第十四話 魔物との遭遇(一)
昼食を終えた一行は、ミントの町へ向けて出発しました。
先頭はリーダーで剣士のマウロと、目が良い槍使いのコローニ。
その後ろにフレディアとカーナが続き、その両脇を固めるように、左に魔法使いのシラ。右に僧侶のマイオス。そして後ろにアーチャーのマルティーです。
ベテランの冒険者らしく、魔物の襲撃に備えてみんな警戒を怠りません。
そんな中、フレディアとカーナは、ある問題に直面していました。
「困ったわフレディア・・・」
「どうしたの、カナちゃん?」
「今からだと、ミントの町に着くのは4日後よね?」
「うん!」
「それがね、おやつが後2日分しかないのよ・・・」
「え~~~っ!」
これは一大事です。フレディアは慌てての魔法のアイテムボックスを覗きますが、そこにはお菓子が少しだけしか残っていませんでした。
中身を確認したフレディアは、おやつを持っている人がいないか、期待を込めてムーンライトの面々を見つめますが・・・。
(いや、そんな目で見られても、おやつなんてねえよ・・・)
(そもそも遠足じゃねえんだから・・・)
と、槍使いのコローニの心の声が聞こえてきました。
どうやら、冒険者はおやつを携帯する習慣はあまりないようです。
フレディアはガッカリと肩を落としました。
関所を出てから2時間後、初めて魔物と遭遇しました。
魔物の数は全部で3匹。オークが1匹、ゴブリンが2匹の集団です。
リーダーのマウロが素早く指示を出しました。
「俺とコローニでオークを倒す!マイオス、俺たちに防御魔法を頼む!」
「シラは左のゴブリンを!」
「マルティーは右のゴブリンを頼む!」
その言葉が終わる前に、シラとマイオスはすぐさま魔法の詠唱を始めます。
マルティーは弓矢を引き絞り、前衛の二人は突撃のタイミングを計ります。
「よし、いくぞ!!」
勝負はすぐに決まりました。
さすがはCランクの冒険者です。それぞれが役目をきっちりと果たし、無事に敵を倒す事が出来ました。
リーダーのマウロが、フレディアとカーナが怯えてはいないかと、心配して後ろを振り返り、声をかけました。
「やぁ、ビックリしただろう?もう大丈夫だから・・・・」
そこまで言うと、何故か急に固まってしまいました。
フレディアとカーナはというと、目の前にお菓子をいっぱい並べて、2日分しかないお菓子を何とか3日間持たそうと、一生懸命仕分けをしている最中だったのです。
さすがのCランクの冒険者たちも、みんなあんぐりと口を開けて、ただ見ているだけでした。
「よ、よし!」
「魔物を回収して、先へ行こうか」
気を取り直したマウロが、フレディアたちがお菓子を片付けるのを待って、号令をかけました。
旅を続けて3日が経ちました。
ここまでは魔物との戦闘も順調で、旅は問題なく進んでいます。
おやつの切れたフレディアが、とても退屈そうにしている以外は・・・。
「カナちゃん、ミントの町はまだかな?」
「後一日だよ!がんばって、フレディア!」
そんな会話をしている時でした。
魔物の群れが突如姿を現しました。窪地に潜伏していたため、気づくのが遅れたのです。
「コローニ!敵の数は?!」
「やばいぜリーダー!全部で9匹もいやがる!」
「オークが4匹!上空にホーネットが5匹だ!」
「うそだろ!?オーク4匹でもやばいのに、ホーネットが5匹も?!」
これだけの数の魔物が群れを作っているのは、異例の事でした。Cランクの冒険者パーティーでも、全滅する事が十分に考えられる非常事態です。
(これは、負傷者ゼロは無理だな。下手をすると二人のお嬢ちゃんが・・・)
(いや、護衛を請け負った以上、何が何でもあの二人だけは!)
マウロが戸惑ったのは一瞬でした、すぐさま仲間に的確な指示を出します。
ホーネットは大きなハチの魔物で、動きが素早く毒を持つ厄介な魔物ですが、一撃を受けてもすぐに死に至る事はありません。体が麻痺して動けなくなるまでには少し時間があります。
しかしオークの攻撃をまともに受けた場合、致命傷になる恐れがあったので、そちらを優先する事にしました。
「全員防御態勢を取れ!下手に動くと全滅するぞ!!」
「マイオス、全体に防御魔法をかけろ!急げ!!」
「シラ!ホーネットに狙いを定めて火を放て!攪乱させるのが狙いだ!!」
「その間にマルティーとコローニと俺は、オークを殺るぞ!!」
「フレディアとカーナは地面に伏せて・・・」
マウロがそこまで指示を出した時でした。
「じゃぁ、あたしが先にやるね!」
カーナはそう言うと、風の魔法『突風』を発動しました。
ビュン!!
パ~~~ン!!!
乾いた音と同時に、一瞬でホーネット5匹がバラバラに砕け散って地に落ち、オークの一匹が体中から血を吹き出して倒れました。
「あ~っ、ちょっと残っちゃった・・・」
「フレディア、後はお願いね!」
「ラジャー!」
そう言うと、フレディアはすぐに光の魔法『アーク』を発動させます。
キン!!
瞬殺でした。
オークは、自分の身に何が起こったのかも分からないまま死んでいます。
いえ、死んだオークだけでなく、ムーンライトの面々も、何が起こったのかまったく理解できず、その場で死んだように固まってしまいました。




