第一話 天空の神殿
シリーズに設定していますが、前作を読まなくても大丈夫なので、よろしくお願いします。
はるか上空の雲の上に、美しい神殿がたくさん立ち並んでいます。
ここは神様たちの住む天空の神殿です。
そして、その中心には、ひときわ大きく美しい神殿が建っていました。
ここは神々を束ねる大神ダレス様の神殿なのです。
大神ダレス様は、見た目は人間の年齢で言うと40歳前後に見えるでしょうか?
銀色の髪に、すべてを見通す金色の瞳。
口には威厳のあるひげを蓄え、その2メートルを超える巨体は、まさに威風堂々とした王者の風格を備えています。
その大神ダレス様が、いま玉座の前で巨体をかがめ、丁寧な土下座をしていました。
「ち、違うのじゃよ!そ、それは何かの間違いなのじゃ!!」
片手をあげて、そう説明しているダレス様の前には、一人の美しい女性が立っていました。
彼女の名前はレトナ。
大神ダレスの后である女神です。
さらりと長い金色の美しい髪と、エメラルドの様な緑の瞳を持つ美女なのですが、何故かとても冷たい目をしています。
「嘘をつきなさい!忍ばせていた手の者から報告を受けています!」
「人間の娘にあきたらず、今度は妖精の娘に手を付けたそうではありませんか!」
「い、いや、誤解じゃ!ただ、話をしただけで、まだ何もしてはおらん!!」
「まだ、何も?」
「では、やはり手を付けるつもりだったのですね!!」
「い、いや、違う!わしはそんな事は・・・」
大汗をかきながら、懸命に言い訳をする大神ダレス様でしたが、この神は過去にも何度か過ちを犯しているため、女神レトナには全く信じてもらえません。
それでも、必死に言い訳をするのは、過去に起きた大惨事が原因でした。
200年ほど昔。大神ダレスは、気まぐれに降りた地上で、目の覚めるような美しい人間の娘を見つけ、一目で惚れてしまったのです。
そして人間に姿を変えたダレスは、その娘を口説き落としてしまったのでした。
その事を知った女神レトナは嫉妬に怒り狂い、天使たちに娘の殺害を命じただけでなく、大地の女神に命じ、作物が実らないよう呪いをかけさせたのでした。
作物が育たなくなった地上では、飢えに苦しむ人々があふれ、暴動や略奪が横行。
また疫病なども蔓延し、まさに地上は地獄の様となってしまったのでした。
この様子に頭を痛めた神々は、何とか女神レトナの怒りを鎮めようと、ある戒めを作ったのです。それは、『神は人間には絶対に手を出してはならない』という戒律でした。
もし破れば、天界から追放されるという厳しい掟です。
こうした神々の苦心と取り成しで、ようやくこの一件が落ち着いたものですから、大神ダレスも必死になるのは無理もありません。
大神ダレスの必死の説明で、手を付けていないと言うことは、何とか分ってもらえたようですが、それで女神レトナは納得した訳ではありません。
「よろしいでしょう!」
(あぁ、よかった!わし今回は本当に、まだ手を付けておらんのじゃもん・・・)
安心して、ホッとため息をついた時でした。
「ですが、その妖精の娘には罰を受けさせます!」
(え~っ!なんで? わし、まだ、なんにもしておらんのに・・・)
「いや、それはあまりにも理不尽じゃ!悪いのはわしで、あの娘には何も罪は・・・」
その時でした、天界の番人が慌てて駆け込んで来ると、急いで大神ダレスに注進します。
「ダレス様、大変です!!」
「堕天使バズエルが監獄から逃げ出しました!!」
「なんだと!それはまことか!!?」
「はっ!昨夜の見回りでは異常なかったそうですが・・・」
「それはまずい!すぐに対策会議を開かねば!!」
后の突き刺さるような冷たい視線から逃れるため、これ幸いとばかり大神ダレスはすぐさま監獄へ向かおうとしました。
その大神ダレスの背に、女神レトナの冷ややかな声が刺さります。
「たった今、妖精の娘は姿を変えて、地上へ降ろしました」
「!!!」
(あぁ、何と言う事だ・・・。わしが下心を出したばっかりに・・・)
(許せ!妖精の娘よ。いずれほとぼりが冷めたら、必ず見つけ出して元の姿に戻してやるからな・・・)
大神ダレスは、そう心の中でつぶやきながら、足早に去って行きました。