背後から急に巨大アリが襲って来たんだ」
「せっかく忠告してもらったのに、このザマだ!面目ない!」
そう言うと、Bランク冒険者の男は頭を下げました。
「あっ、この人たち、ダンジョンの入り口で会った人たちね!」
フレディアが、自分たちに茶々を入れて来たのを思い出しました。
「そう言えば、そうね?」
「あなた達、女の子は俺が守ってやるって言ってなかったっけ?」
カーナがニッと意地悪くえくぼを作って、治療している男に尋ねました。
「ひ~っ。ごめんなさい!調子に乗っていました~」
女の子に助けられて、男は面目無さそうに平謝りしています。
他の二人も恥ずかしさのあまり、顔を手で隠して治療を受けていました。
「「「本当にありがとうございました!」」」
坑道の出口に着くと、治療してもらった三人は、何度も頭を下げてお礼を言いました。
二人の天使に出会っていなければ、通常なら病院か教会に運ばれ、完治するまで何日もかかるような大きな怪我だったのです。それ以前にフレディア達と出会わなければ、恐らく全員命を落としていた事でしょう。
「俺たちは砂漠の町カルカラッサから来た、チーム『スターバースト』だ!」
「カルカラッサに来ることがあれば、ぜひ声をかけてくれ!」
そう言うと、四人は自分たちの町へ帰って行きました。
「やったー!ジーノの村に到着!」
「さぁ、急いで村長さんの家へ!早く元の姿に戻してあげなくちゃ!!」
嬉しそうに飛び跳ねて、くるくる回っているフレディアを、カーナは急かしました。
「それでは、よろしくお願いしますぞ!」
村長は両手を合わせて、フレディアに牛になった妻の治療をお願いしました。
家の中では、ハンクの帰還を知った村人たちが大勢詰めかけ、固唾を飲んで結果を見守っています。
「よ~し!それじゃ、いっくよ~!!」
フレディアは妖精の杖に魔力を送り込みました。
すると杖にはめ込まれている宝玉が光だし、暖かい緑の光が牛になった奥さんを包みます。
キュイ~~~ン!
ほんの数秒で光は消えました。
そして、そこに現れたのは、元の姿に戻った村長さんの奥さんでした。
「ダーリン!!」
「オーー!マイ、ハニー!!」
二人は抱き合って喜んでいます。
「こりゃ、驚いた!!」
「す、すごい!」
「まぁ!あの小娘の言っていた事は、本当だったのね!」
大きな拍手が起こりました。
見ていた村人たちも、貴族風の夫人も驚いています。
ただ、ハンクとルナだけは、少し寂しげな目をしていました。
「いや、君たちには何とお礼を言ってよいのやら・・・」
「本当にありがとうございました。あなた方は、わたしの命の恩人です」
「ハンク。本当にどうもありがとう!」
村長と奥さんは、心からお礼を言いました。
そして二人はハンクにある提案を勧めます。
「ハンクよ、お前を疑って、本当に済まなかった」
「そうじゃ!ハンクよ、鉱山も閉鎖してしまった事だし、山を捨てて、こっちへ移ってこんか?」
「それは良い考えですわ!ハンク、是非そうなさっては?」
「ハンク、その娘さんと一緒に暮らすのなら、山で暮らすより、村に越してきた方が良いと思うがのぉ・・・」
村人たちもハンクに勧めましたが、ハンクの心は既に決まっていたのです。
「気持ちは嬉しいが、俺はこの村から出て行くつもりだ」
「「「えっ!!」」」
「そ、それでは、その娘さんと、どこか別の所で暮らすおつもり?!」
貴族風の夫人が、慌ててハンクに尋ねました。
「いや、ルナは自分の故郷へ帰す」
「・・・・・・・・」
ルナは下を向いたままでいます。
「ハンク、どうして?」
ルナが泣いていたのを知っているカーナが、心配そうに尋ねましたが、ハンクは無言のままでした。
「ハンクよ!何とか考え直してもらえぬか?このまま村を出て行かれたら、わしらの気持ちが・・・」
村長は、もう一度ハンクを説得します。
「そ、そうですわ!せっかくあなたへの誤解が解けたというのに。このまま去ったのでは、わたくしどもの気持ちがおさまりませんわ!」
「ぎょっ!?こりゃ、また、どういう風の吹き回しじゃ?あれほどハンクを嫌っておったくせに」
夫人の意外な言葉に、村人たちは驚いています。
「と、とにかく、そんなに急いで事を決めなくともよろしいではありませんか」
「今宵は村長婦人の快気を祝い、わたくしがパーティーを主催させていただきますわ!」
「その席には、村長婦人を救ったあなた方に、ぜひ出席していただかねば!!」
「おぉ!それは良いお考え!!」
貴族風の男も、夫人の提案を後押しします。
「それは、ありがたい!ハンクよ、その件は後でゆっくり話し合おうではないか」
村長も必死にハンクを説得します。
ハンクは頑なに断っていましたが、ついに村長の説得に根負けし、少しの時間だけならばと渋々承諾しました。
「天使のお二人も、よろしければ・・・」
「無理にとは申しませんが!」
夫人は一応フレディア達にも声をかけました。
「うわ~~~!やった~!パーティー!!」
フレディアは大喜びです。
「ありがとうございます」
「でも、せっかくですが、あたしたちは先を急ぎますので」
「そうですか、では、仕方ありませんね」
ガ~~~ン!!
「え~~~っ!そ、そんな~~っ!!」
フレディアは、パーティーを断ったカーナの顔を縋るような目で見つめますが、カーナの意思は固いようです。
「だって!はやくミントの町へ帰らなきゃ!!」
「はぁ~~~。がっかり・・・」




