第二話 天使のフレディア
天界の片隅にある技術と創作の神様の家では、一人の天使が忙しそうに働いていました。
彼女の名前はフレディア。
金色の少しカールした美しい長い髪をなびかせ、髪の色と同じ色の大きな瞳をクリクリさせながら、毎日忙しく働くとってもかわいい健気な天使です。
人間の世界で言うと、10歳ぐらいの、まだ幼さない少女に見えます。
でも頭にはピカピカ光る天使のリングと、背中には立派な美しい純白の翼があります。
そしてお仕えする技術と創作の神様は、人間の年齢で言うと・・・。
頭もはげて、立派な白いひげを伸ばしているので、80歳を超えたおじいちゃんかな?
でも神様なので、本当の年齢は分かりません。
毎日、毎日、神様の身の回りのお世話ばかりで大変なのですが、こうして真面目に修行を積んでいると、やがて立派な女神になれると信じ、フレディアは頑張っています。
今もせっせと、お皿やお茶碗を洗っています。
ガシャン!
パリン!
時々、雑音が聞こえますが、それはたぶん気のせいでしょう。
「お~~い!技術と創作の神はおるかの~~」
フレディアが洗い物をしていると、玄関から大きな声がして、技術と創作の神様によく似たお爺さんが、ドタドタと入ってきました。
「あっ!これは恋を取り持つ神様、いらっしゃいませ!」
「おぉ、フレディア!相変わらず元気そうじゃのぉ!」
恋を取り持つ神様は、フレディアを見るとニカッと笑って声を掛けました。
「お、恋を取り持つ神ではないか。今日は何の用じゃ?」
椅子に座って新聞を読んでいた、技術と創作の神が声をかけました。
「おぉ、実はのぉ。わしの所で修行しておる天使のオリビアがのぉ・・・」
「えっ!オリビア? 恋をとりもつ神様。オリビアがどうかしたの?」
「うむ、実はのぉ~。昨日の『愛のキューピット』の仕事で、なんと!100人のカップルを誕生させたのじゃよ!」
「ほ~っ!100人とな?そりゃすごい!大したものじゃ!!」
「うひゃ、ひゃ、ひゃ・・。そうじゃろう、そうじゃろう!」
「それで褒美として休暇を与えてやったら、さっそく旅行へ出掛けおったわい」
「うわ~~~。いいな、オリビア~」
フレディアは、お茶碗を拭きながら、とても羨ましそうにしています。
「うむ、それでの・・・。わしの飯の支度をしてくれる者がおらんようになってしもうた・・・」
「と言う訳で、オリビアが帰ってくるまで、しばらくここで世話になるでの。フレディア!よろしく頼むぞ!」
フレディアは危うくお茶碗を落とすところでした。
「ところでフレディア!お前さんの方はどうじゃな?『愛のキューピット』の仕事は調子よく行っておるのか?」
「!!!」
普通見習いの天使は、お仕えする神様の特技や能力を学ぶ事が多いのですが、どうもフレディアはあまり手先が器用ではないようです。
先日もこのような事がありました・・・。
技術と創作の神様が、いつも頑張っているフレディアのために、少し楽をさせてあげようと、『全自動食器洗い機』を製作していた時です。
「よし!後は本体に、この動力源を打ち込むだけじゃわい!」
機械本体の真ん中に空いた小さな穴に、円筒形をした動力源をはめ込むようですが、釘を打つように、トンカチで打ち込まなければならないようです。
「よし、フレディア。わしがこの動力源を支えておるから、お前はトンカチで叩いてくれ」
「ラジャー!」
「せ~のぉ!」
「ちょ、ちょっと待った!!」
イヤな予感がしたのでしょう。トンカチを振り上げたフレディアを、神様は慌てて止めました。
「よいか、フレディア。このトンカチは少しの力で打つだけでよいのじゃ!」
「決してわしの手を叩かんようにな!気を付けてやるのじゃぞ!」
「ラジャー!」
「せ~のぉ!」
ボカッ!! ドテッ!!
「きゃ~~~!!神様~~~!!」
「あたたた・・・」
「な、なにをどうすれば、トンカチがわしの頭を直撃するのじゃ?!」
「わしが神でなかったら、とっくに死んでおったぞい!!」
「ご、ごめんなさい!!」
「よし、今度はわしがトンカチを振るから、お前は動力源を支えておるように」
「えっ!わ、わたしが支えるの?」
「そうじゃ、絶対に動かしてはならんぞ!」
「ラ、ラジャ~」
そう言いながら動力源を支えるフレディアですが、すでに腰が引けて、今にも逃げ出しそうになっています。大丈夫でしょうか?
「そりゃ!」
「きゃっ!」
ボカ~~~~~ン!!!
「どひゃ~っ!!」
振り下ろしたトンカチが本体に直撃し、『全自動食器洗い機』は木っ端微塵に壊れてしまいました。
トンカチを振り下ろした直後、フレディアが動力源を握ったまま逃げてしまったのです。
こんな事もあり、いまフレディアは技術と創作の神様の仕事ではなく、恋を取り持つ神さまの『愛のキューピット』の仕事を、時々手伝っているのでした。
「えっ!ち、調子・・・ですか?」
「は、は、は、はい!まあ、まあです!」
「キャハハ!」
「おぉ、そうか!それは良かった!!それでは、ちょっと成績表を見せてもらおうかの?」
「ええっ!? せ、成績表・・・ですか?愛のキューピットの?」
フレディアはお茶碗をフキフキしながら、なかなか見せようとしません。
その様子を見た技術と創作の神様は、フレディアを急かします。
「これフレディア!はよう成績を見せんか!」
急かされたフレディアは、お茶碗を置くと、しぶしぶ成績表を取り出しました。
「ど、ど、ど、どうぞ・・・」
「うむ、どれどれ・・・」
「え~っと・・・。全部で6人か・・・」
「で、何じゃこれは?」
「猫が5匹、羊が3匹、う、牛が2頭・・・」
恋を取り持つ神様は、成績表を見てちょっと考えていましたが、すぐに気を取り直してフレディアに言いました。
「う~~~む・・・。ま、まぁ、それぞれ得て、不得手というものがあるからのぉ・・・」
「それに『愛のキューピット』の成績だけが全てではない」
「頑張って修行を続けるのじゃぞ!」
「は~~~い!がんばって、お仕事に行ってきま~す!!」
そう言うと、フレディアは急いで家を飛び出して行きました。