輪廻の先に何を見る
ソレは、暗い空間に存在していた。
ソレは、とある一点を観察していた。
ソレが観察しているそこには、六つの階層からなる1つの世界があった。
ソレの目には、その世界の生命の営みが映っていた。
生まれ、生を謳歌し、死に、そして転生する。
その営みを、ソレはただ一心に見ていた。
その営みは、ソレの目には水面に浮かび、消えゆく泡沫のように映った。
見るものが見れば、方丈記の「淀みに浮かぶ泡沫はかつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」という一説を思い浮かべたことだろう。
しかし、ソレはそのようなことは知らない。
ただただ幼子の好奇心のように、ソレをみていた。いや、事実幼子なのだろう。ソレは人々の信仰によって生まれた、新たな神なのだから。
ある時。ソレはとある1つの魂に目をつけた。
その魂は他の魂と違い、上から3つ目の階層に存在する世界――ややこしいので小世界と呼称することにしよう――をずっと巡っていた。
別に他の小世界に行けないという訳では無い。ただ単に、その魂が望んでその小世界に留まり続けているのだ。
なぜその魂が目にとまったのかは分からない。
しかし、ソレはその魂に興味を持った。故に、声をかけたのだ。
「お前は何故、他の小世界へ行くでもなく、そこに留まり続けるのか」と。
その魂は答えた。
「それが、俺の生き様だからだ」と。
ソレには意味がわからなかった。生き様とは何か。そして、なぜ生き様にこだわって同じ世界を廻り続けるのかが。
三階層目の小世界は戦ばかりの世界だ。魂たちは、この世界を修羅道や修羅界と呼ぶらしい。一階層目、二階層目に比べると生きるにはかなり厳しい世界だ。
そのような世界に生き様というものを見出す。
その考えが、ソレには分からなかった。故に、観察することを決めた。
観察を決めた次の生を1周目と呼称しよう。
1周目の生。
刀剣類に才能があったのだろう。
幼い頃から剣の修練に励み、15で初陣。
その後、20で子を成し、35で戦で殿を務め、多勢に無勢で戦死。
2周目の生。
やはり刀剣類に才能があったようだ。
幼い頃から刀の修練に励み、13で初陣。
その後、18で子を成し、38で戦死。
3周目
2週目とあまり変わらぬ生だった。
17で初陣、22で子を成し、29で戦死。
ソレはなんの意味があるのだろうかと、思った。
ただただ、生まれ、子を成し、戦で死に、転生する。
それを繰り返すことに、なんの意味があるのだろうかと。
それでもソレは観察を続けた。
15周目
個々人の資質は魂によるものなのだろうか。これまで刀剣類以外を使った生は1度しか無かった。
この生も結局戦死した。
20周目
この生は珍しく弓を使っていた。
弓にも適性があるのだろうか。4本同時などのトリックショットを連発していた。
しかし、結局戦死。
30周目
やはり刀剣類を持つと動きがいいように見える。
しかし、やはり戦死。
この頃になると、ソレは「戦死することが目的なのではないか」と思い始めた。
しかし、その考えは死ぬ直前の行動で違うと悟った。死を、回避しようと戦うその姿は鬼気迫るものがあった。
まだ死なぬわけにはいかない、まだ死ねない。
そのような顔をして剣を振るっていた。
ソレは、疑問を持った。
何故、そこまでして戦いの中に身を置くのか、と。
故に再び尋ねた。
「なぜお前は戦いの中に身を起き続けるのか」と。
魂は答えた。
「それが俺の生き様だからだ」と。
ソレは更に尋ねた。
「生き様とは何か」と。
魂は答えた。
「俺の中にあって、誰にも変えられない。俺の信条のようなものだ」と。
そして、魂は再び転生していった。
だがソレは、その言葉の意味を理解出来なかった。
いや、正確には理解はした。しかし、その真意が分からなかったのだ。
故に、観察を続けた。
50周目
一騎討ちで敗死。
60周目
四方を囲まれ、物量による敗死。
100周目
戦にて千騎を屠殺し、力尽き死亡。
200周目
敵中で暴れ、三千騎を屠るも敗死………………。
どれほどの時が流れただろうか。
1周目から換算して、人間の時間にしておよそ7000年。200周目を超えた。
そしてソレは、その魂の「生き様」をなんとなくだが理解した。
そして、ソレは答え合わせをしようとし――やめた。
答え合わせをするのは、その魂を冒涜することだと思ったから。
故に、ソレは観察をし続けることに決めた。
その魂を理解するためではなく、その魂の行く末を、生き様の行く末を見守るために。
「彼」の『生き様』とは、一体なんだったのでしょうか。
是非感想などで皆様の忌憚のない意見を教えてください。
この質問には、これが正解だ!という答えはありません。皆さんの解釈が全て正解なのです。
作者の私でさえ、書きながら考えました。
皆様の考えた「彼」の『生き様』を教えてください。