第十七話 ギルドの試験(実技試験)
ギルドマスターは、ギルド内にある戦闘訓練所まで二人を案内しました。
他の冒険者たちもぞろぞろと付いて行き、とうとう訓練所内は冒険者で溢れかえってしまいました。
広い訓練所の真ん中に、高さ1メートル。直径10メートルほどの大きな円形の台が設置されています。魔物と戦うためのリングですが、魔法によって周囲に結界が張られ、観客などに被害が出ない仕組みになっています。
「それではこれより実技審査に入る。どちらか一人、このリングまで来なさい」
「さっきはカナちゃんがやったから、今度はわたしが先でいい?」
「いいよ!フレディアがんばってね!!」
「ラジャー!」
フレディアがトコトコとリングの中に入ると、ギルドマスターはフードを被った男を呼び、、Eランクの魔物を召喚するよう命じました。
それと同時に、三人の聖職者が呪文を詠唱し、リングに結界を張ります。
ギルドマスターの横には、剣を持った二人のCランクの冒険者が、万が一の事故に備えて待機しています。
この様子を見ていた観客からは、声援と非難の声が殺到しました。
「おぃ、おぃ!あんな可憐な少女に何をやらせてんだよ!」
「子供に試験を受けさせるなんて、ギルドも落ちたものね!!」
「こら~!危ないから止めさせろ~!!」
「がんばれ~!かわいいお嬢ちゃん!!」
「かわいいは正義だぜ!正義は必ず勝つ!!」
「オレはいつでも美少女の味方だぜ!がんばれ~!!」
「合格したら、俺とデートしてくれ~!」
こんな声援と怒声が飛び交う騒然とした中でしたが、ギルドマスターが右手を上げると、それまで騒いでいた観客も一瞬で静まり、みんな固唾を飲んで行方を見守ります。
「始め!」
ギルドマスターの合図で、フードを被った男は、召喚魔法の詠唱を始めました。するとリング内に黒い煙が渦を巻き、中からEランクの魔物、『石猿』が現れました。
身体は小さいがとても好戦的で、石や物を投げつけて攻撃する厄介な魔物です。
「ぎゃ~~~っ!!」
ところがフレディアを見た石猿は、大きな叫び声をあげると、慌てて逃げ出しました。
しかし周りを結界で覆われているため、外には出られません。
悲鳴を上げながら、この世の終わりかのごとく、死に物狂いで結界の周りを駆け巡ります。
その様子を見たフレディアは、なんだか哀れに思えて、手を出せないままでいました。
あまりの展開に、観客もしばらくその様子を見守っていましたが、しばらくすると、ブ~ブ~とヤジを飛ばす者が出始めます。
「こら~!まじめに仕事しろやオッサン!」
「こんな魔物は引っ込めろ~!」
「こら~!召喚士のオッサン!もっとちゃんとした魔物を出さんか~!」
「引っ込めじじい~!」
もう散々な言われ方です。
さすがにこのままでは埒が明かないと思ったギルドマスターは、召喚士にやり直しを命じました。
召喚士のおじさんは、元Bランクの冒険者で、引退してここの職員として働いていたのですが、周りのヤジでさすがに頭に来たのか、呪文の詠唱につい力が入りました。
石猿が黒い煙の中に消え、今度は『暴れ猿』が飛び出てきました。
この魔物はDランクの最上位に指定された魔物で、体の大きさも人間の大人ぐらいありますし、とにかく名前の如く、とても凶暴な奴でした。
さすがに、これはまずいと思ったギルドマスターは、二人の冒険者に声をかけようとした時です。何と、フレディアを見た暴れ猿は、腰を抜かしてその場にへなへなと座り込み、失禁までしてしまったのです。そして頭を抱えてブルブルと震えています。
どちらの猿の魔物も、ある程度知能が高かったため、フレディアの発する天使のオーラにあてられたのでしょう。
「へっ、なんで?」
召喚士のおじさんは、もう訳がわかりません。
が、それを見た観客は、怒り全開のブ~イングの嵐です。
「あほ~!お前はもう引退しろ~!」
「ビビッて小便ちびる魔物なんか、初めてみたわ!!」
「魔物の代わりにお前が戦え!!」
もう、メチャクチャな言われようです。
さすがにこれだけ言われると、召喚士のおじさんもついにブチギレました。
暴れ猿を引っ込めると、今度は全力で呪文を唱え始めました。
黒い煙がモクモクと立ち込め、中から現れたのは『妖魔』です。
こいつはBランクの魔物で、ゴブリンの背中にトンボの羽が生えたような魔物ですが、相手の生気を吸い取る恐ろしい魔物です。
妖魔は空中に浮かびながら、緑色の醜悪な顔で辺りを見回し、狙う獲物を物色しているようです。前の二匹の魔物と違い、知恵がないのか、それとも恐れを知らないのか、目の前のフレディアに対して、まったく臆する気配がありません。
さすがにこれにはギルドマスターを始め、観客たちも大慌てです!
急いで引っ込めさせようと召喚士を見ると、限界を超えて魔力を使ったため、その場で気を失って倒れていました。
悲鳴が飛び交う中、ギルドマスターはこの会場内の冒険者たちに、フレディア救出の緊急クエストを発令させました。
その場にいた聖職者たち三人は、魔物が飛び出さないよう、慌てて結界の強化魔法の呪文を詠唱します。
ギルドマスターの横にいたCランクの冒険者も、二人だけでは危険なので、慌ててパーティーの編成を始めました。
でも、そんな騒がしい中でも、フレディアは相変わらずの平常運転です。
「それっ!」
掛け声と共に光の魔法『アーク』を発動させます。
キン!!
「ぎや~~~っ!」
妖魔は断末魔の叫びをあげ、息絶えました。
一瞬の出来事に、会場の観客たちは何が起こったのか理解できず、し~んと静まり返ってしまいました。
そんな中、フレディアとカーナの声だけが響きます。
「楽勝だったね!フレディア!」
「キャハハ!まあね!!」
(楽勝だと? 相手はBランクの魔物だぞ!そんな訳ないだろう?!)
ギルドマスターは、まるで悪夢を見ている様に茫然とフレディアたちを見ています。
でも二人の話しを聞いた会場は、一斉に歓喜の声に包まれました。
「すげ~!何なんだよ、これは!!」
「フレディアちゃん!オレと結婚してくれ~~!!」
「急げ!彼女を俺たちのチームに迎えるんだ!!」
「いや!彼女たちは俺たちのチームに入ってもらう!!」
「うるせえ!早い者勝ちだ!!」
冒険者たちは、口々にそう言いながら、フレディアの周りに殺到しました。
「こら~~~っ!!静まれお前たち!!」
その様子を見たギルドマスターが、大声で怒鳴りました。
「お前ら!そこを動くな!!」
そう命じると、フレディアとカーナを、急いでギルドマスターの執務室へ連れて行きました。
 




