第8話 お姫様と宿屋に泊まる無駄使い2
「ミルルちゃん!? 三人で寝るって、どうして……」
「カヤ様が真ん中なのです! 左右をミルルたち兄妹が挟むのです!」
「意味が分からない。そんなの眠りにくいだけじゃないか」
「いいですかお兄様! カヤ様は心細いのです! 住んでいたお城を一人飛び出して命も狙われて……寂しいのです怖いのです!」
「ミルルちゃん……」
だから三人で寝る、という発想に至るのはカヤには驚きだが、心細いのも寂しいのも怖いのも事実だった。
だけどそれは口にすると弱音になる。心が弱くなる。
今は認めてしまうことはできない、当然、誰にも言えない感情であった。
「それならお前とカヤが一緒に寝ろよ。僕は必要ないだろ」
「いえお兄様。昔の人が言っているのです。一人より二人がいい、二人より三人がいい。と」
「知らん。誰の言葉だ」
「とにかく! お兄様は効率とか手際とかを優先しすぎなのです。相手が本当に求めているものや気持ちを汲み取るのです!」
「……そういうものか」
「きゃ、キャズマ?」
「わかった、僕も一緒に寝よう」
「ええええ!?」
「三人で寝るには狭いが、まぁ眠れなくもないだろう」
「なのです!」
「えええ、ちょっと!?」
「早くベッドに入ってよ。カヤが真ん中なんだから。」
「いや、ですが、キャズマは……一緒に、その、寝て……私を護るのに支障はないんですか!?」
「支障はないよ」
別々の方が護るのに楽というだけだ。
そうキャズマは付け加えた。
「わ、私! お風呂に入ってきます……!」
予想もしていない展開。
この宿は部屋に風呂が備え付けてある。汗を流しながら少し冷静になろう。
「ではミルルもカヤ様と一緒にお風呂に入るのです!」
ふおおおおおおおおおおおお!?
「それはいい。カヤを護るためとはいえ僕は風呂までついていけないからな」
「そんなの当たり前なのですお兄様!」
「あ、その、ごめんなさい! 私、お風呂は一人で入りたい派なので!」
「……わかった。じゃあミルル、風呂の入口で見張るんだ。何かあったらすぐ僕に知らせろ」
「はいなのです!」
ふう――――!!
何とか風呂は一人で入ることができた。
ミルルはカラダも絶対にキレイだ。肌も美しいに決まっている。
お風呂に一緒に入ったらさすがに直視できない。いや見たいけど。もちろん見たいんだけど。
肌触りはどうだろうか。触れたら手を離せなくなるかもしれない。耐えられない。触りたいけど耐えられない。
髪は……一緒に洗い合ったりして……何それ幸せすぎる。
無理だ。ミルルと一緒に風呂に入るなんて色々なものが耐えられない。
カヤは風呂でも悶々としていた。
ていうかベッドの時も一人で寝たい派といえば何とかなったのではないか!? と今さら思った。
その後ミルル、キャズマと風呂に入り、ついに就寝の時がきた。
「カヤ様! 早くいらしてくださいなのです!」
「ふぁっ!?」
ミルルがすでにベッドに入っていた。
それだけで「ベッドに入る」という行為の難易度が一気に跳ね上がる。
さっきまではただのベッドだった。ただの寝具、ただの家具だ。
しかし今は「美少女が寝ているベッド」に入るのだ。
これは相当ハードルが高い。
そもそも誰かと同じベッドで眠るなど経験したことがない。
人生の初体験がいきなり美少女とである。
「ふ、ふひっ!」
また変な声が漏れてしまった。
ミルルは掛け布団から半分だけ顔を出してカヤを見ていた。
顔が半分しか見えていなくても可愛い。それが美少女というものである。
こっ、これをめくるのか……!
カヤはゴクリと喉を鳴らすと、掛け布団に手をかける。
「で、では失礼して……」
「どうぞなのです!」
ふおおおおぉぉぉ!!
無理ぃ! 無理だよこれ!!
この中に入るの無理だって!
ミルルの顔も声も可愛すぎて、カヤは掛け布団を中途半端にめくったまま固まる。
「何やってるのさ。早く入りなよ」
「ひゃっ!」
キャズマが強引にカヤの体を押し込むようにベッドに入った。
よろけるカヤの体をミルルが支えてくれて、気が付けば三人並んでベッドインしてる。
「……」
カヤはどうしたものか困ってしまい、とりあえず天井を見上げている。
ベッドが狭いので身動きが取りにくいというのもあるが、左に美少女、右には今日初めてお会いした男性。
なんだこの状況は。どうしろというのだ。
カヤはちらり左側を見た。
ミルルはカヤの方に顔を向けていた。
満面の笑みだ。
「ミルルちゃん……な、なにか?」
「カヤ様と一緒のベッドで眠れて嬉しいのです!」
うっ、笑顔がまぶしい。
邪気も悪意もない、天真爛漫の笑顔。なんという美少女っぷり。
今度は右側を見る。
キャズマはこちらに背を向けていた。
大きな背中だ。これだけでカヤは男性というものを意識せずにはいられない。
「お兄様! なんで背中を向けているのです?」
「は? どちらを向いていても別にいいだろ」
キャズマは顔を軽くこちらに向けて答える。
「よくはないのです! カヤ様の方を向いていいないと何かあっても気付けないのです」
「ちょっ、ミルルちゃん!?」
「……まぁいいだろう」
「ええええ? ちょ!?」
器用に寝返りをうつとカヤの方を向くキャズマ。
キャズマも整った顔立ちをしている。さすがにミルルの兄である。美形兄妹だ。
だが今は美醜は問題ではない。
男性の顔がこんな近くにあるという事実がもうカヤには理外なのである。
のぉぉぉぉ!! なんだこれ!
カヤは完璧に動けなくなってしまった。
左右どちらを見てもキャズマかミルルの顔。
「ふふっ、おやすみなのです。カヤ様、お兄様」
「ああ、おやすみ」
ね、眠れるかぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!
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