第十九話 チームの名前
レストランでは、今日も元気にモモちゃんが働いていました。
「いらっしゃいませ~」
「・・・って、ベゼルじゃない!ハンナは今日お休みよ?」
「いや、今日はギルドの仲間と打ち合わせに来たんだよ」
「私たち、今日チームを結成したんです!」
クロマは強い仲間が出来たので、とても嬉しそうに胸を張って答えました。
「まぁ、良かったわね、クロマ!」
「これで薬草採取の仕事は卒業ね!」
「で、そのギルドの仲間って?」
モモちゃんがクロマの視線の先を見ると・・・。
メニューのサンプルを置いてあるケースに、ヤモリのようにピッタリとへばりつき、何を食べるか楽しそうに相談している二人の姿がありました。
「フレディア、よだれ、よだれ!」
「ズズズ・・・」
「えっ?あの子たちなの?」
(まぁ!ギルドの冒険者って、お子様でもなれるのかしら?)
(あっ!そうか、丁稚奉公ってやつね?)
(でも、これって結局は薬草採取の人数が増えただけ?)
モモちゃんは、クロマに悪い事を言ってしまったと、ちょっと反省しているようです。
「じゃ、ご注文は決まったかしら?」
「はい!モモちゃん、わたしはオムライス!」
「あたしも一緒!」
「まぁ!私の名前を知っているなんて!?嬉しいわ!」
「サービスでオムライス、てんこ盛りにしてあげる!!」
「後の二人はジュースね!」
「じゃぁ、ごゆっくり!!」
注文を取ったモモちゃんは、いそいそと厨房へ向かいました。
ベゼルは青い髪の男の子で、歳は17歳。
背は高いけど、体も細くてあまり強そうに見えません。性格もおとなしいみたいですね。
冒険者になってまだ日の浅い新米のEランクの剣士です。
クロマは栗色の美しい髪と、同じ色の瞳を持つ愛らしい女の子です。
歳はベゼルと同じ17歳で、幼馴染だそうですが、性格もしっかりしていて、なんだかベゼルのお姉さんのような印象を受けます。
ベゼルと一緒に冒険者になった新米のEランクの魔法使いです。
ちなみにこの二人は、まだギルドの討伐依頼を受けた経験がありません。
Ⅾランクの討伐依頼は受ける事が出来るのですが、四人以上のパーティーである事が必須です。ですが腕に自信のないベゼルは、なかなか自分からパーティーに参加しようとはしませんでした。
一度町の外れで薬草の採取をしている時、二匹のゴブリンと遭遇して戦闘になりましたが、上手く戦う事が出来ず、ほうほうの体で逃げ帰った経験があり、それが足かせになっているのでした。
それ以後、薬草や香草の採取依頼ばかりをやっているようです。
しかしこれでは、いくら頑張ってもポイントなど貯まらないし、依頼の報酬金額もスズメの涙ほどしかもらえません。
クロマは何とかしなければ・・・と焦っていた時に、フレディアたちと出会ったのでした。
「フレディアさん。私たちのチームの名前を決めてください!」
「えっ?チームの名前?」
クロマの言葉に、フレディアは一瞬何のことか分からず戸惑っています。
「フレディア、フローラさんの説明、ちゃんと聞いてた?」
「チームを組んだら、名前をギルドに登録するんでしょ?」
「キャハハ!そうでした!」
(あわわ・・・ぜんぜん、聞いてなかったわ・・・)
「カナちゃんが決めてよ!」
「あたしが?」
「う~~~ん・・・」
「!!!」
「チームセレノスなんて、どう?」
「え~~~~~~っ・・・・・」
(フレディアったら、そんな露骨に嫌な顔をしなくても・・・)
「じゃぁ、チームスクラップにする?」
「スクラップかぁ・・・」
(いいかも!でも神様今頃どうしているのかな?ごはんちゃんと食べているのかな?)
フレディアがその名前で決定しそうな雰囲気を察したクロマは、とっさに声を出してしまいました。
「えっ!ス、スクラップですか?」
(スクラップなんて、そんなポンコツな名前、ちょっと恥ずかしいな・・・)
(あっ!クロマが嫌がってる・・・)
空気を読んだフレディアは、話をクロマに振りました。
「クロマは何かいい名前ない?」
「えっ!わ、私ですか?」
「う~~~ん・・・」
「!!!」
「フレディアさんって、光の魔法を使うんでしたよね?」
「そだよ!」
「で、カーナさんは、風の魔法」
「そうよ!」
「じゃあ、光とそよ風で・・・」
「ライトブリーズ」
「チームライトブリーズってどうかしら?」
「あっ!カッコいい~!」
「ほんとね!すごくいい名前だわ!」
フレディアとカーナも納得しています。
「じゃあ、それに決定ね!」
フレディアの一言で、チームの名前は『ライトブリーズ』に決定しました。
レストランを出た四人はすぐにギルドに行き、チーム名を登録しました。
そして初仕事となる依頼書を確認しています。
「あっ!いいのがあった!!」
「どれ?」
フレディアが大きな声を出したので、カーナが見に来ました。
「ほら!このBランクの魔物退治!」
「2000ゴールドも、もらえるよ!」
「しかも100ポイント付くから、すぐに試験を受けられるよ!」
フレディアはベゼルがお金を必要としている事を知っているので、出来るだけ高額な依頼を引き受けようと思ったのですが・・・。
「それはダメよ、フレディア」
「えっ?なんで?」
「だってそれ、Bランクの仕事じゃない」
「1ランク上の仕事までしか受けられないから、私たちが受けられるのは、Dランクの仕事までよ」
「なんだ、そうなんだ・・・」
「フレディア、フローラさんの話、ちゃんと聞いてた?」
「キャハハ!そうでした!」
「もう、しっかりしてよね。フレディアはリーダーなんだから!」
いつの間にかフレディアがリーダーになっていますが、本人には全くその自覚がありません。
「いや、フレディアさん、仮に受ける事が出来ても、俺たちは絶対無理だよ!」
「私たち、まだ実戦で戦ったことがほとんど無いの・・・」
ベゼルとクロマが、恥ずかしそうに答えます。
「そっかぁ・・・じゃあ、どうしょう・・・」
「よお!チームを結成したんだってな!」
四人で思案していた所へ、ムーンライトのメンバーが話しかけてきました。
「で、チーム名は決まったのか?」
「チーム名はライトブリーズよ!」
マウロの質問に、カーナが答えました。
「おっ!いい名前を付けたじゃないか!!」
「ふふん!」
フレディアは自分が考えたみたいに、偉そうにしています。




