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第百十四話 行方不明の王女様(四)

「ハンクよ・・・。長いこと世話をかけたな・・・」


「何を言っているんだ、じいちゃん!俺がじいちゃんの世話をするのは当たりまえじゃないか!」


「すまない、ハンク。わしがこんな体になったばっかりに、鉱山までダメになってしまった・・・」


「な、何だよ、じいちゃんらしくない!そんな気弱な事言わないで、早く元気になってくれよ、じいちゃん!」


「じいちゃんが元気になれば、また鉱山からミスリルが取れるようになるさ!」


「二人で頑張って、鉱脈を見つけるって約束しただろ?」



「ハンク・・・。わしはもうダメじゃ・・・」


「そんな事ない!きっと、また山へ行けるようになるよ!!」


「ハンクよ、もう時間がない。今から言うわしの話をよく聞くのじゃ・・・」


「じいちゃん・・・」


「ハンク、わしが死んだらここを捨てて山を下りろ」


「な、なんだって!?そんなの出来ないよ!」


「ここは、俺の育ったところ。物心ついた頃から鉱山で働いていた俺に、山を下りて何が出来るって言うんだい?」


「旅に出るのじゃよ、ハンク」


「なんだって!旅に出るって?」


「ハンクよ、そこの戸棚の引き出しから箱を取って来てくれぬか」


ハンクはボムじいさんの言う通り、戸棚の引き出しから小さな箱を取り出しました。


「これだろ、じいちゃん」


「そうじゃ。ハンク、箱を空けて中を見なさい」


ハンクは箱の中からスカーフとネックレスを取り出しました。


「これは?」


「それは山でお前を拾った時、お前が身に着けていた物じゃよ」


「お前の身を証明する大事な物だから、大切にしまっておいたのじゃ」


「俺の身を証明するもの?」


「ハンク、旅に出るのじゃ。そして、一体自分が何者なのか探すのじゃ・・・」


「自分を探す旅・・・」


「ごほっ、ごほっ!」


「じいちゃん、大丈夫か!」


「・・・・・・・・」


「じいちゃん!!」



「ありがとう、ハンク・・・。わしは、お前と出会えて本当に幸せじゃった・・・」


「じいちゃん!!」


「ありがとう・・・」


「じいちゃん!!」

「返事をしてくれ!!じいちゃん!!」


「・・・・・・・・」





ボムじいさんはハンクに山を捨てろと言いましたが、ハンクはボムじいさんとの思い出の詰まったこの場所から離れる事が出来ませんでした。


何もやる気が起こらず、ただ毎日ぼんやりと空を眺めて過ごしていました。

そんな生活がひと月ほど続いたある日のことです、傷ついた一羽の白鳥が、ハンクの家の前の小さな池に降り立ちました。


「おやっ、あれは?」


「白鳥?金色の翼の白鳥か?!」


物珍しさに、ハンクは家を出て池の白鳥に近づきました。

そしてその白鳥が大けがをしている事に気付いたのです。


「こ、これは!何てことだ!矢が刺さっているじゃないか!」


「ひどい事をする奴がいるものだ!」


「待っていろ、今すぐ助けてやるからな!」





スカーフを受け取った時の思い出を語ったハンクは、王様と王妃様に向かって言いました。


「スカーフは、その白鳥の治療をするのに使ったんだ」


「薬草で傷口をふさぐのにね」


このハンクの話を聞いたフレディアは、すぐにピンときました。


(それって、あの白鳥だわ!ミントの町でドッヂ達がねらった!)



「それからしばらくの間看病を続けたのだが、いつの間にか白鳥はどこかへ行ってしまったよ」


「きっと元気になって飛び立ったのだろう・・・」



話が終わると、フレディアはすぐにハンクに尋ねました。


「その後にルナと知り合ったのね?」


「あぁ、そうだよ。フレディアやカーナと知り合う少し前だ」


それだったら・・・と、カーナがフレディアに聞きました。


「という事は、白鳥の落としたスカーフを、たまたまルナが拾ったんじゃ?」


「ねえ、フレディア?」


だけど今のフレディアには、カーナの声は届いていません。


(わかった!ルナは白鳥なんだわ!!)


(どこかへ行ったんじゃなく、バズエルに人間の姿にされたのよ!)


(ジーノの村長婦人が動物に変えられた時、ルナもおそらくその場所に・・・)


(きっとそうよ!だからルナは言葉がしゃべれないんだわ!)



「ちょっと、聞いているの?フレディア!」


「!!!」


「キャハハ!聞いてる、聞いてる!」

「わたしもカナちゃんの意見に賛成!!」


「でしょ!!」


フレディアの同意を得たカーナは、片目をつむってウインクしながら、親指を立てて喜んでいます。



ハンクの話を聞いた王様は、震える声で言いました。


「ハ、ハンク殿。ボムじいさんから受け取ったネックレス、わしに見せてはいただけぬか?」


「これがそうです」


ハンクはいつも肌身離さず持っていたネックレスを、王様に渡しました。


「まぁ!!」


「こ、これは真紅のダイヤ!!マーガレットに渡した王家の石じゃ!!」


王様は大声で叫びました。


セレノス様は、慌てて王様と王妃様に確認します。


「では、彼が行方不明になったマーガレット王女・・・いや、王子なのじゃな?」


「間違いありません!ハンクさんは、わたくしたちの息子です!!」


王妃様がはっきりと答えました。


「な、なんだって!こ、この俺が!!?」


ハンクが驚きの声を上げたのと同時に、フレディアも慌てて言いました。


「ちょ、ちょっと待って!」


「どうしたのじゃフレディア?」


セレノス様が慌てるフレディアに尋ねました。


「わたし達、前に妖精の杖をハンクに使った事があるんです!」


「そうなんです!妖精の里で杖を使ったのですが、ハンクの姿はそのままでした!」


カーナもフレディアの言葉に追従します。


その話を聞いたセレノス様は、大きく頷きました。


「それはそうじゃろう!妖精の杖の力は、しょせん力の杖に及ぶものではない!」


「格が違うのじゃ!だから、長い間変身したままの姿だと、妖精の杖の力では元に戻せなくなってしまうのじゃよ」


「へ~~~っ。そうなんだ・・・」


感心するフレディアに、セレノス様が言いました。


「よいかフレディア、カーナ!よく見ておるのじゃぞ!!」


「それっ!」


セレノス様が杖を振るうと、ハンクの姿が光に包まれました。

そして光が消えた後に立っていたのは、赤い髪に茶色い瞳を持つ、端正な顔立ちの青年でした。


「おぉ!これは!!」


「まぁ!やはり、あなたはマーガレット!!」


王様と王妃様は生まれ変わったハンクの姿を見て、喜びの声を上げました。


周りにいた人々も大変な事になったと、大声で騒いでいます。

腰を抜かした夫人と二人の輩は、真実を知って恐れおののいています。


「「「ひ~~~っ!不敬罪で処刑される~~~!」」」



そんな大騒ぎの中、一人カレンだけは浮かない顔でつぶやきました。


「これは一体どうなってんの?」


「あの魔獣みたいにカッコよかったハンクが、ただの男になっちゃうなんて!」


「なんか、ショックだわ・・・」


それを横で聞いていたカーナは、呆れて言いました。


「いや、カレン!その言い方はおかしいでしょ?!」


「ハンクは魔獣じゃないんだから!」


不満そうな顔で言うカレンに、即座にカーナが突っ込みを入れました。




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