第二十二話 昇格試験(二)
「それでは始め!」
「・・・・・」
ギルドマスターの号令がかかっても、なかなか魔物が現れません。
不審に思ったギルドマスターが召喚士を見ると、ガタガタ震えながら、必死に呪文を唱えています。
「お、おい・・・。大丈夫なのか?」
ギルドマスターが心配そうに召喚士のおじさんを見ていますが、そうこうすると、リング上に黒い霧がモクモクと湧き出し、そして大きな渦へと変わって行きました。
その様子をいや~な顔で見つめるギルドマスターとは反対に、期待に胸を躍らせながら、冒険者たちは固唾を飲んで見守ります。
「ギャオ~~~ン!!」
渦の中から雄叫びを上げながら、Bランクのミニワイバーンが現れました。
ミニワイバーンは、体長は1メートルほどですが、とても凶暴な魔物で、強烈な火炎のブレスを吐くため、Bランクの中でも限りなくAランクに近いと言われる恐ろしい魔物です。
「ぐわっ!またかよ?!」
ギルドマスターは慌てて召喚士のおじさんを見ましたが、またしてもどえらい魔物を召喚してしまったおじさんは、白目をむいて気絶しています。
「受験者救出の緊急クエストを発令する!」
ギルドマスターの掛け声で、一部のCランク以上の冒険者は慌ただしく動きますが、こうなる事を期待していた観客は、席を立つどころか、手に汗を握って観ています。
リングの中央に立つカーナの上空をミニワイバーンはぐるぐる飛び回ると、いきなり猛烈な火炎のブレスを吹きかけました。
ゴ~~~~~~~ッ!!
「「「きや~~~~っ!!」」」
会場から女性冒険者たちの悲鳴が上がりました。
見ていた他の冒険者も、この恐ろしい攻撃に思わず後退りします。
ところがカーナを直撃した炎は、ぐるぐると渦を巻くと、一瞬でかき消えてしまいました。
炎が消えた後には、槍を手にしたカーナが、ニコニコ笑って立っています。
「「「 おお~~~~~~!!! 」」」
会場から驚きの声が上がりました。
カーナはミニワイバーンの炎を、風魔法の操作で自由自在に操る事が出来るのです。
怒ったミニワイバーンは、もう一度火炎のブレスを吐きますが、結果は同じです。
でも三度目はありません。
カーナは飛び回るミニワイバーンに風の魔法『突風』を放ち、上空から墜落させると、目にも止まらぬ速さで槍を繰り出したのです。
「グワ~~~~ッ・・・」
心臓を一突きされたミニワイバーンは、絶叫を残して息絶えました。
「「「うお~~~~~っ!!!」」」
会場はもう大騒ぎです。
「「「カーナ!」」」
「「「カーナ!」」」
「「「カーナ!」」」
興奮した冒険者たちの大合唱の中、カーナはリングを後にしました。
「カーナ、カッコいい~!」
「てへへ・・・」
フレディアが大喜びでカーナを迎えます。
ベゼルとクロマは、驚きのあまり完全に固まっています。
「次はフレディアの番ね!頑張れ、フレディア!!」
観客も次の出番がフレディアというので、もう最高に盛り上がっています。
が、残念ながらここで試験は終了になりました。
召喚士のおじさんが気絶しているのもありますが、もう結果は目に見えていると、ギルドマスターが判断したからです。
「静かにしろ!もう試験は終わりだ!!」
「カーナもフレディアも合格!!」
「合格者はわしの執務室まで来るように!」
「以上で解散!!」
会場ではブ~イングの嵐が起きましたが、ギルドマスターがそう言った以上、諦めるしかありません。観客はしぶしぶ帰って行きました。
ギルドマスターの執務室には、四人の合格者が集まっています。
Eランク合格者のヒマリン。
Dランク合格者のクロマ。
そしてCランク合格者のフレディアと、カーナです。
それぞれギルドマスターからバッチと証明書をもらい、簡単な説明を受けた後解散となりました。その際Eランク合格者のヒマリンは、フレディアとカーナに向かって・・・。
「わたし、お二人の大フアンです!」
「わたしがもっと強くなったらパーティーに誘ってね!」
そう言って出て行きました。フレディアは嬉しそうにクルクル回っています。
Cランクの二人は銅色のバッチから銀色のバッチに変り、ニコニコです。
その後ギルドの一階にある喫茶室で、ライトブリーズの会合を開きました。
「二人はCランクの冒険者になったので、旅に出るのでしょう?」
事前にフレディアたちからギルドに入った理由を聞いていたので、クロマが二人に尋ねました。
「うん、あたしたち大切な用事があるから・・・」
「そっか、なら仕方がないね!」
「せっかく仲間になれて残念だけど・・・」
カーナの返事に、クロマが寂しそうに言いました。
「いや、仕方がないよ!」
「俺、もっと頑張ってクロマを支えるから、気にしないで!」
ベゼルが元気よく答えます。
試験に落ちた事はショックでしたが、何だか少し吹っ切れたようです。
その言葉に、クロマはとても嬉しそうにベゼルを見つめています。
(あっ!やっぱりクロマはベゼルの事が好きなのね!)
(ベゼルもクロマの事、まんざらでもなさそうだし・・・)
(よし!決めたわ!!)
「それでフレディアたちは、いつ町を立つの?」
「それがね、その前にチームでちょっとやりたい事があるの!」
「えっ?チームでやる事って?」
首を傾げるベゼルとクロマに、フレディアはニャッと笑って言いました。
「Bランクの依頼を受けるの!」
「「え~~~っ」」




