第二十八話 村民会議
「おほん!村長!奥様が牛になってしまわれ、気が動転しているのは分りますが、まずは、あのハンクを何とかするのが先決ですぞ!」
「そうですよ!何でもミントの村から来た男の言うには、ハンクがさらって来た女性は、12年前に行方不明になった王女様だとか・・・」
「もし、この事が王様に知られたら、王様の派遣した軍隊に村は潰されてしまいますよ!」
貴族風の二人が村長に文句を言っています。
「そう言うが、ハンクは女性をさらったのではないと言っておったぞ。勝手に住み着いたのだとか・・・」
「何をバカな事をおっしゃいますか!あんな恐ろしい野獣の所に、好んで来る女性がいる訳がありません!」
「ハンクが誘拐して来たに、違いありませんわ!!」
「しかし・・・。わしも、まさかハンクが誘拐などするとは思わんが」
「そうですよ、ハンクがボムじいさんに拾われ、この村に来てから10年以上経つのですよ。その間、ハンクは一度も村人に危害を加えた事はありませんもの」
老夫婦はハンクの事をかばいます。
「考えが甘いですな!それはボムじいさんの生きておった頃の話ですぞ」
「そうですわ!ハンクは人間ではなく、獣なのですよ」
「そりゃあ、ボムじいさんが生きていた時は、多少の恩義を感じていたでしょうが」
「うむ、夫人の言う通り!ボムじいさんの亡くなったいま、奴は本来の野獣に戻っておるはずです!!」
貴族風のふたりは、あくまで女性をさらって来たと言い張ります。
「う~~~む。では、いったいどうすれば良いのじゃ?」
村長は頭を抱えてしまいました。
「もちろん、ハンクの所から女性を救うのが第一ですぞ!」
「ええ、それから、ハンクにはこの村から出て行ってもらいますわ!」
「簡単に言うが、ハンクはここから出て行く気はないと言うておる」
村長が困った顔で言いました。
「そりゃ、そうだろ。もの心が付いた頃から、ボムじいさんに鉱山の仕事を叩き込まれて来たのじゃ」
「鉱山で働く以外に生きる術を知らぬ者に、ここから出て行けというのは無茶というものじゃ」
「そうですよ!ミスリルが取れていた頃は、ハンクはどれほどこの村に貢献したことか・・・」
それまで黙って話を聞いていた、素朴な感じの二人が反発しました。
しかし、貴族風の二人はさらに過激に反発します。
「今のこの村に大切なのは、ミスリルでもハンクでもありません」
「これは村の存亡に関わる一大事なのですよ!」
「ハンクが出て行かぬと言うのでしたら、力ずくでも追い出すしかありませんな」
「う~~~~む・・・」
「力ずくと申すが、では、いったい誰がハンクを村から追い出すのじゃ?」
村長は貴族風の二人に尋ねました。
「「そ、それは・・・」」
「ミントの町から来たあの屈強な二人の男たちが、アッという間に叩きのめされたのじゃぞ!」
「そ、それでは、村の男たち全員で・・・」
「バカを言うでない!そんな事をすれば、ハンクと一緒にいる娘さんにも怪我を負わせることになる!」
「そ、それはいけませんわ!そんな事になれば、賞金をいただくどころか、それこそ王様の怒りに・・・」
「なに!?いま、賞金がどうとか申されましたかな?」
「い、いえ、何でもございませんわ!こちらの独り言で・・・」
「おほほほほ・・・」
こんな感じで一向に話がまとまらず、いつまで経っても終わりそうになかったので、とうとう痺れを切らしたカーナが前に出て行きました。
「あの~~~っ。会議中、申し訳ありませんが・・・」
「おや?あなた方はいったい・・・」
村長は、ようやく二人に気付きました。
「あの、あたしたち神様から頼まれて・・・。そ、その・・・」
「妖精の森へ、杖をもらいに行く途中の天使です!」
「キャハハ!」
「「「「はぁ~~~~?天使~~~~?!」」」」
「なんと!では、ミントの町でも人間と動物が入れ替わる事件が発生しておるのか?」
「はい、そうです!」
「それで、君たちは人間を元の姿に戻す事の出来る『妖精の杖』を求めて旅をしていると言うのだね?」
「そうです!」
「だが、峠の吊り橋が壊れているので、鉱山の坑道を使って山を抜けたいと・・・」
「そうです!あたしたち、どうしても妖精の森へ行かなければならないのです」
村長と紳士風の男、それと素朴な感じの村人の質問に、カーナがハキハキと答えてゆきます。
フレディアはその横で、貴族風の婦人の事を、胡散臭そうに眺めています。
「それは、困りましたね。鉱山の坑道は、複雑な迷路のようになっているし・・・」
「それに落盤などで、道が塞がれている」
「坑道を通るには、爆弾を扱える鉱山の男でなければ無理じゃよ」
老夫婦が困った顔で言いました。
「だが、ボムじいさんが亡くなり、鉱山が閉山になった今。爆弾を扱う事の出来る者と言えば、ハンクしかおらぬ!」
「しかし、先ほど話していたように、あいつは普通の男ではないからな・・・」
村長は腕を組んで考え込んでいます。
「彼の話は、村の人たちから聞いています」
「一度会って、話をしてみてもいいですか?」
カーナが村長に尋ねました。
「危険を承知で行くと言うのかね?」
「はい!」
「村長!この子たちなら、ハンクも手荒いマネはせんと思うが・・・」
素朴な感じの村人が、そう村長に助言しました。
「それは、どうですかな?何しろハンクには狼の血が流れておるのですからな!」
貴族風の男の言葉を聞いた婦人は、肘で男を小突き、慌てて言いました。
「けど、他に手がないのなら、試してみる価値はございますわね」
「この子たちがハンクを鉱山に連れ出してくれれば、そのすきに捕らわれている女性を救出できますわ!」
婦人に睨まれた貴族風の男は、申し訳なさそうに夫人に謝っています。
村長は少し考えてから、返事をしました。
「よし!では、この子たちに任せてみるか!!」
「では、気を付けてな!あいつを怒らせたらダメだぞ!」
「絶対に無理はするなよ!危ないと思ったら、すぐに逃げ出すんだぞ!」
村長はそう言うと、二人を送り出しました。




