第三十二話 ジーノの廃坑
ジーノの廃坑は、道がいくつも枝分かれした複雑な迷路のようになっています。
しかも何十年にも亘って掘り続けて来たため、その規模も想像を超える広さでした。
ハンクを先頭に奥へと進みます。
そしてしばらく進むと、周囲に明かりが灯された少し広い場所に出ました。そこには数名の冒険者がたむろしています。
この場所から下の坑道へ渡る梯子が設置されているからです。
そしてここから下の坑道からは、魔物が湧いている領域となります。
「よお!ハンクじゃないか?」
「珍しいわね!ハンクがダンジョンに潜るなんて!」
「今日はなに?ギルドから討伐の依頼を受けたのかい?」
「ポポンさんに頼まれたんだな?近頃魔物が活性化して村の中まで来るからな・・・」
「いや、ちょっとした依頼を受けたのでな」
「あれ?そう言えば見ない顔の冒険者だね?」
「あぁ、ミントの町の冒険者だ」
ハンクに声を掛けた四人組は、同じジーノのギルド員たちのようです。胸にはCランクのバッチを付けていました。
「そっか!まぁハンクが一緒なら心配ないか!」
「じゃ、俺たち先に行くわ!」
そう言うと、梯子を下りて行きました。
その後、順番を待っていたよそ者の冒険者チームが声をかけて来ました。
「おっ!すげえなあんた!かわいい女の子をいっぱい連れてよ!」
「ハーレムかよ? 俺たちもパーティーに入れてくんない?」
「へっ、へっ、へっ・・・。女の子たちは俺たちが守ってやるよ」
よそから来たCランクの冒険者が茶々を入れてきましたが、その中にいた背の高い精悍な顔をしたBランクの冒険者が慌てて三人を怒鳴ります。
「ばか野郎!胸のバッチを見てからものを言え!!」
そう言うとハンクの前に進み、頭を下げました。
(このバカども!ここのギルドの連中から、Bランクのハンクという男は絶対に怒らせるなよって、さっき言われたばかりだろうが!)
「あんたBランク冒険者のハンクさんだろ?すまねえ、こいつらCランクになったばかりで調子に乗っているんだ」
「どうか気を悪くしないでくれ」
「気にするな」
「それより、ここの魔物は特殊だからな、気を付けて行くんだな」
「群れで来られると厄介な魔物が多いぞ」
「忠告をありがとう」
そう言うと、ニタニタと笑って女の子を見ている三人を急かし、梯子を下りて行きました。
「ここって、冒険者が多いのね?」
「しかも、よその町から来る冒険者もたくさんいるのね?」
フレディアとカーナがハンクに尋ねました。
「あぁ、ここの魔物は魔石や、ミスリル、蛍石などの貴重な鉱石を落とすからな」
「強い魔物が多いが、それなりに儲かるので危険を冒してでも来るのさ」
そう言うと、ハンクたちも梯子を使って下の階層へと降りて行きました。
ここで出現する魔物は、DランクとCランクの魔物が多いのですが、毒を持つ魔物が多く、しかも群れで襲ってくる事もあるので油断できません。
Dランクの大コウモリは、群れで襲ってくる厄介な魔物で、超音波を使って錯乱してきます。
精神力の弱い冒険者なら、パニックに陥る事もあります。
同じくDランクの大グモは単体で襲ってきますが、強力な毒を持っているので、この毒に侵されると、早く治療をしないと死に至る事があります。
毒を持つ魔物で厄介なのは、Cランクの大ムカデと巨大アリです。
大ムカデに刺されると、強烈な痛みで戦闘不能に陥ります。
巨大アリはCランクの昇格試験に使われた魔物で、固い装甲に剣が通らず、なかなか倒す事が出来ない魔物です。しかも噛まれると体が麻痺してしまい、戦闘不能に陥ります。
そういった魔物が次から次へと襲いかかって来ますが、フレディアたちは物ともせず、ハンクの記憶を頼りに、奥へ奥へと進みます。
道をふさぐ岩を爆弾で吹き飛ばしたり、落盤で通れなくなった所の復旧作業なども行い、そして坑道に潜ってから三日目に、ようやく抜け出る事が出来ました。
久しぶりに明るい陽を浴びて、フレディアは大きく背伸びをしました。
目の前に広がるのは、緑鮮やかな木々が、陽の光をいっぱいに浴びてキラキラと輝いている、美しい森でした。
その森の入り口には、小さな庵が、ポツンと立っていました。
中に入ると、赤いサンタ帽子をかぶった、真っ白い髭の小っちゃいおじちゃんがいます。
カーナより少し背が低いので、彼女は胸をそらして少し嬉しそうです。
訪問者に気付いた小さなおじちゃんは、いぶかしい顔をして尋ねました。
「うん!?なんじゃ、お前たちは?」
「あの~っ」
「むむっ!も、もしや、あなたは天使様では?」
「はい、技術と創作の神様にお仕えしているフレディアといいます」
「あたしは、風の神様にお仕えしているカーナといいます」
「おい、聞いたかルナ!天使だってよ!?」
「・・・・・・・・」
「俺はまた、冗談で言っていると思っていたよ!お前もそう思っていただろ?」
「・・・・・・・・」
「えっ!違うのか?」
「あの二人が天使だって事、最初から分かっていたのかい?」
「・・・・・・・・」
「そうか、すごいなお前・・・」
カーナの言葉を聞いた小さなおじちゃんは、大変驚いています。
「おぉ!風の神、セレノス様の!これは、これは、よくぞいらっしゃいました」
「わしは妖精の森の番人をしておる、ビットと申します」
「して、天使様が一体なんの御用で、わざわざこんなへんぴな所へおいでなされたのですかな?」
「あたしたち、セレノス様のお使いで、妖精の杖をいただきに来たのです」
カーナが答えました。
「おぉ!そうでしたか!!それは、それは・・・。大変な御用を仰せつかりましたな!」
「えっ!大変な用?」
「ま、まぁ、ここまで来るのは大変だったけど・・・」
フレディアがそう言うと、ビットは大声で笑い出しました。
「ここまで来るのが大変だった? はっ、はっ、はっ・・・ご冗談を!」
(ぎょっ!な、なに?このシチュエーションは!?)
(絶対に嫌な予感しかしないんですけど・・・)
「ところで天使様。妖精の森から妖精の里への行き方はご存じで?」
「はい、セレノス様から聞きました」
「えっと。妖精の里への行き方は、石碑に書いてあるとか・・・」
「おぉ、ご存じでしたか!それではどうぞこのカギをお使いください」
ビットはそう言うと、カーナにカギを渡しました。
「キャハハ! 早く妖精の杖をもらって、帰ろうね!」
フレディアたちは、小屋の裏から門のカギを開け、妖精の森へと入って行きました。
木々の間の道を進んで行くと、急に緑色の光に包まれ、そして光が収まると、目の前には美しい花々が咲き乱れる、夢の様な場所に変っていました。
様々な形をした木々と、色とりどりの花の咲く楽園の様な森を歩いていると、目の前にポツンと石碑が立っていました。
「あ~~~っ!あった、あった!!」
「え~~~っと、なんと書いてあるのかな・・・」
フレディアがのぞき込むと、石碑には『3』と刻まれていました。
「なんじゃ、こりゃ?」
しばらく森の中を歩いていると、また石碑が見つかりました。
「あれっ!?ここにも石碑が」
石碑には『2』と刻まれていました。
「な、なに、これ?意味わかんない!」
フレディアが首を傾げていると、カーナは草花を押し分けて石碑の裏に回り込み、覗いてみました。
「あっ!フレディア、こちら側にも文字が彫られてあるよ!」
裏側には『ときいろのはなの』と書刻まれていました。
フレディアたちは、先ほどの『3』と書かれた石碑に戻り、裏を確認すると、やはり文字が彫られていました。
こちらには『さきみだれしき』と刻まれています。
さらに森の中を探索すると、また石碑が立っています。
「もう!一体いくつ石碑があるのよ!!」
石碑には『4』と刻まれていました。
そして裏側には『のうらをゆけ』と彫られています。
「これでおしまいかな?」
フレディアが草花の中に埋もれている石碑を発見しました。
石碑には『1』と刻まれています。
裏側には『もりのしろ』と彫られていました。
カーナは石碑の1から4までの裏に書かれていた文字を、順番に並べてみました。
『森の白と黄色の花の咲き乱れし木の裏を行け』
それから森の中をもう一度隈なく探索し、ようやく目的の『妖精の里』へたどり着く事が出来ました。




