第二十話 いざダンジョンへ!
「あぁ、そのBランクの依頼書な・・・」
「そいつはウードラスの森に住み着いたワーウルフの討伐依頼だよ」
「ワーウルフ自体はCランクだけどね、Dランクのブルーウルフを従えているのよ・・・」
「噂では十数頭もいるって話だわ」
「つまりさ、その金額でも割が合わないから、売れ残っているって訳なの」
「普通なら30人以上でやる仕事よ!」
マウロ、シラ、マルティーが教えてくれました。
「最初は無理して討伐依頼を受けるより、まずはチームで連係プレーを練習した方がいいんじゃないか?」
「君たちのチームは二人がずば抜けて強いので、下手をすると後の二人が置き去りになってしまいそうだし・・・」
マウロが心配してそう助言してくれました。
「そうね、チームは誰か一人でも突っ走ったら、全員が危険にさらされるしね」
シラもマウロの意見に賛同し、マルティーはうんうんと頷いています。
「そっか!分かった!!」
「そうね!ベゼルとクロマが怪我をしたら大変だものね」
フレディアとカーナも、マウロの意見をよく理解していました。
自分たち天使と人間とでは、力の差があまりにも違い過ぎるのに、つい自分目線で行動を取ってしまうからです。
「じゃぁ、最初は『クロークのダンジョン』で練習したら?」
「クロークのダンジョン?」
「ええ、あそこなら町のすぐ近くだし、EランクとDランクの魔物しか出ないわ」
「そうだな、あそこは初心者が練習するには丁度良いダンジョンだな」
シラが提案し、マウロも納得しています。
「分かった!」
「そこへ行ってみよっか?」
シラとマウロの推薦で、そこで練習する事に決まりました。
「フレディアさん、ちょっと聞いてもいいかしら?」
ダンジョンに向かう途中で、クロマが遠慮がちに話しかけてきました。
「フレディアさんとカーナさんって、いつも手ぶらなの?」
「はぃ?」
「いえ、武器を持っていないというか、使わないのかな~って思って・・・」
「普通、魔法使いなら、杖ぐらいは持つているんじゃ?」
「わたしはいつも弓矢を使っているよ!」
「ほら!」
そう言って、天使の弓矢を見せました。
「えっ?ゆ、弓矢ですか?」
クロマは目をパチパチしながら、フレディアを見ています。
(あっ、そっか!天使の弓矢は人には見えないんだった・・・)
フレディアは気づいて、恥ずかしそうに、もじもじしています。
「フレディア!弓矢を使うんなら、この際だから買っちゃえば?」
「あたしも槍が得意なので、買おうと思っているの!」
「あたしのレヴェニウス家はね、代々槍の名手を輩出している名門なのよ!」
カーナが胸を張って、自慢気に言いました。
「えっ!そうなんだ?」
これにはフレディアもビックリです。
(あっ、そういえば技術と創作の神様が、カナちゃん家は由緒正しき家柄だって、言ってたわね・・・。)
(でも由緒正しい・・・って、どういう意味?)
そう言う訳で、ダンジョンに行く前に、武器屋に寄る事にしました。
「いらっしゃい!」
「ありゃ?ここにいた馬は?」
「お嬢ちゃん、よく知っているね」
「あの馬は、商売の邪魔だから追い出したよ」
「あわわ・・・」
「いま親方がどこかに行ってしまってね、武器の注文は受けられないんだよ」
「いまある店の物の中から選んでくれな!」
そう言うと、店の奥に行ってしまいました。
予算は一人10ゴールドと言う事にし、フレディアは初心者用のクロスボウ。
カーナは槍先が鉄で出来ている普及品の槍を購入しました。
クロークのダンジョンは、町から1時間ほど歩いた所にありました。
山の斜面にポッカリ空いた洞窟で、入り口には沢山の冒険者が集まっています。
周囲にはポーションや毒消し草、食料などを売っている露店が立ち並び、さながらお祭りのようです。
「ちょっと、フレディア!そんな所に並んじゃダメでしょ!」
串焼き屋の前に並んでいるフレディアを、カーナが慌てて引き戻しています。
ダンジョンの中は思ったより広く、光りゴケの発する光で、目が慣れるとランタンの明かりは必要ありませんでした。
ベゼルとカーナを先頭に、次がクロマで、しんがりはフレディアが努めます。
15分ほど歩くと、Eランクの吸血コウモリ3匹と遭遇。
フレディアは、ベゼルとクロマに1匹ずつ倒すように指示を出しました。
カーナは二人のサポート役で、フレディアが弓矢で1匹を倒しています。
ベゼルはぶんぶん剣を振り回しますが、なかなか当たらず、苦戦しています。
クロマはファイアの呪文を発動させますが、焦っているのか詠唱に少し時間がかかってしまいました。その間に魔物に襲われないように、カーナが守っています。
何とか倒す事が出来ましたが、ベゼルは振り回した自分の剣で、足に傷を負ってしまったようです。
「フレディアさん!フレディアさん!ベゼルが怪我を!」
クロマが慌てて呼びますが、大した傷ではありません。
「大丈夫だよ!」
フレディアは『リカバー』の呪文を発動すると、傷は一瞬で消えてしまいました。
結局この日は10回ほど敵と戦闘し、陽が西に傾きかけた頃に町へ帰りました。
魔物の素材をギルドで換金すると10ゴールドになったので、ベゼルに5ゴールドを渡し、フレディアとカーナは冒険者用の一泊3ゴールドの宿屋へ帰って行きました。
ベッドで横になったフレディアは、二人の事を考えていました。
(やっぱりクロマって、ベゼルの事が好きだよね・・・)
(ハンナもベゼルの事が好きでしょ?)
(ありゃ!これって、オリビアの言っていた『魔の三角関係』ってヤッなんじゃ?!)
(あわわ・・・。この底の無い泥の沼にはまると、必ず凄惨な結果を生み出すという・・・)
(ど、ど、ど、どうしょう・・・)
(わたしは一体どうしたらいいの?)
(う~~~~~ん・・・・・)
(で、いったいベゼルは誰が好きなのよ~~!?)
コロコロと寝返りを打ちながら考えますが、良い答えは出てきません。
その夜、フレディアはなかなか寝付けませんでした。




