第三十三話 妖精の里
妖精の里は、まさに桃源郷という言葉がふさわしい、とても美しいところでした。
青々と茂った木は、沢山の果実を実らせています。
さわやかな風に美しい花々が揺らぎ、小鳥はきれいな声でさえずり、いろんな色をした蝶がひらひらと花の周りを舞っています。よく見ると、小さな花の精や、木の精も風に乗ってゆらゆらと舞い踊っていました。
フレディアたちは、妖精の女王様に仕えるノームたちに連れられ、純白に光り輝く女王様の住む宮殿へ案内されました。
天使ではないハンクとルナは、別室に案内され、妖精たちのもてなしを受けています。
「妖精の里へようこそ。女王様はこの上におられます」
宮殿の衛兵たちに案内されて、玉座の間へ進みました。
そこには美しい緑色の髪に、深緑の宝石の様な瞳を持つ、美しい女王様が座っています。
「女王様、はじめまして」
「わたしは技術と創作の神にお仕えしている、フレディアと申します」
「女王様、はじめまして」
「あたしの名はカーナ。風の神セレノス様にお仕えしております」
緊張気味に挨拶をする二人を、女王様は満面の笑みで迎えてくれました。
「これは、ようこそ妖精の里へいらっしゃいました」
「わたくしは、妖精の森を治めるサーラです」
「この里に、お二人の天使が参られるとは、一体どういった御用でしょう?」
「はい。セレノス様のお使いで、妖精の杖をいただきに参りました」
カーナが答えました。
「まぁ!あなた方が妖精の杖を・・・ですか!?」
「えっ?わたしたちじゃ、ダメなのでしょうか?」
驚いた様子の女王様を見たフレディアが、不審に思い尋ねました。
「い、いえ、ダメではありませんが。しかし・・・」
「まさか、このようなかわいい女の子の天使を、お使いによこされるとは思ってもみなかったものですから・・・」
戸惑った様子で話す女王様に、警護をしていた赤い髪のノーム、バッカンが女王様に進言しました。
「女王様、きっと見かけによらずお強いのですよ!」
「でなければ、神様がおよこしになる訳がありません!」
(なに、それ? 嫌な予感しかしないんですけど・・・)
フレディアは、ネコのセレノス様の顔を思い出しています。
「そうですね!失礼しました」
「お二人が、あまりにもかわいい天使だったので・・・」
「お強い・・・って、いったい、どういう意味かしら?」
カーナはちょっと気になったのか、フレディアに聞きました。
(あ!カナちゃんって、やっぱりちょっとアレかも・・・)
「すごくヤバい所に杖があるのだと思う・・・」
フレディアの返事に、カーナはニコニコ顔で答えます。
「そんな!大丈夫ですよ。だって神様は・・・」
『ちょっと行って、取って来てくれ!!』
「そう言ったのですから!」
カーナはセレノス様の物まねをしてみせました。
(あ、やっぱり天然だわ、この子・・・)
「・・・・・・・・」
フレディアはジト目でカーナを見ています。
「!?」
「そ、そんな!ち、違うの?!」
さすがにカーナも、フレディアの態度を見て、自分の考えが間違っている事に気付きました。
そして慌てて女王様に尋ねます。
「あ、あの!よ、妖精の杖は、女王様がお持ちになっているのですよね?」
「それで、あたしたちに手渡していただけるのですよね?」
「えっ?妖精の杖をわたくしから受け取るとは、どういう事でしょう?」
「えっ!!ち、違うのですか?!」
「あたしたちはセレノス様から、杖は妖精の女王様に預けてあるから、ちょっと行ってもらってきてくれと言われたのですけど・・・」
「まぁ!何と言う事でしょう!?」
「妖精の杖は、確かに以前はわたくしの手元に置いていたのですが・・・」
「セレノス様が、堕天使バズエルを成敗なされた時に杖をお使いになり、その後に・・・」
妖精の女王様は、その時の様子を話してくれました。
-12年前-
「妖精の女王よ、世話になったの」
「お役にたてて、何よりです」
「しかし、力の杖のパワーを打ち消す事の出来る妖精の杖を、このまま無造作にここに置いておくというのものぉ・・・」
「はぁ、それはどういう事でしょう?」
「うむ。つまり、これ程の力を秘めた杖を、誰にでも簡単に手に触れる事が出来る場所に置いておくのは危険じゃと・・・」
「いつ、また今回の様な事件が起こるとも限らぬ。その時、この妖精の杖が何者かに奪われるような事があっては一大事じゃ!」
「それでは、この杖はセレノス様がお持ちになられては?」
「いや、いや。相反する力を持つ杖を、一緒に持つというのもチト具合が悪い」
「う~~~~む。どこか、簡単に手の出せぬ安全な保管場所はないものか・・・」
「と言う訳で・・・。妖精の杖は、セレノス様が誰も近づけない場所へ隠してしまわれたのです」
「だ、だれも近づけない場所って・・・」
「天使様たち、妖精の杖は『最果ての沼』にありますのじゃ」
愕然とするカーナに、バッカンが教えてくれました。
「さ、最果ての沼!?」
(その先の話は聞きたくないな・・・)
フレディは冷めた目でバッカンを見ています。
「それって、どういう所なのですか?」
カーナは恐る恐る尋ねました。
「この里の西に洞窟がありあます。その洞窟の先にある、とても大きな沼です」
「その沼の神殿に、妖精の杖はあります」
「だけど・・・」
「だけど、なんですか?」
カーナは両手を固く握りしめて、固唾を飲んで聞いています。
(わたし、その先聞きたくないからね!)
フレディアは、とうとうそっぽを向いてしまいました。
「その沼には、『ヨルムンガンド』と言う、恐ろしいヌシが住んでいるのです」
「お、恐ろしいヌシ?!」
「恐ろしいヌシって・・・?!」
カーナが急いで聞き返します。
「ヌシと出くわして、無事に帰って来た者はおりませんので、詳しい事は分りませんが・・・」
「身の丈10メートルは優に超える、恐ろしい蛇の様な魔物です」
バッカンの話を聞いたフレディアは、「はあ~」とため息をついています。
(そんな事だと思ったわ・・・。ほんと、やらかしてくれるわ、あのネコの神様!)
「・・・・・・・・」
カーナは口を大きく開けたまま、完全に固まってしまっています。
「それでも行かれるのですか?」
「ど、どうしょう、フレディア?!」
カーナはフレディアに相談しようとしましたが、別の声がそれを止めました。
「折角ここまで来たんだ。今更どうするもないだろう?」
「早く杖をいただいて帰ろうぜ!」
フレディアたちの話が長いので、待ちくたびれたハンクがここへ来ていました。
そのハンクの言葉に勇気づけられたカーナは、少しだけ元気が出たようです。
「そうよね!そのヌシだって、うまく行けば会わずに済むかもしれないし!」
「キャハハ!そだね~!」
(カナちゃん、これはもう絶対に会う流れになっているから・・・)
フレディアは心の中でつぶやきました。
「ル、ルナは怖くないの?」
「怖かったら、ここに残ってもいいのよ!」
「・・・・・・・・」
ルナは笑顔でカーナを見ています。
そのルナの笑顔を見て、カーナは決心しました。
「女王様、あたしたち行きます!どうしても妖精の杖が必要なので!!」
「そうですか。わかりました!セレノス様も、初めから無理な事を押し付けたりはしないはずです」
「あなた方なら、必ず成し遂げる事が出来ると信じておられるのでしょう」
「これは、勇気あるあなた達への、わたくしからのプレゼントです」
「これは『うたた寝の杖』といいます。そうぞ、旅のお役に立ててください」
フレディアは女王様から杖を受け取ると、元気よく挨拶をしました。
「キャハハ!じゃ、行ってきま~す!!」




