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騎士団・守護団

 

「カルセオラリアちゃん、今日もうちの娘をよろしくね!」

「ご機嫌よう、ピートさん。本日もよろしくお願いします」


 カルセオラリアが勉強を教える子は裕福な商家に住む女の子で、この女の子は将来この家を継ぐために勉強をしているそう。

 たまにその子の妹にも簡単な勉強を教えていて、賃金の代わりに生活用品を貰えることができるので大切なお勤め先だ。


「せんせぇ、きょーもよろしくおねがいします!」

「はい、よろしくお願いしますね」


 今日はその小さな妹さんもお勉強をする日らしい。


「それじゃあ、今日は王国を守ってくれている二つの組織について学びましょうか。ランちゃん、分かるかしら?」

「うん、わかるよ! えっとねー、騎士団と守護団!」

「はい、正解です。じゃあリンさん、それぞれの特色や違いについて答えられますか?」

「はい。王立騎士団は王国に仇なす者を滅ぼす剣としての役割を担っており、主に王国内全域の管理・防衛をしています。一方で王立守護団は王を守る盾としての役割を担っており、主に王城内を守備しているため、少数精鋭が基本です」


 きちんと要点をおさえて特色や違いを覚えていている。

 予習をしてきたからこその答えだろう。


「さすがだわ。それじゃあちょっと難易度を上げて……両団の団色と意味は言えるかしら?」


 リンは少しだけ言葉に詰まった後、自信なさげに答えていく。


「騎士団は情熱・闘志の赤と純潔・清浄の白、だったはずです。守護団は沈静・清涼の青と黒だと思うんですが、意味を忘れてしまいました」

「いいえ、まずはそこまで覚えられていることに自信を持ちましょう。黒は不可侵の黒という意味をもちます。これは王を何者からも守るという意味が込められているそうです」

「すっごい、かっこいいねー! わたしもなれるかなぁ?」

「もちろん可能性はあるわ。どちらも身分関係なく入団試験が受けられますから」

「ランは私の補佐をしてくれるんじゃ」


 妹が守護団になりたいと言い出したことに焦るリン。


「おねえちゃんのおてつだいもするよ? でも守護団にもなるー!」

「あらあら。じゃあ、まずはお行儀よく座らないとね」

「はーい!」


 ちょこんと手を揃えた姿勢に座り直している姿がとても可愛らしくて、思わず自分の弟妹たちの姿が思い浮かぶ。


(みんないい子でお母様の看病をしていてくれてるかしら)


 働ける年齢になっている弟妹は全員日中は働きに出ているけれど、まだ働けない弟妹たちは家で床に伏せている母を看病してくれている。

 母の病気は高額な治療費があれば完全に治せる病気と、今のかかりつけ医から聞いている。


(お母様の病気もきちんと治してあげたいけれど、そのためにはもっと高額のお仕事を探さないといけないわ。でも、そういうお仕事は大抵長期間家を空けなければならないものばかり。あの子たちがまだ小さいうちはできないわね)


 せめて遠方で出稼ぎしてくれている父が帰ってくれれば、と思うが父も借金返済のために漁船に乗っているのだ、今は難しいだろう。


(今はできることから一つずつ着実にこなしていきましょう。家族がご飯を食べられるだけでもまだ幸せだわ)


 遠い遠い地ではご飯すらまともに食べれない人たちもきっとたくさんいる。

 帝国との国境付近に暮らす人々はいつ戦場になるかもしれない恐怖とともに暮らしているのだ。

 それに比べれば自分たちは幸せな方だろう。


「せんせ、せんせぇ!」


 肩を叩く小さな手が、カルセオラリアを思考の海から引き戻す。


「あ、あら? わたしったら考えごとをしちゃってたのね、ごめんなさい。なにか聞きたいことでもあるの?」

「んーん、ちがうよ」

「?? じゃあ、どうかしたの?」

「先生、家庭教師の時間はとうに終わっています。先生も終わりと号令をしてくださったはずですが」

「え?」


 教え子の言葉にバッと壁時計に目をやれば、なるほど家庭教師の時間はとっくに終わっているし、なんなら終了から三十分も経過している。


「せんせぇ、げんきないの? だいじょうぶ??」


 小さな妹さんの方がカルセオラリアを心配してくれる。


(こんな小さな子に心配させてしまうなんて、しっかりしないと)

「大丈夫よ、ありがとう。ちょっとだけ考えごとをしていただけ。それじゃあ、わたしは次のお仕事があるからまた今度ね、ご機嫌よう」


 次のお屋敷清掃の時間が迫っていている。

 カルセオラリアは遅刻してはいけないと慌てつつも、教え子らの手本になるように最低限の優雅さは保ったまま足早に商家を後にした。


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