第十二話 セレノス様の頼み事
ネコのセレノス様と会えたのは、フレディアがヨタヨタと木に持たれかかった時でした。
「おっ!お前たちどこに行っておったのじゃ?」
「ど、どこにって・・・。よく言うわ・・・」
「ところでフレディア!カーナを使いにやったのは他でもない」
「実はのう・・・」
「あ、そうだ!スクラップ様からセレノス様へ伝言があったんだ!」
「なに!わしへの伝言とな?」
「あの、神様・・・」
「どうでもいいけど、その姿何とかならないの?」
「あ!い、いや、気にせず続けてもよいぞ。うひゃ、ひゃ、ひゃ・・・」
「セレノス様は、バズエルってご存じでしょ?」
「なに!バスエル!?堕天使バズエルのことか?」
「うん!そのバスエルが、天界の監獄から逃げだしたんだって!!」
「な、な、な、なんだと!!バズエルが天界の監獄から逃げ出した!?」
「そう!だから、ひょっとしたら力の杖を狙っているかも知れないので、気を付けるように・・・だって!」
「キャハハ!!」
「そ、それは一体いつの話じゃ!?」
「えっとね、わたしがセレノス様と会った日だから・・・。十日前かな」
「と、十日前・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「取られちゃったみたい・・・」
「えっ?取られたって・・・何を?」
「力の杖・・・」
「誰に取られたの?」
「バズエルに・・・」
「「うそ~~~っ!!」」
フレディアとカーナが同時に叫びました。
そしてカーナは慌ててセレノス様に尋ねます。
「セレノス様!じゃあ、この町の騒動は・・・」
「うむ、バズエルの仕業と見て間違いないじゃろう!」
「力の杖をここまで使いこなせるのは、ヤツ以外に考えられん!!」
「なにも、そんな自信たっぷりに言わなくても・・・」
「うひゃ、ひゃ、ひゃ!カーナよ、そんなにしょげる事はないぞ!」
「もしもの時のために、ちゃ~んと手は打ってある!」
「えっ!本当ですか、セレノス様!!」
「うむ!力の杖で変えられた姿を、元の姿に戻す方法がある」
「元に戻す方法?」
「そうじゃ!力の杖の魔力を打ち消す事の出来る、『妖精の杖』というモノがあるのじゃよ!」
「「妖精の杖!?」」
「そうじゃ!その杖を使い、わしの姿を元に戻せば、バズエルごときは恐れるに足らぬわ!!」
(足らぬわって・・・。その姿で偉そうに言われてもなぁ・・・)
フレディアは空を見上げてため息をつきましたが、カーナはセレノス様の弟子なので、嬉しそうにセレノス様に言いました。
「さすが、セレノス様!じゃ、早くその杖で元の姿に戻ってください!!」
「うむ!では、そうするから、お前たちちょっと行って妖精の杖を取って来てくれ!」
「えっ!?取って来てくれ・・・って、ここには無いのですか?」
「ないよ!」
「・・・・・・・・・・」
茫然自失のカーナを見て、フレディアは頭を抱えています。
「妖精の杖はの、この町の遥か東・・・。妖精の森という所にある」
「は、はるか東・・・」
フレディアは、遠い目をして東の方を見ました。
「な~~~に、お前たちならすぐに行けるわい!」
「で、その森に妖精たちの住む里があるから、そこへ行って杖をもらって来てくれ」
「妖精の杖はの、わしがもしもの時のため、妖精の女王に預けておったのじゃ!!」
「森の中から里へ行く方法は、石碑に書かれているからの」
「では、行ってまいれ!」
「行ってまいれ・・・って・・・」
「なんかな~。ネコに偉そうに命令されてもな~」
「バカもん!!わしも好き好んでネコの姿をしているのではないぞ!!これもすべてあのずる賢いバズエルの策略にはまってだな・・・」
セレノス様がフレディアに言い聞かせていると、横を通りかかった娘さんがセレノス様に気付き、声を掛けました。
「あら?かわいいネコちゃん!」
「にゃお~~~ん」
「あっ!こら~~~っ!!ついて行くんじゃない!!」
娘の後ろに付いて行こうとするセレノス様を、フレディアが慌てて捕まえました。
「と、とにかく。わしの姿を元に戻すのが先決じゃ!!」
「よいかの。妖精の杖は妖精の森じゃ!」
「はい、はい!はるか東にある、妖精の森の、そのまた先の妖精の里へ行けばいいのね・・・」
「そうじゃ、そうじゃ!!まずは、ジーノの村へ行くがよい!」
「ジーノの村って、この町の東にある鉱山の村ですね?」
何とか立ち直ったカーナが、セレノス様に尋ねました。
「うむ。そこから森へ行く道が通じておるでの」
「では、チョコッと行って取って来てくれ!」
「あ!旅の費用は自分たちで工面するように!それでは頼んだぞ!!」
「あい、あい~~」
この時、木の影からフレディアたちの事をジッと見ていた、とても色っぽいお姉さんと、ガラの悪そうな男たちがいましたが、その事には誰も気づきませんでした。




