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俺の子が産みたいんですかー?

 

 その日の夜、王城の一角にある王族の私室の扉が大きな音を立てて開いた。

 扉近くにいた守護団員の手を借りずに部屋の主が扉を開けたのだ。


「あっ、殿下お帰りなさい。休暇は……」


 ギロリと睨まれ、侍従である彼の遠縁であるリアンは口を噤んだ。


(相変わらず凄んだ顔、怖ぇぇぇ! あれ、でも……)

「気分転換にはなったようですねー」


 綺麗に整えられたソファに身を投げ出すように座った主に、彼が好きなグリーンティーを淹れる。

 香り立つ匂いは紅茶とは違うどこかホッとするものを感じる。

 ちなみにこれ、中立国ツルバキア皇国の特産品である。

 リアンはこれより断然国産の紅茶が好きである。


「ほぼ丸一日池を見ていただけだがな」

「ええ!? 丸一日池を!? どうして城下とか花街とか行かないんですか! 俺が殿下を外に出した目的は池の観察のためじゃないんですよ!?」


 朝一番に主であるアンゲロス殿下を外へと放り出したのは他でもない自分だが、そこには働き詰め戦い詰めの体を思っての気持ちがあってのこと。

 本人は若くて体力もあるし、殊更生活に気をつかっているタイプだから滅多なことでは体調を崩さないので休みをとろうとしない。

 それでは体はともかく心が休まらないのではないかと、リアンは陛下と相談し、隔週は丸一日王城から外へ出して強制的に休ませようと決めたのだ。

 本人には事後承諾となるのだが。


「城下は何度か視察に行っている。定期的に報告をあげさせ、目を通しているから足を運ぶ必要がない。花街に興味はない。あったとしても論外だ」

「ええ、今の子は結構レベル高いですよー?」

「お前、仮にも王族の端くれだろう。変な女に責任とれと言われても知らんぞ」

「それこそしっかりしたプロを選んでるんでご心配なく!」


 そういう問題じゃないのだが、忠告はしたのでこれ以上は何も言うまい。


「殿下、それで御世継ぎとか大丈夫なんですかー?」


 アンゲロス殿下は次期国王であり、即位の日も見えてきたにも関わらず婚約者は疎か、身分差の恋人すらいない。

 それもこれも彼の性格が大きい要因となっていて、なんと女性嫌いなのだ。

 理由は母親、つまり現王妃が派手好き高飛車浪費癖ありの典型的な高位貴族の貴婦人だからである。

 その傍若無人ぶりを間近で見ていたアンゲロス殿下は幼い頃から極度の女性嫌いとなってしまったのだった。

 それにしてもこの歳まで育てば女性がそういう人ばかりではないということは少しくらい知っているはず、それでも婚約者探しを先延ばしにしているのは……。


「殿下、もしかして俺の子が産みたいんですかー?」


 なんて言ってみれぱ、冷静なツッコミが返ってくる。


「最前線に送ってやろうか?」

「無理です、即死んじゃうので勘弁してください」


 現在は睨み合いに留まっているにしても帝国との最前線は非戦闘員からしてみれば死ねと言われているのと同然である。

 熟練の騎士たちでさえ命の危険と隣り合わせなのだから。


「まぁ、半分冗談な話は置いておきまして」

(半分なのか)

「殿下もそろそろお相手を見つけなきゃですよー。今の戦線が落ち着いたら日取り決めるんですよね?」

「直系王族であれば俺の子でなくとも構うまい。弟の子を養子にとればいいのだからな」

「えぇ……。陛下は殿下の御子が見たいと思いますけど」


 アンゲロス殿下には仲の良い弟王子殿下がおり、先日王国内の高位貴族との結婚をしたばかり。

 たしかに弟王子殿下も王妃殿下の実子であるので直系王族といえるし、彼ならば兄殿下に養子を出すのも拒否しないだろう。


「妃がどうしても必要になれば余計なことは言わない、聞かない、やらない奴を選ぶ」


 なんともまあ夢もロマンもない言い方をする。

 女性嫌いさえなければ文句なしのお人なんだけどなぁ、とリアンは内心思う。


「そんなこと言いつつもそのうち運命のお相手が見つかりますよ、きっと」

「お前が言いそうなことだ」

「頭お花畑とか言いたいんですよね? 酷い殿下、ひどーい! ……ごほん、そうじゃなくて。俺はそういう予感がしてるってだけですー」


 リアンの言葉をスルーしつつ、アンゲロスはグリーンティーを飲む。

 その姿を何気なく見ていたリアンはあることに気がついた。


「あれ、殿下。やっぱりなんか朝よりスッキリした雰囲気してますねー。池見てるだけでもそんなに気分変わるものなんですねー。アロマセラピー的なやつかな?」

「それは植物だ」

「あ、じゃあ違いますねー。殿下に池を見て癒される癖があったなんて驚きですー」

「はぁ。それでいい」

「あっ、面倒臭いからって適当に流された。ガーン……」


 ショックを受けているリアンは放っておいて、そんなに気が抜けているように見えるのだろうか。

 アンゲロスはくるりと肩を回してみるが、特に変わった様子は感じられない。

 どうせまたリアンの適当なセリフと態度による指摘だと考え、アンゲロスは今日一日手をつけさせてもらえなかった仕事に手をつける。


「……?」


 気のせいか、いつもより思考が速く回る気がする。

 これならいつもの二倍は速く仕事ができる、とアンゲロスは次の書類に手を伸ばしたところでリアンに書類を全て取り上げられるのであった。


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