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8.二日目

8.


 宮田は普段通りに出勤した。

 昨日とは違い、ちゃんとスーツに着替えて、駅に向かった。神谷は宮田が会社に入っていくのを見届けると、再び宮田のマンションの前に戻った。


 今日は宮田の部屋を調べるつもりだった。普段ならそこまではしなかっただろう。ターゲットをどこで、いかに始末するかだけを考えればいい。しかし、今回の依頼には何かある。神谷はそう直感していた。


 宮田について少し自分で探ってみたくなった。

 宮田のマンションはオートロックだったが、番号の調べはついていた。神谷は四桁の番号の入力して、エレベータで部屋の階まで上がった。

 

 廊下には誰もいない。神谷は宮田の部屋の前まで移動して、二本の細い鉄の鉤を取り出した。それを鍵穴に差込んで動かす。何度か動かしていると鉄鉤の先があるポイントを捕らえた。そこを押しながらゆっくり回す。

 

 カチリと音がなった。神谷はゆっくりノブを回し、ドアを開いた。

 部屋は独身男性の独特の匂いがある。神谷は玄関で靴を脱いで上がった。


 部屋は思ったより綺麗に片づいていた。ソファの前にガラスのテーブル、そしてテレビ。テレビゲームが置かれていた。キッチンにはコンビニのお総菜のタッパがゴミ袋に突っ込まれている。

 

 電話機は無かった。携帯ですましているのだろう。パソコンもタブレットも無い。いまどき珍しいタイプの人間だ。シンプルなものだった。シンプルすぎるといってもいい。


 神谷は何か無いかと探したが、これといって見つからなかった。昨日、ファミレスで宮田が男から受けとったもでもが分かればと思ったのだが、それも見あたらない。

 

 昨日、宮田が口にしたものは錠剤のようなものだった。非合法のものだと、そうそう持ち歩くことはないと思ったが、あてははずれたようだ。

 

 その時、神谷の内ポケットで震動を感じた。携帯がなっていた。

 神谷はディスプレイに表示されたナンバーを見た。知らない番号だった。通話ボタンを押す。相手が話すまで黙っていた。


「……もしもし」


 通話口から声が流れてきた。知っている声だった。


「冥加です」


 マンションの前であった初老の男だ。

 今まで依頼の期限中に、向こうから連絡をしてくることはなかった。それにどうやって調べたのか知らないが、教えてもいない携帯にかかってきたのだ。

 

 神谷はひとこと嫌みを言いたくなった。


「あんた冥加って名前なのか。また、因果な名をつけたものだね」


 初老の男がひっそり笑ったのが、見えなくても分かった。神谷は舌打ちをした。


「で、用はなんだ?」

「もう一つ依頼したいことが出来ましてね」

「一度には無理だ。今の仕事を片づけてからにして欲しい」

「それが今の仕事に付随して、と申しますか。宮田が接触する人物に妙な動きがあった場合、同じように始末をしてもらいたいのです。もしそのような人物が無ければ、それで構わないので」

 

 舌打ちをした。携帯で仕事の話をしている。盗聴してくださいといっているようなものだ。

「どこかで会って話そう」

「盗聴の心配なら大丈夫ですよ」


 神谷の考えを読んだように冥加は言った。もう一度、舌打ちをした。


「俺はひとりで動いている。一度に不特定多数の人物を把握するのは難しい」

「大丈夫です。宮田を見張っていれば、それと分かるはずですから」

「よく分からない。妙な動きとは具体的にどういうことだ。薬を宮田に渡すとか?」

「薬?」


 冥加は疑問調で聞き直した。


「いや、例えばだ」


 神谷は何事もなく言った。


「そうですね。ま、もしそれが起これば分かりますよ」


 冥加は小馬鹿にしたような感じでいった。

 

 何を隠している? 俺に何をさせたいんだ。

 やはり宮田には何かがある。神谷は確信した。そして、この冥加にもだ。ただ、そこに踏み込めば危険だという匂いもある。


 神谷が考えているうちに電話は切れていた。煙草を吸いたいのを我慢した。部屋では臭いが残る。

 携帯をポケットに戻し、辺りを見渡した。形跡を遺さないように調べたつもりだが、念のためにもう一度あたりを見渡して変化がないことを確かめた。 

 靴を履き、廊下を素早く見渡してから外にでて、ノブに鉄の鉤を突っ込み、元通りに閉めた。


 

 昼前には、宮田が勤めているオフィスが入っているビルの前に戻った。

 昼になると宮田は近くのコンビニで弁当を買って、オフィスに戻っていった。誰かと会うことも無かった。

 神谷は近くの茶店を点々として、宮田が仕事が終わるまで時間をつぶした。その間も、オフィスが入っているビルの、人の出入りには目を離さなかった。


 冥加が言っていたのは、ファミレスであった男の事だろうか。神谷は考えた。


 宮田にケースを渡したのはなんだったのだろう。わざわざ会社を休んでまで受けとったのだ。

 昨日の宮田の行動を見ると、街をただ彷徨くついでに、あの男に会ったとも考えられない。

 あの男に会う、もしくはあの薬を受けとるのが目的だったのだろう。

 それとも両方か。それほど重要なものなのだろう。あの薬はなんなのか。 


 残業が無かったのか、宮田は定時にはビルから顔を出した。同僚の飲みの誘いを笑顔で断って、宮田はひとりになった。

 誰かに会うのだろうか。神谷は店を出て、宮田の後を付けはじめた。宮田だけにじゃなく、辺りにもいつも以上に注意を払いながら歩いた。もしかしたら薬を渡した人間、もしくわ冥加がいっていた妙な動きをする人間が近くにいるかもしれない。


 今日の宮田は立ち止まることなく、素直に目的の場所へ目指しているようだった。

 電車に乗り、降りる。


 いつの間にか記憶にある場所に出ていた。昨日、宮田が徘徊していた場所だった。神谷は、宮田がどこに向かっているのか見当がついた。昨日の一軒家の場所に向かっている。表札を見ていた家だ。


 予想は当たった。宮田はあの家に向かっている。

 あの家になんの用があるのか。誰かいるのか。

 神谷は昨日、表札を確認していた。[水澤]という名だった。水澤というのが、昨日会っていた男だろうか。


 水澤家に向かっていた宮田が急に立ち止まった。そして、また囁き声を聞くように耳を澄ました。そして踵を返して元の道を戻り始めた。


 神谷は距離を取ってつけていたために慌てることはなかった。田宮が踵を返しきる前に身を隠し、通り過ぎるのを待った。そして再び宮田の後を付け始めた。


 どうしたんだ、急に戻ったりして。何か考えが変わったのか。

 神谷の疑問とは裏腹に、宮田の足取りは迷いがないように見えた。そして表通りから、見えづらい位置にある路地裏に吸い込まれてた。


 あんなところに入って何をするつもりだ。神谷は疑問に思った。

 宮田が隠れるように路地裏に消えると、向かいから高校の制服を着た男がやってきた。

 その男はゆっくりした足取りで、宮田がいる路地裏に差しかかった。


 その時、巨大なアリクイが舌を出すように、闇から腕がにゅっと伸びて、高校生の男を路地裏に引きずり込んだ。


 「なっ!」


 神谷は思わず声を漏らした。

 宮田が高校生を襲った? 何をする気だ。


 神谷が路地裏に駆け寄ろうとした。しかし向かいの道筋に人影が見えた。

 舌打ちして、神谷は身を翻して、闇に紛れた。



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