表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/116

第二十一話 昇格試験(一)

チームで訓練や依頼をこなして10日ほど経ちました。

この頃にはベゼルとクロマも、フレディアたちとすっかり仲良くなって、二人にギルドに入った理由を話してくれるようになりました。


ベゼルの家は小さな農場を経営していて、そこでヤギや羊を飼って、裕福ではありませんが幸せに暮らしていました。

ところがある日、父親が重い病にかかり、()せってしまったのです。

治療のための高額な薬を買うため、飼っていたヤギや羊を手放しましたが、結局治療の甲斐もなく父親は亡くなってしまいました。

そして、それまで借りていた借金のかたに、農場を取られてしまったのです。


「それで農場を買い戻すために、ギルドに入ったのね?」


「ええ、そう!だから私たち頑張って強くなりたいの!」


フレディアに答えたのは、ベゼルではなくクロマでした。

ベゼルは性格がやさしすぎて、どうも荒っぽいギルドの仕事は向いていないようです。

剣の腕もあまり上達していないので、つい消極的になってしまいます。


「じゃあ!ギルドのランクをあげようか!」


「えっ!もう?」


「はい!私がんばります!!」


ベゼルの返事をかき消すように、クロマはフレディアの声に元気よく答えました。


チームライトブリーズは、最初の3日間はダンジョンで訓練し、後は討伐の依頼をガンガンこなし、ようやく昇格試験を受けられる100ポイントを貯めたのでした。



「じゃあ、ベゼルさんと、クロマさんはDランクの試験ね」


「そしてフレディアちゃんとカーナちゃんは、Cランクの試験ね!」


「それじゃあ、みんな頑張ってね!」


受付のフローラが、昇格試験の手続きの処理を済ますと、そう言ってみんなを送り出してくれました。



午後からの昇格試験には、今回9名の冒険者が申請しています。


Eランクの受験が2名。

Dランクの受験が4名。

Cランクの受験が3名です。

もちろんフレディアとカーナはCランクの試験です。


フレディアとカーナが試験を受けると言う事で、会場には溢れんばかりの冒険者が詰めかけ、今か今かと心待ちにしていました。



「よし!それでは今から昇格試験を始める」


ギルドマスターのパルコスが宣言すると、会場から大きな歓声が上がりました。


「まず、はじめはEランクを受けるポトス、前へ出ろ!」



ちょっと小太りの若い男が、こん棒を手に出てきました。

装備も貧弱で、どうやら実戦もあまり積んでいなさそうです。


前回のように聖職者が結界を張り、Cランクの剣士が二人スタンバイしています。

魔物を召喚するのは、前回散々な目にあった、フードを被ったおじさんです。

ギルドマスターから厳しく通達されているようで、会場の冒険者たちもおとなしく観戦しています。


「Eランクの魔物が出現するからな」


「3分以内に倒すように」


「それでは始め!」



ギルドマスターの合図でEランクの吸血コウモリが出現しました。


「とうりゃ~~っ!」


パタパタとジグザグに飛ぶコウモリに向かって、ポトスはこん棒を振り回しますが、全くかすりもしません。

そのうち足がもつれてずっこけてしまい、ここで試験を止められてしまいました。


「くそっ!ゴブリンだったら、一撃で仕留めてやるのに!」


悔しそうに負け惜しみを言いながら退出して行きました。



「次、Eランクを受けるヒマリン、前へ!」


現れたのは、細身のレイピアを持った女の子でした。



「それでは始め!」


ギルドマスターの合図でEランクでも上位の目玉コウモリが現れました。

目玉コウモリは、超音波で相手の平衡(へいこう)感覚をマヒさせる、特殊能力を使います。


ヒマリンは超音波攻撃を避けるためか、左右に飛び跳ねながら目玉コウモリに近づき、レイピアで目玉を一突きにしました。


「よし!合格!」


会場からは大きな拍手が送られます。



「次はDランクを受けるカメロンとダンクス、前へ出ろ!」


カメロンは男の僧侶で、ダンクスは(おの)をもったファイターの男です。

どちらもまだ20歳そこそこでしょうか。

僧侶や魔法使いは、詠唱にクールタイムが発生するので、こうして二人組で試験を受けるのが当たり前となっています。



「一人に対し、Dランクの魔物1匹か、またはEランクの魔物が2~3匹出るからな」


「それでは始め!」


ギルドマスターの合図でEランクの吸血コウモリ2匹と、Dランク最上位の暴れ猿が現れました。

カメロンは自分とダンクスにガードの呪文を発動し、魔物の攻撃をバリアで防いでいますが、ダンクスの攻撃が不規則に飛ぶ吸血コウモリになかなか当たらず、苦戦しています。

その間にカメロンが暴れ猿にボコボコに殴られ、魔法のバリアに亀裂が入ったため、試合は中止となりました。


「二人とも失格!」



「「ああ~~~~っ!」」


会場からは落胆の声が聞こえてきました。


「次、Dランクを受けるベゼルとクロマ、前へ!」


クロマは落ち着いた様子で身構えていますが、ベゼルの方は緊張のため、足が少し震えているようです。



「それでは始め!」


ギルドマスターの合図で、Eランクの目玉コウモリ2匹と吸血コウモリ、それとDランクのコボルトが現れました。


ベゼルは吸血コウモリに斬りかかり、仕留めると、襲って来たコボルトと戦闘になりました。

クロマは目玉コウモリ1匹をファイアで倒すと、すぐさまもう1匹の目玉コウモリに狙いを定めますが、すでにベゼルに襲い掛かっていたため、慌ててコボルトに切り替えました。


コボルトはファイアを受けて倒れましたが、それと同時に目玉コウモリの超音波で平衡感覚を失ったベゼルが戦闘不能になってしまい、ここで試験は中止となりました。


「それまで!」


「クロマは合格!」


「ベゼルは失格!」



「「う~~~ん、惜しいなあ~~~」」


会場からはベゼルの戦いを惜しむ声が聞こえてきます。


今回は少し運が悪かったようですね。

治癒魔法で回復してもらっているベゼルを、クロマが慰めていました。

応援していたフレディアとカーナも残念そうです。



「次、Cランクを受けるマイルス前へ!」


マイルスは20代半ばの青年で、細身のレイピアを手にした剣士です。自信満々に剣を構え、ギルマスの合図を待っています。


「それでは始め!」


ギルドマスターの合図でCランクの巨大アリが現れました。


マイルスは巨大アリに対して果敢に攻めますが、固い巨大アリの装甲に剣が通らず、なかなか倒す事が出来ません。

結局致命傷を与える事が出来ず、時間切れで失格となりました。



「「惜しい、あともう少しだったのに・・・」」


会場から惜しむ言葉が聞こえます。


「次、Cランクを受けるカーナ前へ!」



前回のEランクの試験では、フレディアのでたらめな強さで会場が大混乱となり、カーナは試験を受けずに不戦勝という形になりました。


今回は支部で受ける事の出来る最上位のCランクに挑戦です。

Cランクになれば、チームを組まなくても単独での行動が許可されるので、セレノス様から大切な仕事を頼まれているカーナは、とても気合が入っています。

そんなカーナとは対照的に、セレノス様の事などすっかり忘れ、今回の試験をお祭り感覚で楽しんでいるフレディアが、カーナに声援をおくります。


「カナちゃん!がんばれ~!」


「「「うお~~~~!!待ってました~~~!!」」」


フレディアが大声で声援をおくりますが、それよりも見ている冒険者たちの応援が半端ではありませんでした。


何しろ、適性検査で魔道具の水晶玉を破裂させた前代未聞の女の子ですし、とってもチャーミングな女の子ですから、それはもう、冒険者たちの期待は半端ありません。

前回のフレディアの様な事を期待しているのか、ものすごい声援です。


かわいそうなのは、これまで順調にランクに応じた魔物を召喚して来た、元Bランク冒険者のおじさんです。


この大声援に圧倒されたのと、前回の試験での失態を思い出したのか、緊張で体がガチガチになり、顔を真っ赤にして額からは大粒の汗を吹き出しています。


相当プレッシャーに弱いようで、このおじさん、かわいそうに今回もやらかしてしまいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ